あかされた、さきに。
「必ず……」
そんなことがありえるのかと、言葉を失う。
そして、惹かれあってしまうのに抗わなければならないという条件が、拒否権のなさを物語っている。
今まで聞いた説明の中で、なぜか一番衝撃的だった。
「はい、…無常ですよね。この試練を完遂できた人は今までいないんです。
どんなに回り道をしたとしても、神妃たちと恋に落ち、神の役目を全うしています」
「そうなんですね」
どう反応していいかわからず、ぼそっと呟いた。
それと同時に彼が、気まずそうにしているのが分かる。
「簡単にはなるのですが、大方の説明はこんな感じです。何か質問はありますか?といっても、現実離れした話で質問も何もって感じですよね」
と、苦笑いした彼。
「いえ、ご説明ありがとうございました」
疑問に思っていたことは、大体答えをもらえたので、私はそう返答した。
それに、これ以上の情報は、もう処理しきれそうになかった。
「こちらこそ、聞いてくれてありがとうございます。もう少し、休まれますか?」
「かなり回復したので、家に帰ります」
流石にこれ以上居座るのは、気が引ける。
「わかりました」
私が、布団をよけると手を差し出してくれた。
その手を拝借して、慎重に立ち上がる――が、思ったよりも足元が頼りなく、体がぐらりと揺れた。
「大丈夫ですか?」
すぐさま支えてくれる腕に、安心と申し訳なさが入り混じる。
「すみません、ちょっと…まだふわふわしてて」
「無理しないでください。ゆっくりでいいので」
彼に支えられながら、二人で階段を下りる。
静かな足音が、木の段を一つひとつ踏むたびに響く。
その間、彼は終始私の様子を気にしていて、何度もちらりと目を向けてくれた。
玄関のドアの前まで来ると、彼が手を離し、軽く微笑む。
「気をつけて。外の空気も、まだ身体には冷たいかもしれません」
「……はい。いろいろと、本当にありがとうございました」
そう言って小さく頭を下げると、彼はそれ以上は何も言わず、静かに頷いた。
ドアを開けると、ひんやりとした風が、春の匂いを運んでくる。
後ろを振り返ると、彼はその場に立ったまま、見送ってくれていた。
ガチャ…
玄関に座り込む。
(もうちょっと、休ませてもらえばよかったかも)
ほんの十分ほどの距離でも、歩くのがやっとだった。
お行儀が悪いかもしれないが、廊下の床に背中を預ける。
ふと目をやると、壁に掛かった時計が視界に入った。
一緒に記されている日付は、家を出たときと変わらない。
ただ太陽だけが、少し傾いていた。
「やっぱり、夢じゃない」
首にかけたネックレスを光にかざしてみる。
(これから、どうなるんだろう…)
不安が胸を締めつけるけれど、それを払うように立ち上がる。
窓から差し込む夕暮れの光は、これから来る未来をやさしく見守っているかのように、淡く照らしていた。
数日後―――
私は、思いのほか、日常を取り戻していた。
仕事に没頭すると、一日があっという間に過ぎて、気がつけば、桜が散ってしまっていた。
(時雨さんに、体調が回復したことを報告しに行かないと)
急ぎ足で、店に向かっていると、幼さが残る少年の声が、風と共に耳を突き抜けた。
「すみません」
反射的に振り向く。
「はい」
一瞬、声の主を探す。
視界に入った少年は、私の腰くらいしかない。
(小学生かな?)
少し身構えるが、普通の子供だった。
「これ、落としましたよ」
そう言って、差し出された手には、私のハンカチが握られている。
「あ、すみません。ありがとうございます」
鞄にしっかり入れたはずなのにどうして落ちてしまったのだろうと、不思議に思いながら受け取ろうとしたとき――
甘い桜の香りが、花をかすめた。
(え…)
グラッ
一気に視界が歪み、耐えられない頭痛に襲われる。
目の前が真っ暗になり、考える間もなく、意識を失った。
「……」
幼く可愛らしい少年は、目の前に倒れる女性を見て、不気味にほくそ笑んでいる。
先ほどまで、黒色だった髪の毛は、徐々に銀色がかっていく。
「ダメですよ、こんな簡単な手に引っかかっちゃ」
髪色が変わり終わるころには、少年の姿は消え、青年になっていた。
青年は、微動だにしない女性を担ぎ、足取り軽やかに進んでいく。
通り過ぎる人々は、助けるどころか、気にする素振りすら見せない。
まるで、姿が見えていないように――
「これで会いに来てくれるよね……しーくん」
「っつ」
晩御飯の準備をしていた時雨は、突然頭痛に襲われた。
瞳には動揺の色が浮かんでいる。
「まさか」
耐えがたい頭痛を無視し、駆け出す。
見習いであれ、神である彼は、物理攻撃などで傷つくことはあれど、頭痛などの身体的不調を起こすことはない。
時雨は、確かな仮説が浮かび、神人界へと急いだ。




