表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
君と紡いだ宝物。  作者: 朝凪 紡


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
34/42

しぐれの、けねん。

「なるほどな……」

納得したように聞こえる声は、何かを探しているようにも聞こえた。

「つまり、翠さんの記憶を起点に逆探知するのか」

「そう、さすがしーくん」

想羅は一拍置いて続ける。

「しーくんたちの話を聞いてから、ずっと考えてたんだ。僕は"想い"を辿ることができる。記憶に入り込めば、その時間の世界に干渉もできる。瀬椰さんの夢の記憶にたどり着ければ、その先で何があったかも見れるかもしれない、その猫がどこに帰っていったのかも…」

(なんでもありな世界すぎる……)

私は思わず苦笑した。


そんな私をよそに、美音ちゃんが静かに口を開く。

「理論としては成立しますね」

「成立するんだ……」

「想いを司る想羅さんなら、感情が色濃く残る記憶への干渉は得意分野です。それに、翠ちゃんは神妃…神に限りなく近い存在ですから、記憶へ入り込む際も拒絶反応は起こりにくいはずです」

神が他者の精神へ干渉することは、本来なら極めて危険な行為らしい。

神格という強大な存在に精神が耐えきれず、記憶へ辿り着く前に意識を保てなくなることがほとんどだという。

だけど、神妃は違う。

神の神気をその身に宿し、生まれつき神への耐性を持つため、その危険性は大きく軽減されるそうだ。

「なるほどねぇ、その発想はなかったね」

焔が、感心したように口元を緩める。

「さすが美音ね」

燎華が微笑むと、美音ちゃんは少し照れくさそうに笑った。

「えへへ……」

ぽりぽりと頬をかく仕草に、思わず私まで頬が緩む。

自然と部屋の空気が和らいでいく。

散らばっていた糸が、少しずつ一本へと紡がれていくようだった。


作戦の輪郭が見え始めたことで、みんなの表情にも安堵の色が浮かんでいた。

けれど、その中で一人だけ。

時雨は、今も眉間に皺を寄せたまま黙り込んでいた。

私は気になって、そっと彼の顔を覗き込む。

その視線に気づいた時雨さんは、一瞬だけ柔らかく笑う。

けれど、その笑みはすぐに消え、静かに顔を上げた。

「……方法としては賛成だ」

短く告げる。

その声に、迷いはない。

それでも、どこか言葉を飲み込んでいるようにも聞こえた。

「しーくん……?」

不安そうな声が静かな部屋に落ちる。

彼は、小さく息を吐く。

「…問題は、その先だ」

誰もが彼の言葉を待った。

「記憶を辿り、異世界との境界に干渉する」

淡々とした口調。

だからこそ、その言葉の重みが胸に響く。

「想像している以上に、万への負担は大きくなるはずだ」

少し緩んでいた空気が再び引き締まった。


「成功する保証もない。それどころか、境界に飲み込まれれば、帰って来られなくなる可能性すらある」

誰も言葉を返せなかった。

その危険性は、私にも十分伝わってくる。

重たい沈黙の中、想羅は視線を落とした。

「…無謀なのはわかってる」

ぽつりと漏れた声は、どこか自分に言い聞かせているようだった。

「最初は、すごく迷った。今だって、足元が宙に浮いているような感覚なんだ。何を信じればいいのか、何を選ぶのが正しいのか……まだ答えは出てない。」

一度言葉を切り、息を吸う。

「でも、しーくんと瀬梛さんが言ってくれたよね。もし澄が今もどこかで生きていて、一人で頑張っているかもしれないなら……」

その瞳には迷いが残っている、けれど、その奥には確かな決意が宿っているようにも見える。

「今、僕がやるべきことだけは分かるんだ」

その一言には誰よりも強い覚悟が込められていた。

「しーくんが心配してくれてることも分かってる。だからこそ、危険だと分かっているなら、その危険を減らす方法をみんなの力を借りて、考えたい」

そう言って、微笑む。

その笑顔は、こちらまで泣いてしまいそうになるくらい、儚かった。

「……」

何も言えなくなった彼の拳は、誰にも気づかれないように固く握り締められていた。

彼の拳が誰にも見えないところで微かに震えている。

私はそっと手を伸ばし、その拳に自分の手を重ねる。

強張っていた指先から、少しずつ力が抜けていくのが伝わってきた。


「時雨」

ここまでの様子を見届けていた凩が、口を開く。

「僕も、この作戦が今考えられる最善だと思うよ?」

彼は、優しく微笑みながら続けた。

「万の言うとおり、危険を減らすために、僕たちが集まったんじゃないか」

その言葉には、不安を打ち消すような強かな力があった。

「焔たちは顔が広い。情報収集もできるし、いざという時には誰よりも頼りになる」

不意に褒められた焔が、照れくさそうに肩を竦める。

「僕と美音は文献を調べられる。過去の記録から、今回の助けになれる情報を探せるはずだ」

美音も笑顔で頷く。

「そして時雨」

凩はまっすぐ時雨を見つめる。

「君は、僕たちが気づけない危険を見つけてくれる。いつだって、今だってそうだ」

「…そうだな」

力の抜けたような吐息交じりの返答は、思いのほか早かった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ