ストーカーに間接キスをさせないで!
「……」
お昼休憩中、一人寂しくご飯を食べている彼女の視線に気づいてないフリをしながら俺はクラスメイトと机をくっつけて食事をとりはじめる。
うーん、彼女って友達いないんだろうなあ、多分。誰かと仲良さそうに会話しているとこ、見たことないし。
それどころか、彼女の声を聞いた記憶がない。自己紹介の時は声が小さすぎて聞き取れなかったし。
ま、彼女の心配もいいけれどそれよりお腹が空いたよ。カバンからコンビニで買ってきたおにぎりと野菜ジュースを取り出す。
「なんだそれ、まずそうな野菜ジュースだな」
一緒に飯を食ってる友人が俺の取り出した野菜ジュースを見て苦そうな顔をする。
「苦いけど、すんげえ栄養にいいらしいぜ」
答えながら野菜ジュースにストローを刺す。
両親が修行の旅に出てしまい、一人暮らしとなった俺の食生活はお世辞にも良いとは言えない。
だからこうして野菜ジュースなどで栄養補給をしないといけないのだが……
「ま、まず! 無理、これ無理だわ」
一口飲んで、すぐにむせる。
何だこれ、苦いとかそういう次元じゃない。
原材料名を見てみると、まーケールだのほうれん草だの苦そうなのがいっぱい。
こんなもん飲んだら体は健康になるかもしれないけれど、心を害しますわ。
そんな訳で飲むのを諦めた俺はゴミ箱へ野菜ジュースを入れようとし、
「……」
野菜ジュースをみつめている彼女の視線に気づき、いい事を思いつく。
俺は自分の机から、教室の後ろにあるゴミ箱へ向かって野菜ジュースを投げる。
ただし、ゴミ箱に入らないように。
もっといえば、ゴミ箱に入らずにはねかえり、ゴミ箱から一番近い、彼女の椅子の下に野菜ジュースが転がるように。
「……!」
椅子の下に俺が口をつけた野菜ジュースが転がり込んできた彼女は、三秒ルールと言わんばかりに素早くそれを取ってカバンに仕舞う。幸い彼女の席は端っこだし、一人でご飯を食べていたので誰にも気づかれなかったようだ。……俺以外には。
すぐに彼女はカバンを持って教室を出て行く。
「あ、俺便所」
俺も教室を抜け出して彼女を追う。やれやれ、これじゃ俺がストーカーだよ。
「……♪」
彼女は空き教室へと入って行った。扉の隙間からこっそりと俺は中を覗く。
彼女はカバンから野菜ジュースを取り出して、嬉しそうな顔をする。可愛いなあ。
そして彼女はストローに口をつける。間接キス成立だ。
「……! けほっ、けほっ」
しかし中身を飲んですぐに彼女はむせてしまう。だよね、すごく苦いもんね、それ。
俺同様に一口でギブアップしてしまった彼女は教室を出て行こうとする。おっと、隠れなきゃ。
教室を出て行った彼女はそのまま水飲み場へ行き、口をゆすぐ。
だよね、すごく苦いもんね、それ。しかも口の中に後味が残るもんね。
クラスへ戻って行った彼女を見送りながら、ふと思い出す。
……そう言えば彼女、空き教室に野菜ジュースを置いて行ったままだな。
確認のために中を確認すると、やはり野菜ジュースが席の1つに置かれていた。
ちゃんと片付けなきゃダメじゃないか、と彼女を心の中で注意する一方、
そういえばこれに口をつけたら俺も間接キスだなと考える。
「苦いっ! げほっ、げほっ」
学習しない俺はまたもやむせてしまった。