輝葉様と眼鏡と玄武様
「輝葉様、どうでしょうか?」
麗蘭様が私に、と選んでくださった細めの銀色のフレー厶という物に、私の視力とやらに合わせたレンズを嵌め込んだ眼鏡を掛けた途端、それまでぼやけていた景色がはっきりと浮かび上がってきました。
「これは………」
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宰相の職に就いて暫くした頃、視界がぼやけて仕事に支障をきたしていた私は『これはいけない』と眼鏡を作りました。
掛けないよりはまし、という位の変化でしたが、それでも書類から多少は目を離して字が追えたので良しとし使用していました。
その眼鏡姿を女官長に見られるまでは……。
「輝葉様!? それはなんですか?!」
玄武様と執務室で街道の整備の草案纏めを一緒にしていると、私の従姉妹で女官長でもある芙蓉が休憩用のお茶を運んで来て………突然叫ばれてしまったのです。
「え? 書類……」
「ではありませんわ!! そのお顔の瓶底ですっ」
瓶底……? あ! 眼鏡の事か!!と、納得し芙蓉に説明しました。
「最近、見づらくて困っていたので作ったのですよ。これで書類の処理が幾分はや」
「輝葉様! いくら見づらいとは言え、その眼鏡はないです!! その様な物を掛けるなんてっ 輝葉様はご自分のお顔の価値を分かっておりませんっっ」
「………」
あまりの剣幕に私は開いた口が塞がらなくなり、玄武様は爆笑。
「いやね、私もどうかと思ったんだよ〜? だけど、輝葉が『前より見える!』って嬉しそうに言うからね〜。言い出しづらくって」
「玄武様! そんな時は言ってください!! 輝葉様に直接言える方など限られておりますのよ!!」
我が従姉妹殿は、倭国最高位の玄武様にも喰ってかかれる強者なのだとこの時に改めて認識しました……。
それからは、宰相の執務室(一人きりの時は掛けて良いという条件付き)以外で眼鏡を掛ける事を禁じられた私は(従姉妹と周囲の者の圧に負けました……)、暗記力と初代玄武様が異世界から齎してくださったくりっぷと付箋なる物を駆使し、人前でも眼鏡無しでも支障無い様に努めました。
時折、どうしても見づらくて目を細めてしまう事もあったのですが……その事については逆に女官達に喜ばれるという……何故?
しかし、問題が発生。
私の業務は多少時間は必要でしたが、周囲に迷惑をかけることなく行えていました。……が、私がよく見えていない事を上手く利用しているお方が一名居たのです。
そうです。玄武様です。
あんの男は人が頑張って書類を捌いている時に、私がよく見えていなかった事をいい事に影武者を置いてどこかに行くという事を度々しやがってたんです!!
幼少期に友人として皇城に登城させて頂く様になってからの付き合いで、性格も行動もよく知ってるからある程度の事は解っておりますし我慢してきましたが……大人になっても変わらず振り回してくれて!! 本当にいい加減にしろよっっ
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この麗蘭様から頂いた眼鏡を掛けた私を見た女官長始め、他の者達の反応はとても良い様です。きっとこの眼鏡は受け入れて貰えるでしょう。良かったです。
「麗蘭様、有難う御座います。とても良く見えます」
「本当ですか!? よかったですっっ」
おや? 初めて麗蘭様のお顔をはっきりと認識出来ましたね。
ランヴィドール国に嫁がれた第三皇女にそっくりですね。とても可愛らしい。
幼い頃に皇城の奥深く、皇族方の私室のある廊下に飾られた肖像画の一枚が思い出されました。
ふむ……女性に対して常に一線を引いていらした万季彌様が、麗蘭様には自ら近付いていらっしゃると聞きますし、お二人の並ばれた姿は中々のもの。
麗蘭様の異世界の知識も興味深い事だらけです。……出来れば、御一緒に倭国を継いで頂きたい……ところですが、無理でしょうね。
なんせ鉄壁の防波堤がいらっしゃいますからね。
確か『僕に勝てる男じゃないと認めない』と言われているとか?
それならば万季彌様は難しいでしょうね。
しかし、獅輝様に勝てる方は存在するのでしょうか?
………麗蘭様は嫁ぐ事が出来るんでしょうかね?
まぁ、その事はきっと御家族様で話されるでしょう。私が思案するのは『余計なお世話』というものですね。
それよりも、この視界の良さです。これは良い。
私は玄武様に向き直りました。
「この眼鏡は素晴らしいです。早速、先程の麗蘭様の提案を検討致しましょうか、玄武様?」
これまでと違い、今後は影武者なんぞに騙される事は無いでしょう。
「え?! いや……ほら、折角さ、り〜ちゃんとれお君が来てくれたんだし、今日はこのままお茶でも……」
「何を言ってるんですか? 麗蘭様の案はこの国の新たな雇用を生み出すんですよ。それに、本日分の書類も未だありましたよね? 今後は、一度私が目を通してからで無く、一緒に出来るのですから。さぁ、さくさくと進めていきますよ! 獅輝様と麗蘭様はそのままゆっくりとお菓子とお茶を楽しんで下さいね。では」
あぁ! なんと素晴らしいのでしょう!!
これならば、執務時間の短縮も可能では?
私も休憩や家族との時間をゆっくり取る事が出来そうです!!
そうして私は、駄々をこねる玄武様を引き摺りながら足取り軽く、玄武様の執務室に向かうのでした。
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