麗蘭と先輩①
夕食も済ませ、寮の部屋で宿題をしようと鞄から教科書を取り出した。
教科書の上には『桐生家の家紋で封蠟された便箋』が……見た途端、ものすごく憂鬱になった。
そうか。これを読まないといけないのか……。
それでも返事をすると先輩に伝言を頼んだのだから、目を通さなければいけないだろうとペーパーナイフを手にした。
ペレちゃんとサラくんが『なに なに?』と私の肩から覗き込んできた。
その可愛らしい仕草にちょこっとだけ気持ちが軽くなった私は、二人にお願いして一緒に手紙を読むことにした。
【皇 麗蘭様
まず、この歴史ある学園に無事入学されたこと、お祝い申し上げますわ。先輩としてとても嬉しく思っております。】
――――はい。
【入学されて二週間が経ちましたが、学園には慣れまして? 親元を離れての生活はきっと寂しいものでしょう……。よかったらわたくしの事を姉と思って何でも相談して下さいませね。力になれると思いますわ。そうそう、丁度明日の夕方、わたくしお茶会を開こうと思っておりますの。わたくしのお友達も貴女にお会いしたいとおっしゃるの。わたくしのお友達は良い方ばかりですし、皇様も楽しくお話しが出来ると思いますわ。明日の放課後、迎えを向かわせるので是非いらしてね。 桐生 芙蓉】
は…ぃ?――――――お茶会? お迎え?? ……いや、そこじゃない。いや、そこも気になってはいるんだけど……。
姉と思って?!
はぁ!?!? 大好きな家族と離れて寂しいと思っているよ。けど、私には前世の記憶がある分、同級生よりも気持ちの整理はついてるんだわ!
父と母だって寂しがってるけど、私や兄が学園で生活して魔導師として身を立てておかないと将来的に困ること、いずれ子どもは親元を巣立ってそれぞれの人生を歩んでいくことを森で生活していた頃から話し合ってきている。
一人の人間として、きちんと地に足をつけて生きていく。そして、家族が離れて生活していても家族を想う心は忘れないでいようねって皆で指切りしたのよ。
うちの家族は、そんじょそこらの仲良し家族とは違うのよ!!
そんな仲良しな我が家の中に、ぽっと出の貴女が姉を名乗りあげ、しかも貴女を頼る……???
自分には理解し難い手紙を手に持ったまま魂が半分抜けかけていた。
つんつんとペレちゃんがほっぺをつついてくれたことで現実に戻ってきた私は、すぐさま机の引き出しから真っ白の無地の便箋を取り出した。
この人に関わると面倒な事になると思った私はすぐに返事を出した。就寝前に寮母さんに頼めば寮と寮の間の手紙のやり取りは魔術で可能なのだ!!
手紙には『お心遣いいただき有難いです』という感謝の言葉と、『今は毎日が忙しく自分の事で精いっぱいなのでお茶会には行けません』という旨を書き記した。
無難な言葉で文章を締め、直ぐに寮母さんの下に向かった。
兄の件があったからどんな人物か少し聞いていたけど、思った以上に思考回路が自分とは合わない人の様だわ……。
滅多なことでは人の考え方は否定したくない、それがこの人なんだと思って一度は受け入れるんだけど(その人と合う合わないはその後の付き合いでわかるものだから)……この世界に転生して『出来れば最初から一切関わりたくない人物』に初めて会ったよ……。
寮母さんに手紙を渡し部屋に戻るとベッドに飛び込んだ。
さらさらとした肌触りのシーツに顔を埋め長い息を吐く。
少しづつ学園の生活に慣れて(お友達はいないけど)心の余裕が出てきたなぁ~と安堵していた私にこんな爆弾が投げ込まれるとは……。
「リアン、大丈夫?」「きゅきゅん、ぷきゅ??」
このまま意識を手放そうかと思っていた自分の顔の横にペレちゃんとサラくんがちょこんと座っていた。
二人とも手紙の内容から面倒な人と関わってしまったのだと感づいた様で、心配そうにしている。
二人を安心させるためにちょっと苦笑いしながらだったけれど『侯爵家よりも上位である私からの断りの手紙だから、お茶会には不参加で大丈夫』と伝えた。
正直、『お茶会だけじゃなくってこれからのお付き合いも無しの方向で』と手紙に書き記したかったけど……。
とりあえず明日のことは何とかなった……と安心した私は宿題をする為にのそのそとベッドから這い出した――――んだけど、ほっとするのは早かったわ。
読んでいただきありがとうございます。




