また、あえて。
「っ……」
抱きしめる腕が、小刻みに震えている。
「ご、めん……」
声がかすれ、上手く音を出せていない。
「……ごめん…」
堪えていたものが限界を迎えたように、嗚咽が漏れ、彼の目から止めどなく涙があふれた。
あの日、守れなかった後悔。
自分をひたすら、ずっと責めていた。
もう二度と会えないと、激しい感情に蓋をし続けた百二十年。
そのすべてが、音を立てて崩れ落ちる。
澄は、何も言わず、その顔を見つめていて——
やがて、小さな前足をそっと持ち上げると、万の閉じた瞼へ優しく添える。
「…神技、使ったの?」
彼の気持ちは、聞かなくてもわかっている。
そんな、優しい声色。
想羅は、その問いに、項垂れるように顎を引いた。
澄の瞳に溜まっていた雫も、ついに頬を伝った。
「大丈夫よ。万のせいじゃないんだから」
見えていないとわかっていても、澄は微笑む。
そして、背伸びをするように顔を寄せ、小さく頬へ口づける。
想羅は、もう二度と離すまいとするように、澄の肩へそっと顔をうずめた。
「さて……」
その様子を見守っていた維深が、ふっと笑う。
「積もる話もあるだろうし、とりあえず座ろうか」
「そうね」
澄が振り返り、笑って応える。
「今日は天気もいいし、日向ぼっこでもしながら話そう。……少し、長くなるだろうからね」
維深は近くにあった扉から外へ出ると、軽く手を振る。
すると、陽だまりの差し込む場所へ、大きな木の食卓と椅子が、まるでそこにあるのが当たり前だったかのようにすっと並んだ。
「好きなところへ、どうぞ」
その一言に促され、私たちは自然とそれぞれ席についた。
想羅もまた、澄を抱いたまま、ゆっくりと椅子に腰を下ろす。
腕の中の温もりを確かめるように、そっと抱き寄せながら。
澄も答えるように身を預け、小さく目を細めた。
維深は、慣れた手つきで茶葉を急須へ入れる。
背後から、お湯を注ぐ音が響いてくる。
ことり、と蓋が閉じられた。
外の空気は穏やかで、風が木々を揺らす音と、湯気の立ち上るかすかな気配だけが、その場に満ちていた。
やがて、湯呑みが一人ひとりの前へ置かれる。
「ありがとうございます」
「気にしないで」
ふわりと、立ち上る茶葉の香り。
「澄」
想羅が腕の中の澄を、そっと抱き寄せた。
「何があったか…聞いてもいい?」
その声はどこかためらいを含んでいて、踏み込みすぎてしまわないかと、様子をうかがうようだった。
澄は想羅を見上げ、やわらかく目元を緩める。
「……そうね」
どこか懐かしむように微笑むと、ゆっくりと顔を上げた。
「何から話そうかしら」
その続きを待つ間、私は、再び会うことができないと思っていたであろう、想羅の気持ちを想像していた。
だからこそ、二人のこんな表情を見られて、本当に良かったと思う。
心の奥底から、浮かび上がった想い。
時雨と焔もまた、幸せそうな幼馴染の姿を見つめ、ほっと息をつく。
あれほど張り詰めていた表情は、もうどこにもなかった。
ようやく訪れたこの時間が、いつまでも続きますように。
私は、そっと空へ願った。




