お花は舞い散るものらしい
「ところで、イグニスはナルを探していたって聞いたけど、よく分かったわね? まだ森に結界が張ってるから気配が漏れる事はないと思ったんだけど」
「ん? あ〜、俺、ナルの気配なら辿れ―――!」
「お前が『ナル』って言うなっっ!!!!」
父に頭を思いっきり叩かれたイグニスさんは台所のテーブルに勢いよく顔を埋もらせていらっしゃるのですが……無事でしょうか???
「おまっ!! 本っ当に俺の対応酷くないか?!
何なんだよ……大体さぁ、すっげぇ心配して探してたってのに……。お前の娘も俺に冷たいし………」
え? えぇ?! 私、また巻き込まれるの?
イグニスさんこそ私への対応が酷いと思います。そんなこと言うから、母と兄の『え? リアン……なにしたのぉ?』と探る様な視線が痛いじゃないですかぁ。
「お前が調子に乗って名を呼ぶのが悪い。その名を口にして良いのはこの世でヴィーだけだ!」
「あら! ふふ……ナルったら」
急なお花畑の展開についていけない私達は両親をスルーする事にしてイグニスさんの側に寄る。
「イグニスさん、頭とおでこ大丈夫? ……すごい赤くなってる…」
父ぃ、容赦ないです……おでこに木目の跡がついてる……。
「お兄ちゃん、イグニスさん冷やしてあげた方がいいと思う……」
おでこをさすさすしていると、手に濡らしたタオルを持った兄が眉を下げて申し訳なさそうにイグニスさんに頭を下げた。
「重ね重ねお父さんがすみません……」
「ほんとにすみません…」
兄妹で冷たいタオルで冷やしながら謝罪です。
「……いや。俺も調子に乗って名前呼んだから…ていうか、俺には呼ばせてくれんとか……へこむわ」
段々と小さくなっていく声に哀愁が漂ってるイグニスさんに、流石に悪いと思ったのか、
「―――っ『ナル』は駄目だけど、俺はお前にだけ『ナギル』って呼んでいいって言ってた!」
と父が少し頬を染めてぷいっとしながら言う。
すると、イグニスさんも少し照れたのか「まぁ、確かに俺だけなんだけど〜、そうなんだけどさぁ! でも、なんか『ナル』もいいなぁて思って呼んでみたくてさぁ」と可愛く笑う。
今度はこっちに花が咲いたのか??
あっちもこっちも満開ですよ。勝手にしてください。
はははと乾いた笑いを零す私の横で、腕を軽く組み、顎に手を添えて首を傾げる兄。
「お父さんって『ナギル』が名前なの? 『ハナール』じゃなくて?」
あ、それそれ!!
「うん。私も思ったぁ〜」
どういうことでしょう?
兄もエアル様と契約を結ぶ時に名乗った名前が『レオン』では無かったとお聞きしました。
いい機会なのでこの際教えてほしいなぁ、ねぇ、お父さ〜ん。
にっこ〜っと父に笑顔を向ける私と、聞いてよかったのか不安そうな表情の兄に見つめられた父が深〜い溜息を吐きました。
いろんな人物が暴走気味な話です。
一番の良識者が主人公ではなくて兄のところが、作者が一番の暴走者であると物語っています…。




