ばんの、おもい。
「…僕も状況はわかってるつもりだ。けど、可能性のない話なら、しない。翠さんのはなしによると、澄と名乗った猫は、暗い青緑色の毛並みだったんだ。万の目の色と一緒だし、そんな色の猫そうそういない。それに、神妃の儀式をした日に、、万の神妃と同じ名前で万を探してる猫と夢で会話するなんて、偶然とは考えにくい。もし可能性があるなら…万だって、見つけたいだろ?」
文面から、時雨がどれほど想羅を大事に思っているかが伝わってくる。
(ううん、それだけじゃなくて、ここに来るまでも、時雨さんはずっと想羅さんのために、必死だったもんね)
その想いの強さに、胸が締め付けられた。
「それは…!もちろんそうだけど、澄が本当に生きていたとして、どうして僕が感知できないの?」
そう言った想羅はどこか、怖がっているように見える。
それに彼が信じがたいのも理解できる。
チート級の能力を持った神様が感知できないとなると、望がないと思ってしまう。
「これは僕の見解だけど、森園さんは、異世界にいるんじゃないかと思ってる」
「異世界?」
思わず声が出てしまう。
「はい、まだ発見されてない異世界はたくさん存在していて、気が遠くなるほど遠いものもあれば、近いのに、認知されていない世界もあると言われています」
「そうなんですね…」
(神人界が中心とはいえ、万能なわけじゃないんだ)
どこかで、なんでも可能なのかと思っていたからか、少し拍子抜けする。
「元々想神は、一番魔王に狙われやすい、その神妃となれば、尚更。何があってそうなったかは本人にしかわからないが、どう頑張ったって僕たちには時間があるんだ、希望があるなら、探してみないか?万」
想羅の瞳がわずかに揺れる。
「もし、本当に生きていたとして、僕に探す資格なんて、あるかな…」
消え入りそうな声に、どう反応していいかもわからない。
「僕が、守れなかったんだ。僕が弱かったから、澄が犠牲になったんだ…そんな僕が、」
想羅は、自分を苦しめることで、罰を与えてるように見える。
けれどそれと同時に、これ以上傷つかないようにしている気もする。
私はその言葉を聞いて、今までつっかえていたものが嘘のように、自然と言葉が出た。
「けれど、澄さんは、想羅さんを探してるんですよ?」
彼は、はっとしたように私を見た。
癒えない傷を抱えた少年のような想羅。
私はなぜか、笑みがこぼれる。
「だって、いつまで話せるかわからないからって一番最初に出てきた言葉が、想羅さんを知っているか、ですよ?百二十年経った今でも…探す資格があるかどうかは別として、澄さんが想羅さんに会いたいのは、それだけで十分伝わるのではないでしょうか」
彼は、一度目を伏せた。
「…そっか、そうだよね、ずっと澄が探してくれてるなら、これ以上彼女だけに頑張らせるわけにはいかないね。それに、彼女がどう思っていても、僕の気持ちは変わらない、僕も彼女に会いたいよ」
そう言ってこちらを見た彼。
澄んだ色の瞳は、強い意志を浮かべている。
「じゃあ、決まりだな」
時雨も安心したように、目尻を下げて、想羅の髪をわしゃわしゃっと撫でた。
「ありがと、二人とも」
照れ隠しのように、そっぽを向きながらそう言った彼を見て、私と時雨は顔を見合わせた。
彼の顔には安堵が浮かんでいて、私も緊張が解ける。
窓から差し込む光が、少しずつ強くなって、視界も明るくなる。
私は、これから遭遇する出来事に、何ができるだろうかと、少しの不安を抱えながら、空に浮かぶ雲を見上げた。




