みつきちゃんと眼鏡④
新緑亭に着くと、店員さんが個室に案内してくれる。
兄と眼鏡作成する際に貸してもらっていた個室は、防音に優れているので秘密にしたいことも安心して話すことができる。
今日もその個室を兄が予約してくれていた。
ありがとう! お兄様!!
「お兄ちゃん、お待たせ~っ」
部屋の中に入ると、既に来ていた兄が注文していてくれたのか、小さなカップケーキが数個乗ったお皿と生クリームがてんこ盛りのアイスココアが二個づつテーブルに並んであった。
「お疲れ様。ゆっくり来ても大丈夫だったのに、走ってきたの?」
寝不足な事も関係しているのか息切れが……。ぜぇ~はぁ、ぜぇ~はぁ。
私と一緒に駆けてきたはずのみつきちゃんは、只々心配そうに私の顔を覗き込んでいる。……おかしい。息切れの『い』の字も見当たらない!
うん。ただ単に、私の日頃の運動不足が分かったよ……。
「お水貰ってきたよ」
すっと、兄がお冷と冷たいタオルを差し出してくれる。
あぁ……お兄様、君は本当にデキた子だよ、おばちゃんは嬉しいよ!
ふぃ~っと一息入れさせてもらえた私は気合を入れ直す。
この後は、寮に戻って夕食が待ってるからね。長居は出来ないからさくさくと進めていかなければ!!
「みつきちゃん、今日はね、みつきちゃんにお願いがあるんですよ」
「おねがい?」
そう。今日は、みつきちゃんに眼鏡を作ってあげれるかもしれない日なのです。
玄武様達には、報告する際に眼鏡制作の動機も伝えた。
そして、みつきちゃんには『レポート提出』が条件につくが試作品を使用して貰えないか確認し、了承が貰えたら無料で眼鏡をあげてもいいかと尋ねた。
玄武様と輝葉様は快く了承。
許可も貰ったし、これで気兼ねなくみつきちゃんに交渉出来る。
まどろっこしい事この上ないけど、皇国最高権力者と話を合わせておけばいろんな場面で効果はあるだろう。
一筆書いてもらったし!
なんせ、この新しいかたちの眼鏡は今は兄と輝葉様しか身に付けていないのだ。
ちなみに昨日から掛け始めた輝葉様の眼鏡姿が見れたのは、皇城に勤めている人だけ。
だから、学園とか街の人達が実質目にしているのは兄だけなんだよね。
市場に出回ってない商品を身に付けていれば注目を集めてしまう。実際、兄は物凄く目立ってたし。
兄の場合は、周囲が勝手に空気を読んでくれるから根掘り葉掘り聞かれるという事も無さそうだし、準皇族っていう身分が護ってくれるだろう。
けど、みつきちゃんの場合はそうはいかないんじゃないかと危惧している。
瓶底眼鏡でさえ高級品なのに、新しい眼鏡を掛けているのが、言い方は悪いが平民だと分かった時に周囲の感情が好意だけとは限らない可能性がある。
倭国の人って、基本穏やかだから余計な考えかもしれないんだけど、ちょこっとばかり長く生きたおばちゃんは要らぬ事まで考えちゃうんだな。
権力者からの頼まれ事に、文句をつける輩がいない事を願っとこう。
「実はね、今、私、試してみたいことがあって、何人かに協力してもらってるんだけど、みつきちゃんにも頼めないかなぁって」
あ……なんか怪しい誘い方をしてしまった。
気づいた私は心中で『お馬鹿ぁぁぁぁ!!! もっと言い方ってもんがあるでしょうよ!』と、日頃おばちゃんだと自負している自分の会話能力の低さに撃沈。
ちょっと緊張してるからって言葉選びの下手さに地面に突っ伏して拳を叩きつけている。が、顔には出さない。
いや……みつきちゃんは私の表情は見えてないんだった……。
「え? うちでいいん? そんならやるよぉ」
あまりにも早い返答に、この子は大丈夫なのか?!と心配になってしまった。
「! みつきちゃん!! そんな、何するかも聞いてないのに、ほいほい言うこと聞いたら危ないよっ」
「? あぶないことするん??」
きょとんとした表情で尋ねるみつきちゃんの純真さにきゅんするおばちゃんです。
うん、長く生きてる私が気を付けよう!! 呼吸を整えて話を進めねば!と意気込んだ途端、兄が話しかけてきた。
「しないよ。あのね、みつきちゃん、目が悪くて困ってるでしょう? 実はね、僕も目が悪くてね」
「え?! おにいさんもなん?? そっかぁ~、うちの周りってみんな目がいい子ばっかりやったからなぁ。ときどき、目がわるいん事で困っちょん話しても分かってくれんのがもどかしくって」
二人で共通の話で話が弾んでいて、横にいる私も『微笑ましいわ〜』なんて思いつつ、そろそろ眼鏡作成に移りたい……と思いながら時間は過ぎていくのでした。
読んでいただきありがとうございます。




