お疲れ様です お父さん。
今回、どうしても流れを切ることが出来ず長文となっております。すみません。
「ーーーっ!!」
人間、本当に痛い時って言葉にならないよね……と、ジンジンする鼻を押さえて蹲る。
こう言うのを、踏んだり蹴ったりっていうんだっけ?と思いつつ、鼻血は…出てない?とそっと右手を鼻から離して確認。
あ、よかった。出てない。
これ以上の流血沙汰は勘弁して。
扉の向こうから顔を覗かせてきたのは、イエローダイヤモンドのような透明感のある金色の瞳と、スッと通った鼻梁、形の良い薄い唇、艶のある癖の全くない白銀の髪を左肩側で一纏めにして前に流している、何とも言えない色香をだだ漏れさせている美青年。
はい、父です。
『そうなんです。この美形さんが父とか! 母と兄も素晴らしい容姿をされているし美形一家で、何これ、神仕様!?』
前世との記憶が交じった身としては、眩しさで目が痛い……。が! 鑑賞と思えば!!
―――暫くボーっと見つめ、そっと瞼を閉じる。
『あぁ…眼福!』と思わず手を合わせてしまう。
その後ろからひょこっと兄が心配そうな顔で聞いてきた。
「リアン…痛いとこ、ない?」
『いや〜、今、ドアでぶつけられたトコが痛いですよ』と言いたいがね。
ゆっくりと立ち上がり笑顔を向けて『大丈夫アピール』をする。
「にぃに だいじょ〜ぶ!」
にぱっと笑うと兄はホッとした様で……でも、どことなく申し訳ない…と思っていることがわかる微笑を向けてきた。
「よかった…ゴメンね、リアン。ケガさせちゃって…痛かったよね…」
あ、涙目になってきてしまった!!
兄がまた泣いてしまう!……かわいいぞっ、どうしよう?
「ごめん…ごめんね……僕、エアルさまと契約できたのが嬉しくて…ふっ…ぅぅ」
あぁっ! やっぱり泣いちゃったぁ! ちょーぜつカワイイぃぃぃ!!
これが私一人なら手足バタバタで悶絶もんだったのにっ
いかんせん、人目があるからね。大人としての意識もありますから耐えますよ!
えぇ、頑張りますっっ
そんな兄の言葉に、父の眉間にほんのりと皺が浮かんだ。そして、これまた悶絶しそうなバリトンで大人の色気を纏うお声が耳を襲撃。
「そう、その事だが。レオン。何故、魔法を使う様な事になったのだ?」
父がシュン…としている兄に問いかける。
……はぅ、イイお声だ!
「…ぇっと、えっと……ごめんなさい…お父さん…」
あぁ! また涙が零れてきて俯いてしまった。
またズッキュンされちゃうじゃないですか!
「―――母から魔法については説明があったと思うが……な。まだ危険であるというのに。レオンは理解出来ていなかった…という事で良いか?」
おぉう! 後半、父の声が更に低くなった……。
頭の芯から揺さぶられる、いぃお声です。でも怖いです!!
兄は、バッと顔を上げ、涙を堪えながら父と目を合わせた。
「僕! 契約できてうれしくて!! ……魔法、まだちゃんと使えないけど…『早く使いたいな』って……エアルさまとお話してたら、僕には『素質があるぞ』って言ってもらえて……。それで『初級の魔法ならできるかも』って」
「!? ……それで、魔法を?」
「はぃ………」
父が、ふぅ………と嘆息を吐きだした。
「それで?」
「え?」
「それで、エアルにどの魔法を教えてもらったんだ?」
「……ぇえっと、『エアロカッター』です」
「ふむ……」
「……お母さんに『エアルさまは風の上位精霊さまで、僕の事が気に入ってお友達になったんだよ』って。『これはスゴイことなのよ』って。だから『まずは、仲良くなる為にいっぱいお話しましょう!』て」
一生懸命話す兄がかわいい! そして兄を優しい目で見つめる父が尊い。
「それでエアルさまが『魔法を使うとのぅ、某の魔力がレオン様の中に入り混ざり合う事で更に深い絆が出来るんじゃよ』って教えてくれたの。それで魔法を教えてもらいました……。でも、リアンに、ケガ、させちゃってぇ……リアン、ごめんなさぃ……」
項垂れて涙をポトポト瞳から溢れさせ嗚咽を漏らしながらも一生懸命説明していた兄はズボンを握りしめた。
手が震えている。
そんな兄を見た父は、眉尻を下げた後、兄の顔を覗き込むようにしゃがみ込み、頭に手を伸ばして髪をくしゃっとした。
「―――リアンに怪我をさせたのは勿論いけない事だ……反省しなければいけない。……が、レオン。お前も危険だったかも知れない」
兄は罪悪感満載の表情を浮かべていたが、顔を恐る恐る上げ「え?」と声を漏らす。
「レオン、『精霊との契約は12歳の降臨祭で行う』…とエアルと契約した後に母から聞いたか?」
どうだ?と兄に問う。
「はい。聖霊王さまの聖堂で、精霊さまと契約するんだって。そのときに、自分の属性がわかるんだよって、お母さんが教えてくれました…」
「ん。契約についてはそうだな。でも、レオンはまだ8歳だ。本来なら12歳で契約し精霊と共に魔法を使っていく事で魔力を自身の身体に馴染ませていく」
「エアルさまが言ってた『混ざる』って言うことですか?」
「そうだ。だがなレオン。本来ならレオンはまだ精霊を感ずる事も難しい筈の年齢だ。いくら契約が『盟約』であったとしても、この歳での事例は聞いたことがない。だから魔法を使用する事でどのような事が起こるか皆目見当がつかないから危険だと言ったのだ。………レオンも魔法の危険性を聞いたであろうに、何故、」
「ーーー? きけん、せい?」
兄が『なに、それ?』という顔をする。
父が『え?』と首を傾げる。
「「………………」」
「………ちょっと待っていなさい」と父が言い残し、サッと部屋を出て行った。
兄と2人で部屋に残され、顔を見合わせて何とも言えない空気が流れる。すると、台所の方から声が。
「ヴィー! レオンに精霊の説明は自分がするからって言ってたよね?! 肝心なトコ言ってないんだけど!!」
「え〜? 言ったわよ。エアルと契約できて凄いねって! エアルはとても情の深い精霊だから、いっぱいお話して仲良くしようねって」
「………いや、うん、そう、まぁ、ん〜…元々、エアルが契約したがってたから……。え〜と………ヴィー。レオンはまだ8歳だと思うんだよ?」
「やだ! ナルったら!! 自分の子どもの歳を忘れる訳ないじゃないっ」
『失礼しちゃうわ!!』と、母がぷりぷり怒っている姿が見えるようだ。
「あぁーー! 違うって!! そういう事を言いたいんじゃなくてっ」
『じゃあ何なのよ!?』と、またもや母のお怒りの声と、父の『ハァ…』という溜め息が。
「ヴィー、レオンは今8歳だ。一般的に12歳まで契約しないのは、身体の基礎が出来てないからってヴィーが言ってたよね? 人界では10歳になると魔力測定をして適正が見られた子達に専門の初等教育学園へ通わせる。様々な事を学ばせ、身体を作り、魔力回路を全身に巡らせる訓練を行うんだって言ってたでしょ? 魔法学の基礎的知識を備えさせてから精霊との契約に臨むって言ってなかった?」
『ヴィーが昔、俺に教えてくれたよね』と母に再度聞く。
「そうよ。そして契約できた精霊と魔法を使って魔力回路に属性の魔力を巡らせていくのよ」
「うん、そうだよね。じゃあ……レオンは?」
「―――え? ………あっ!」
母は気づいたのか、声に焦りがみえた。
兄はさっぱり分からない為、父と母の聞こえてくる声を静か〜に聞いていた。
私は2人の会話を繋げて自分なりに考えてみた。
多分、本来なら魔法を使用することになる前には、それ相応の準備が必要であった。にも関わらず、兄はソレをすっ飛ばしてしまったのだ。危険が何かは分からないが……。
その後すぐに、母が顔面蒼白で部屋に飛び込んで兄に謝罪した。土下座だ。
母は『体内を廻る魔力神経回路や、身体が出来上がっていない時に魔法を使用するとどうなるのか』ということを……兄にしていなかったと。
号泣しながらなので、要領を得ることが出来ない。
母の後ろでは、右手で目を覆い、頭をがくっと項垂れ「やっぱり自分がするべきだったか…」と零して嘆息する父の姿があった。




