レオンと魔眼持ち(リアン視点③)
私を見た途端にびくびくと震え出した火猿さんにショックを受けた私は悲しみに沈んだ。
ここがマンガの世界なら私の背後には『が――――んっ』という文字がでかでかと貼られているだろう……。
でも、声を掛けてきた先輩になんの返事も返していなかったことに後輩として流石にどうか、と思った私は気力を立て直して先輩の問いに答えた。
それに急がないと授業が始まる。私もだけど、先輩までも授業に遅れてしまうのは―――――以下略。
「『皇 麗蘭』は私ですが……何かご用ですか?」
火猿ちゃんには怖がられて(?)しまったが、基本私は人畜無害の人間なのだ。
ここで先輩にまで怖がられたら更にダメージを喰らう!! 自分の持てる満面の笑顔を心がけながら応じた。
そんな私の心情はつゆ知らず、先輩は私の答えを聞いてほっとしたのか、軽く息を漏らした。
そして、よく見ると先輩の目尻にはちょっと光るものが見えた……!?
『え?! そんな私って怖い存在!?』
大ダメージどころの話じゃなかった……。私は人畜有害の人間だったのか……と独り虚無の世界に旅経とうとする私に先輩はすっと便箋を差し出した。
「あ、あの。これを……皇様に渡してほしいと頼まれまして……」
と、小さな震える声で封蠟を押している便箋をおずおずと差し出してきた。
便箋には差出人の名前はなかったが、この封蠟に押されている家紋には見覚えがあった。
『――たしか、桐生家の家紋……』
三代前の皇家の第二皇女が降嫁された家で爵位は侯爵だったような?
幼い頃から想いあっていたという二人が婚姻を結び、祝いだと皇家所有の領地も下げられ、一時期は公爵へと陞爵もあるのではないかという位に権勢を誇っていた、と聞いた。
現在は多少の陰りはあるものの、皇家の血筋が流れている桐生家は正真正銘この国では大貴族だ。
その『桐生家』の封蠟で閉じた便箋を持ってこさせられた先輩は、魔術の実力と珍しい精霊との契約者として平民から子爵家の養子となり貴族の世界に入ってこられたと聞いている。
――――子爵家の養子となった事で、桐生家のお嬢様に目をつけられたのか……。
『貴族には下位の者を護る義務がある』のだと、初代倭国の皇王・冬夜君が国を興した時に制定した法律の一つとして国の隅々まで行き渡ってると思ってたんだけど。
確かに、貴族の皆さんは『下位の者は弱き者』と認識して(実際は、貴族の人より逞しい方の方が多いんだけど……)護っておられる。
逆に貴族同士だと、下位の者ではないと思うのか、ライバル意識が働くのか、些細な事で衝突やトラブルを起こす人達もいる。
まぁ、上手い方達は、そういう類をすり抜けて平和に過ごしてらっしゃるようだけど。
今生の桐生家当主とそのご家族は、どちらかというとトラブルを起こして回るタイプのようで、取り巻きを使っては騒動を起こしているのよね。
桐生のお嬢様に関しては、兄のことでちょっとあったから知っている。
兄と仲が良かった女の子に取り巻きを使って複数人で絡み、女生徒さんが学園を辞める辞めないってことになってひと悶着となった。
確か、その女生徒さんは男爵家の方だったのかな? 桐生のお嬢様は貴族同士だから蹴落とそうと画策したワケだ。
そのやり方は、前世でよく見た『悪役令嬢』の虐めの劣化版って感じだったけど、男爵家からしたら侯爵家は大貴族だからそれだけでも圧があるし、周囲も手が出せなくって大変だったらしい。
ちょっと陰湿な虐めであったらしくて、おかげさまで兄が女性不信となったワケだけど、何故、その桐生家のお嬢様が私にお手紙を渡そうとする?
大好きな兄を困らせた人の手紙を私が受け取ると思う神経がわからない! 誰が読むか!!――――と思いつつ、何と書いてきたのか気にはなるのよね……。
それに、コレ受け取らないと先輩が大変な目にあうパターンの様な気がする……多分。
先輩に気づかれないように溜息一つつき、便箋に手を伸ばした。
「お受け取りしました。授業が始まるので夕方、寮に戻ってから目を通します、と差出人にお伝えください」
先輩の手から便箋を受け取った私は、ぺこっと会釈し教室に向かう為に先輩に背を向け歩き出した。
認識阻害発動内に入った私が、大きくて長い溜息をついたのは内緒である。
読んでいただきありがとうございます。




