麗蘭と先輩③
差し出された白い封筒に指を伸ばした私に対し、女生徒さんはスッと封筒を引いた。そしてにこっと微笑んだ後、視線を教室の外に流しながら
「少々お時間を頂きたいのですが、ここは他の方の迷惑になりそうですね。場所の移動をいたしませんか?」
と、提案してきた。
私はにこっと微笑みを浮かべ『すでにクラスの皆に迷惑かけてるけどね』と心の中で毒つきながら「そうですね。廊下でもよろしいですか?」と女生徒さんの提案に乗った。
もう少ししたら藤宮先輩が来るだろうから教室から姿が見えない程遠くに行く事は控えたかったし、何より人目のない所に行きたくなかった。
この女生徒さんが誰なのか未だに分からない状態なのだ。
ちらっと女生徒さんの手にある封筒に視線を向ける。
この封筒を持っている―――という事は、この人が桐生のお嬢様?
兄の人間不信の原因となった人物なのかもしれないと思うと、表情には出すことはしなかったが、心中は少々黒い感情に染まっていた。
改めて女生徒さんに視線を送る。
艶やかな黒髪を後ろで一つ結びにし、長身でスラっとした日本人形さんの様な一重の目元すっきりとした美人さんで、きっと十人に問うたら全員が『美人だ』と答えるような、そんな女生徒さんに『こちらで良いですか?』と声を掛け頷いたことを確かめて教室から出ていった。
教室の扉から姿が見える位置まで移動した。
この位離れていれば教室の扉付近で興味津々に聞き耳を立てているクラスメイトにも会話は届かないだろう、と思い振り返る。
―――っていうか、皆! お昼休憩に行こうよ!!
「お話は何でしょうか?」
藤宮先輩のお迎えまでに全てを済ませたい私は早速切り出した。
女生徒さんはそんな私に嫌な顔を見せることなく綺麗なお辞儀をした。そして、頭を下げたまま
「私、染谷伯爵家長子、名を八重と申します。昨日は、皇様に格下の使いを伺わせてしまい申し訳ございませんでした。本日は正式に桐生芙蓉嬢のお茶会へ招待したく、こうして私が参らせていただきました。日暮れ前の一時を共に過ごさせて下さいませ」
女生徒さんのその言葉を聞いた途端、それまで張り付けていた作り笑顔は消えていた。
――――つまり、桐生さんと染谷さんは昨日招待状を持ってきてくれた先輩の家柄が子爵家だったことにご立腹して私がお茶会への参加をお断りしたと思ったと?
この女生徒さんも初代皇王の思想を学んでないのか?
高校生なのに地球から独りぼっちでこの世界に放り投げられたのに、人(神?)を恨むことなく、少しでもこの地に住まう人達が幸せに暮らせるように―――とアス様と鼓舞奮闘し、実際に倭の国を他の国からの追随を許さぬくらいに発展させた皇冬夜君の想いを蹴りますか。そうですか。なるほど。
きっと今の私はとても冷たい表情をしていると思う。先輩に対して良い顔じゃないだろうな……と、頭の片隅で囁く自分はいたけれど、直ぐに一蹴していた。
一言も発しない私に染谷先輩は少し焦りだしていた。でも、顔を上げる事は出来ない。
学園内では『身分関係なく皆一学生として交流すること』とあるし、この校則に従うなら染谷先輩が私の一言なんて待つことなく頭を上げていいんだ。
でも、染谷先輩は『家名』を名乗り、『正式に茶会に招待したい』と言った。
つまり、ここが学園内であっても私と染谷先輩の間には正式な社交の場が成立してしまったのよね。
なので家柄が上である私から『頭を上げて良い』と許しを得るまで染谷先輩は頭を下げ続けなくてはいけない。
いろんな思いが渦巻いていた私はこのまま立ち去ろうか―――と思った。
きっと私がそうしても、染谷先輩も桐生先輩も私に文句を言うことはできないだろう。なぜなら準皇族としての身分があるから。
でも、自分の感情のままにそれをしてしまったら、私も皇冬夜君の想いを蹴ることになる、と思う。
まだ感情に折り合いをつける事も出来ていないが、先輩に頭を下げさせたままではいけないだろうな……と一つ溜息をついた。
とりあえず『頭をあげてください』と伝えようと口を開きかけた瞬間、前方から「麗蘭?」と呼ばれた。
声がした方に視線を向けると、そこには万希彌と藤宮先輩が立っていた。
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