魔眼持ち③
『遥か昔、精霊とひとが共に暮らしていた頃のお話。ひとと精霊は会話を交わしながら日々過ごしていた。そう、友だった。隣人であり、親友であり、家族だった。長い月日を過ごし、友の生の終焉には身を寄せて最期の息を見届けるまで傍にあり続ける関係だった』
ひとの勝手な行動によって自然をなくしてしまうまでは当たり前だった光景。
世界の至る所で、精霊とひとの繋がりが細い蜘蛛の糸のようになる中で、辺境のさらに奥深く、片隅にひっそりと存在する村があった。
『精霊が御伽噺になっていく世の中にも、変わらない繋がりを持ち続ける一族を精霊達は愛した』
永い時を過ごしていく中で、気づけば一族の者は生まれる前から精霊に加護を授けられるようになり、多くの者が魔力を保有するようになった。
それは外への力であったり、内への力として現れるようになったいった。
ひとよりも頑丈な肉体だったり、大地を一瞬で掛けていく脚力だったり、ひとの何倍もある岩をも持ち上げれる怪力だったり、遥か遠方の音をも聴くことが出来る聴力だったり、生物の魔力をみれる眼であったり。
幸せな世界。
一族と精霊達はいつまでも一緒に暮らせるこの世界が好きで。
でも壊れた。魔獣が、魔族が大陸で人々を蹂躙していった。
そうして静かだった村にも魔の脅威は忍び寄った。
激しい攻撃に抵抗し、戦いに身を投じた一族の者もいたが多勢に無勢で。
大陸中を満たしていた絶望感と虚無感と悪意が絶え間なく魔の者達に力を与えている戦いは、自然の力を削ぎ落していくばかりで、精霊も姿を保つことが出来なくなっていた。
命尽きていく一族の者達。
一族の長は若い命を護る為に決断を下す。そして、永く共に過ごしてきた精霊達の為に。
長は村の外の世界を識っていたから。
精霊達の心の拠り所の一族がこの世から消え去った場合の世界が想像出来てしまったから、心を決めた。
魔眼持ちと呼ばれる者に若い命を預け、魔族の攻勢をすり抜けて一族の者が世界に散らばっていったのは『魔王と勇者の戦い』の裏のお話。
永い月日に一族の血は薄れていったが、時折、先祖かえりなのか精霊が愛してやまなかった血の匂いが薫る者が現れた。
その児は、生まれながらに精霊に愛されていた。精霊は、姿や声を認めてもらえずとも傍にいた。
「みつきちゃんはその子達の子孫なんだろうね。僕はその村には行ったことがないけど、眷属の子から話には聞いていたからね」
そういうと、父はイグニスさんをちらっと見る。
「イグの方がその村の事には詳しいよ。南方の辺境だったんだ。それに、みつきちゃんの眼の事をレオンに聞いて直ぐに分かってただろ?」
イグニスさんは私の肩に頭を乗せたまま黙っている。
さっきからいつもと違う様子のイグニスさんにどうしたらいいのか私も口を開くことが出来ないでいた。
父が私達に近づくと、イグニスさんの体がびくっと揺れた。
「イグ。お前じゃない。俺だから」
私の肩に埋もれたままの蘇芳色の髪をぐしゃぐしゃにした後、瞼を閉じてしまった父から感じる感情と、その行為を受け入れながらも息を吞んでいるイグニスさんから感じる感情は……あ、そうか…………。
もう取り戻せない過去の後悔に折り合いをつけたはずだった元魔王と、愛し児を護れなかった精霊王は沈黙したまま時間が流れていった。
読んでいただきありがとうございます。




