幼馴染集合
翌日——
下に降りると、時雨が朝ご飯を作り終えていた。
こちらに気付いた彼と目が合う。
「おはようございます」
「おはようございます。早いですね」
時刻は午前六時半。
今日こそは私がご飯を作ろうと、早起きしたつもりが、見事に完敗。
「仕込みたいものもあったので、早起きしました」
「早起き過ぎでしょ!」と、ツッコミを入れたくなるのを堪えた。
(それに、仕込みって…仕事かっ!)
「ありがとうございます」
非の打ちどころのなさは、もはや神をも超えているように思う。
むしろ、人間の境地のようだ。
「昨日のうちに、焔と信に連絡したところ、神人界だと何があるかわからないから、ここにきて話し合おうということになりましたので、お昼ごろには、来ると思います」
「あ、そうなんですね、わかりました」
彼は両手に持っていたお盆を机に置く。
「お腹は空きましたか?これから忙しくなるかもしれないので、食べれるときに食べておきましょう」
(親かな?)
どこかむず痒い感覚に、居た堪れなくなる。
けれど、彼の素直な誠実さを蔑ろにはできない。
恥ずかしい気持ちを横において、椅子に腰かける。
「ちょうどお腹が空いてきたところです。いつもありがとうございます」
「いつもおいしそうに食べてくれてありがとうございます」
想定外の返しが来た。
(あぁ言えばこう言うんだから…良い意味で)
「いつもおいしいので…」
視線を逸らす。
そんなこんなで食事を終え、片付けも一段落した頃、ドアをノックする音が聞こえた。
コン、コン、コン——
「来たみたいですね」
手を拭きながら、裏口へ進んでいく彼。
私はぎこちなくも、お茶を淹れる。
(焔さんかな?風神さんたちだったら、ちゃんと挨拶しなきゃ)
いつもは唐突に会ってきていたため、会うとわかった状態で神に会うのは初めてだ。
そのせいか、ずっとどこかでそわそわしていた。
「「「「お邪魔します」」」」
(焔さんと……あと、お一人、お二人……四人)
思っていたより人数が多く、私は少しだけ背筋を伸ばしてた。
先に目に入ったのは、クリームがかった淡い緑色の髪をした青年だった。
髪色より少し黄色みを帯びた瞳は落ち着いていて、少し長めの前髪が目にかかっている。
その表情は一見すると淡々としていて、どこか近寄りがたい印象を受ける。けれど、不思議と冷たさは感じない。
初めて見るはずなのに、不思議とすぐにわかる。
(この人が、風神……)
そう思えたのは、彼がまとっている空気が、どこか、風そのもののように穏やかに感じたからだ。
全体的に柔らかな雰囲気をまとい、和を基調とした装いがよく似合っている。
その後ろには焔さんと、その隣に桔梗色の髪をした女性。
そして少し後ろには、赤紫色の髪をした青年が立っている。
女性は、長い髪を一つに束ねていて、瞳と髪の色が焔さんと対になるような色合いだった。
どこからどう見ても、焔の神妃だ。
一方で、最後尾に立つ青年へ視線を向ける。
(……焔さんにそっくり)
兄弟だろうか。
いや、それとも。
(まさか息子さん……? え、神様も子孫残せるのかな……?)
頭の中に疑問符が次々と浮かぶ。
(というか、皆さん美形すぎませんか……眩しくて直視できない)
そこで私ははっとして、反射的に綺麗な四十五度のお辞儀をした。
「は、初めまして。瀬梛 翠と申します。よろしくお願いいたします!」
顔を上げて、勢いのまま言い切った。
生温かい視線が返ってくる。
焔は、口元を押さえて笑っていた。
(そんなにやけなくても…勢いがから回ったのは認めるけれど…)
先程の緊張がここで放出されてしまったらしい。
(穴があったら入りたいとは、この状況のことを言うんだろうな)
客観視していないと、羞恥で気が遠くなりそうだった。
そう思っていると、女性が優しく微笑んだ。
「初めまして。柳 燎華よ。燎華って呼んで。敬語もいらないわ。私も翠って呼ばせてもらっていいかしら?」
(かっこいい…!)
運動部のキャプテンに抜擢されそうな、はきはきとした口調と、すがすがしさ。
お似合いの二人だと、笑みがこぼれる。
「はい…、うん、よろしくね燎華」
続いて二人の後ろにいた、青年が一歩前へ出る。
「僕は天火 恒です。恒って呼んでください。この二人の息子で、五人兄弟の四番目です。よろしくお願いします」
(息子さんでした。うん、ちょっと待って?五人兄弟?いや、まず二人の息子?!)
心の中だけで大きく驚きながらも、「まぁ長生きしてる割には少ないほうかも」と、言い聞かせ、どうにか笑顔を保つ。
「よろしくお願いいたします」
今日一の驚きはここだろう。
そう思いながら、最後の男性へ視線を向けた。
穏やかな笑みが、こちらへ向けられる。
(優しそうな方だな)
まだ何も話してないのに、そう感じた。
「初めまして。凩 信です。風神を務めています。時雨たちとは少し離れて育ちましたが、小さい頃からよく一緒に遊んでもらっていました。以後、お見知りおきを」
言い終えたと同時に、お辞儀をした。
(穏やかだ……。話し方まで風みたい)
聞いているだけで、肩の力がふっと抜けていく気がした。
私もお辞儀を返す。
「では、とりあえず座ってくれ」
時雨さんに案内され、私たちは店内の席へ腰を下ろした。
向かいの席には、左から焔さん、燎華さん、恒さん。
こちら側には、凩さん、時雨さん、そして私が並ぶ。
「信~、美音ちゃんは一緒に来なかったの?」
(美音ちゃん?)
「信の神妃です」
私が疑問に思ったことが伝わったのか、彼が耳打ちしてくれた。
「ありがとうございます」と、伝えると微笑み返してくれた。
「あぁ、それが、時雨から連絡もらってから本を探し回っていて、少し遅れてくるみたいなんだ。出発はしているみたいだから、そろそろ到着する頃だと思うよ、あ、来たね」
(え、どこ?)
と、私が思った瞬間に凩さんから風が巻き起こり、裏口のほうへ飛んで行った。
(そっか、どこにいるのかわかるんだよね。それにしても、神様って存在だけでも美しいのに、生み出すものまで麗しいの反則だよね)
なんて思っていた間に、ドアが開く音がした。
その方向に目をやると、人影が見える。
(浮いてるよね…風に、乗っているのかな?)
表現が正しいか困惑する。
乗っている本人は、とても優雅に座っていて、乗り慣れているようだ。
そのままってきた人影は、和服系の洋服を着た女の子だった。
髪と瞳の色は、凩とまるで鏡合わせのようで、金縁の丸眼鏡がよく似合っていた。
彼の隣まで来たところで、ピョンっと飛んで地面に着地した。
(可愛い…)
肩の少し上で揺れるふんわりとしたボブは、まるで雲のように柔らかそうで、自然と目を引く。
にこりと微笑むだけで、その場の空気まで明るくなりそうだ。
「ありがと、信」
「探してた本は見つかった?」
「うん!632番棚にあったよ!」
彼女は「えへへ」と嬉しそうに笑った。
(多いね?!どういう区切りかわからないけれど、すごい数字だね?!)
無言で驚いていると、「あ」という小さな声が聞こえた。
私に気付いたようで、こちらに駆けてきてくれた。
愛らしすぎて、テクテクという効果音がつきそうだ。
「おはようございます!初めましてですよね!日笠 美音です。美音って呼んでくれると嬉しいです。仲良くしてください!」
と言って手を差し出した。
(アイドルかな…?)
目の前の生物が尊すぎて、私は抑えきれず、天を仰いだ。
私は咄嗟に(いけない!)と、自分を現実に引き戻し、慌てて名乗る。
「おはようございます。初めまして、瀬梛 翠です。好きなように呼んでください。こちらこそよろしくお願いします」
私は、差し出された手を握り返した。
「じゃあ翠ちゃんって呼ぶね!敬語でも敬語じゃなくても大丈夫だから楽に接してね」
彼女は、ニコッと笑った。
(可愛い!!)
そのまま凩のところまで戻っていく後ろ姿は、シマリスのように愛らしい。
(急に知り合いが増えた気分)
実際そうなのだが、見た目も存在も異次元。
自分が神妃になった実感がない私は、そんな人たちに囲まれて少し気後れしていた。




