倭国の皇女
『倭国は土の精霊の加護を授かっている』
土の精霊は結界や浄化を得意とする一族で、魔族や魔獣の闇の魔力も寄せ付けなかった。
魔王によって世界が闇に覆われた時も、他の土地に比べてだが加護によって護られていた。
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勇者がこの地に降り立った時、側に寄り添ったのは土の精霊王だった。
『勇者と『古の盟約』を交わした土の精霊王は、契約対象を勇者の血とし、脈々と繋がる勇者の子々孫々と共に生き続けている』
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魔王城は『聖霊教國』に聳え立った。聖霊教國は教会を中心とした小さな国だった。
その小さな国の隣にはランヴィドール王国があった。
ランヴィドール王国は大陸でも一、二の領土の広さを誇っていた。周辺国に比べ、財力や武力も頭一つ抜き出ており強国として名を馳せていた。
魔王が化現し、魔獣がそこかしこで見られるようになり、どう見ても魔族が関わったと思われる謀略が民の間に起こり出していた。
大陸の各国の王達は、互いに協力し魔族や魔獣ひいては魔王との対峙を提案した。
しかし、ランヴィドール国王は跳ね除けた。
『我が国は協力など必要ない。魔王も退治してくれるわ』
そう言って。
だが、魔王が現世して僅か二年に満たない月日の流れの中でランヴィドール王国は徐々に崩壊していく。
国家間の情報は魔族によって遮断される様になっており十年近くが経った。
周辺国はあそこまで言うのだからーーーと、大陸で最強だと声を上げる王国が、きっと何とかしてくれると考えていた。
どの国も自国の防衛で手一杯なのだ。
毎日の様に民の生命が奪われていく日常が。
どうにも出来ない事に身も心も引き裂かれている毎日が心を壊し、どの様に過ごしているのかすら分からなくなってきているのだから。
三十年近く過ぎた頃、ようやく西方諸島の一国の宰相が魔族の情報妨害を潜り抜け、大陸の情報を収集できた。
その時に明らかになったのはランヴィドール王国の内情が余りにも悲惨な状況となっている、ということだった。
魔族によって人の内から蝕まれていた。
憎悪や猜疑心、殺意までもが溢れかえる王国内は何とか地獄の入り口で踏みとどまっているのが現状だった。
王国が消えて無くなるかもしれない……。
正直、周辺国の王や周りの者達は、その生命が消えたとしてもどうしようもない事だと考えていた。
今は、世界の均衡が……など夢物語を語れる時ではないのだ。
自国の者達の生命の方が何倍も何十倍も大事だから。
けれど、王国が滅亡すれば魔族達の標的は簡単に変わってしまうだろう。
自国よりも権勢を誇っていたランヴィドール王国が此処まで闇の力に呑み込まれたのだ。
自国に魔王達が牙を剥いたら……考えた数国の王達が倭国に嘆願した。
『倭国の勇者をランヴィドールに向かわせてもらえないか』
倭国の皇族に継がれる『勇者』の血の力と、勇者が成し得た偉業は、東方の地では純然たる事実として語られ続けていた。
他国の民の間では、既に御伽話として語られる程度。しかし、王に近しい者は真実であると知っていた。
だが、現在この世界に勇者は存在していないことを他国の王達は分かっていなかった。
土の精霊王の魔力によって『勇者の力』は護られたまま血によって受け継がれてはいる。
力を振るうには『覚醒』することが必要となるのだが、倭国の皇族以外知る由もない。
勇者を向かわせる事は無理であるが、倭国の者には土の精霊の結界と浄化、豊穣の力がある。
第三皇女紫蘭は大きな重責を背負い、ランヴィドール王国に嫁ぐこととなった。
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