つなぎの、たいさく。
「それで、どうだったんだ?」
ひとしきり再会を喜び合い、ようやく場が落ち着いた頃。
時雨が、改めて本題を切り出した。
「うん、間違いなく、澄だね」
即座に、それでいて穏やかな口調で言い切る。
曖昧な返答をすることの多い彼が、ここまではっきりと言葉にするのは珍しい。
だからこそ、その言葉の重みが胸に深く落ちてきた。
「!!」
声にならない歓喜が胸いっぱいに広がる。
時雨は何も言わず、そっと瞼を閉じた。
穏やかに綻んだその表情が、何よりも彼の喜びを物語っている。
「ほんとですか?!やったぁ…!」
美音は嬉しさを隠しきれないまま、隣に座っていた凩へ飛びついた。
(すごい…!凩さん、一切取り乱してない……!)
そんな美音を受け止めながら、凩は優しく目尻を下げる。
「よかったね、万」
その穏やかな笑みには、確かな安堵が滲んでいた。
一方で、恒は静かに息を吐き、張り詰めていたものがほどけるように肩の力を抜く。
「……よかった。」
恒は静かに息を吐く。
張り詰めていた空気が、その吐息とともにほどけていくようだった。
「ぐすっ…」
焔は堪えきれないように涙を流し、燎華もまた、静かに頬を濡らしている。
「えぇ?!大丈夫ですか…」
(焔さんまで…)
慌ててハンカチを燎華へ差し出す。
「翠ぢゃん…俺の分はないのね」
「すみません、一枚しか持ってなくて」
(確かに、どう見ても、焔さんのほうが、ハンカチを必要としているような…?)
「泣きすぎだよ」
想羅は、どこか嬉しそうにしながら、焔にティッシュを渡す。
「逆探知は、まだ続いているのか?」
今回も、彼が話題を戻す。
「うん。まだ境界を越えてないみたいだね」
「そうか…神気はどのくらい残ってる?」
見透かしたように、時雨は想羅を見つめる。
「……」
表情はいつも通りなのに、よく見ると、額や首筋には汗が滲んでいた。
「万」
時雨が少しだけ語気を強め、返事を促す。
「大丈夫だよ。まだ、あと一割は残ってるから」
「一割?!」
咄嗟に声を上げたのは、焔だった。
あまりの衝撃に、涙さえ引っ込んだようだ。
その場にいた全員の顔から、さっと血の気が引いていく。
私には、それがどれほど深刻なことなのかはわからなかった。
ただ、大丈夫ではないことだけは、伝わってきた。
「あと、どのくらいの時間もつんだ?」
彼は責め立てることなく、常に活路を探している。
「二十分……かな」
「わかった」
彼は、そこで口を閉ざした。
どうすればいいのか、考えていることは明らかだった。
誰もが、彼の次の言葉を待つ。
「…信、俺の神気を信に渡すから、それを万に流してくれ」
「!わ、わかったよ」
二人は、間髪入れず互いへ手を向ける。
先程よりも淡い、青みがかった光が灯った。
そのまま凩が、想羅に手を差し出す。
「万、早く…!時雨は、僕よりも神気量が多いんだ。すぐに上限が来る」
「う、うん」
仄かな光を眺めながら、ふと思う。
(そのまま渡せない理由でもあるのかな?)
三人とも眉間に皺を寄せ、張り詰めた表情を浮かべている。
そんな疑問を口にできるはずもなく、何事もなく終わることを願うしかなかった。
しばらくして、三人の手が離される。
「ごめんね、二人とも、ありがとう」
二人は、同時に頷いた。
時雨は、その先に備えるように、一点を見つめたまま動かない。
そこで、想羅が私へ視線を向ける。
「どうして、しーくんから直接オーラを渡せないのか……だっけ?」
まさか拾われるとは思わず、背筋がぴんと伸びた。
「あ、うん」
「神が七人いるのは知ってるよね。想、風、雨、炎、光、影、地。この順で円環の関係性を持っているんだ。僕だったら、両隣は地と風。この二人からは神気を移しても問題はない。性質が近いからね。けれど、それ以外の神から直接受け取ると拒絶反応が起きてしまう。だから間に凩がいないと、しーくんからも焔からも神気は受け取れない。逆も同じだね」
「なるほど。ありがとう」
説明が終わる頃、俯いて考え込んでいた時雨が、顔を上げた。
「神気が切れないようにするには、どうしたらいい?」
「地の神は、今いないだしね~」
「う~ん……」
みんなが頭を抱える中、美音がぴょんと立ち上がる。
「神気を渡せないなら、回復魔法しかないんじゃないですかね?」
そう言いながら、昨日とは違う色の本を机に広げた。
「回復魔法は、始まりの魔法使いが創って以来、誰も成功したことのない魔法といわれています。実際に使っている人も、初代以外では見たことがありません。でも、初代を除いて、歴代最高といわれている皆さんなら、挑戦する価値はあると思います!」
簡潔にまとめられた説明は、私にもわかりやすかった。
「なるほど、そうだな」
時雨が、深く頷く。
「そうなると……俺の出番だね~!みんな神気不足だろうし!任せて!!」
いよいよ挑戦が始まろうとした、その時。
か細い声が、静かな部屋に響いた。
「あ、あの…」
「ん?」
声のほうを見ると、どこか気まずそうな表情を浮かべている恒が、遠慮がちに右手を挙げていた。
「俺、」
その一言に、全員の視線が彼へ集まった。
「使えます。その……回復魔法」
「え……えぇ?!」
想定外の展開に、部屋の空気が、一瞬で固まった。




