ないす、こう。
「え、えぇ?恒くん…あの回復魔法を、使えるんですか?」
最初に口を開いたのは、美音だった。
「はい…」
恒は、困ったように目を逸らす。
「初耳なんだけど?!」
焔が、勢いよくリアクションする。
「いや、その……使うこともないし、言う機会もなくて…」
照れ笑いを浮かべながら、恒は頭を掻いた。
「え?というか、なんで使えんの?!」
焔の勢いは止まらない。
「信さんの家にお邪魔したときに、みんなで図書館で遊んでて」
(図書館で遊ぶんじゃないよ)
あまりにも自然に言うものだから、思わず心の中でツッコミを入れてしまった。
「始まりの魔法使いの魔法書があったから、載ってるのを少しずつやってたら、なんかできたんだよね」
恒は照れるわけでも、自慢するわけでもなく、本当に何気ないことのように笑った。
「『なんかできたんだよね』じゃないから!!そんな簡単にできるもんじゃないから!!え?! 俺たちの息子、天才?!」
勢いよく立ち上がった焔は、恒の口調を真似しながら勢いよく振り返る。
「父さん…声でかい」
恒は思わず耳を押さえ、「うぅ……」と小さく身を縮こませた。
「落ち着いて」
焔の肩へそっと手を添え、燎華が静かに制した。
「はい…」
焔は素直に腰を下ろした。
(さすが…!)
ある意味マイペースな焔を、一言で大人しくさせられるのは、どの世界を探しても燎華だけだろう。
「けど、天火さんが、取り乱すのもわかります…!だって、始まりの魔法使い以来、誰も成しえなかったんですよ?!それが、こんな近くに、いるなんて…」
いつも明るく、動じない美音でさえ、困惑を隠せない様子だった。
「確かに驚きではある。だが、できるのなら話は早い。恒、本当にできるんだな?」
時雨がまっすぐ恒を見据える。
恒は慌てて背筋を伸ばし、「はい!」と返事をした。
そのやり取りは、どこか師弟のようだった。
「どこまで神気を、回復させられそうだ?」
「そうですね…」
時雨の問いに、恒は首を傾げながらしばらく考え込む。
「…使ったことないので、わからないです!」
一瞬の静寂のあと、部屋中に「おいおい……」と言いたげな空気が広がった。
(まっすぐだな)
その素直さが、どこか微笑ましかった。
「とりあえず、やってみます。万さんの神気が、半分以下にならないようにすればいいんですよね?」
恒はまっすぐ時雨を見つめ、確認するように尋ねた。
「あ、あぁ…無理はするなよ」
「はい。僕の神気は少ないので、どこまで保てるかわかりませんが、できる限り、やってみます」
恒は立ち上がると、想羅の前まで歩み寄った。
「失礼します」
そう言って、想羅の肩へそっと手を伸ばす。
「うん」
短く返事をした想羅の表情は、先ほどよりもどこか余裕がないように見えた。
次の瞬間——
どこからともなく風が舞い、想羅の足元に魔法陣のような紋様が浮かび上がる。
淡い緑色の光が、静かに二人を包み込んだ。
「本当に……使えちゃうんだ……」
ぽつりと呟いたのは、美音だった。
あらゆる書物を読み尽くしている彼女が驚くのなら、本当に成功しているのだろう。
やがて緑色の光は静かに消えていき、想羅の額に浮かんでいた冷や汗も引いていた。
「ひとまず、このくらいだと思うんですけど……万さん、どうですか?」
「どうも何も、本当に回復してるよ…ありがと、恒」
想羅は両手をゆっくりと開閉し、体内を巡る神気を確かめるように目を伏せる。
やがて驚いたように目を見開き、そのまま恒へ視線を向けた。
「いえ!この感じだと、あと二回はできるので、任せてください」
恒はぐっと拳を握り、小さくガッツポーズを見せる。
「助かるよ」
張り詰めていた空気が、ようやくほどけていく。
どうやら、また一つ難局を乗り越えられたようだった。
(あとは、澄さんの居場所がわかれば…)
そう願うことしか、今の私にはできなかった。




