絵本の真実⑥
霧散したかつて少女であった霧は、風の王のピアスへと吸い込まれた。
途端、様々な記憶が叩き込まれた。
人一人分の幼い頃からの経験とあらゆる感情は、精霊としては若い風の王には苦しいものであった。好意を寄せていた者だったからより一層で。
教会に来る前の、拷問かと思えるような家族からの虐待。
ある幸運でその場から逃げ出すことはできたが、深い傷は住処を教会に移したとはいえ癒えることは無かった。
一年、二年と教会で過ごす時間の中で風の王と出逢った。
青少年の姿をしているのに自分よりも幼く感じる不思議な存在と少しずつ心を通わせることが出来たことは奇跡な様なもので……。
だからこそ、いつか失う事に恐怖を覚えてしまった。
その隙を魔族につけ入れられ、破滅という名の深淵に身を投じてしまった少女。
全てを知ってしまった風の王は絶望した。
闇に染まった魂は輪廻の輪に戻ることは許されない。つまり、もう二度とエリカに会うことは出来ない。
自分は永い時を生きることが出来るから、きっと何度でもエリカに逢える。
聖女になれるほどの魂ならば、きっと生まれ変わってもその輝きだけで直ぐに気づけるだろう。
少しの別れは寂しいが、それでも共に過ごせる時間を思えば耐えれる。なんなら、眠りの期間のように時間をとめておけばいい。
胸の中を満たしていた温かな感情は全て砕け散った。
風の王の心は壊れた。
霧が全て吸い込まれた後、風の王は全身を黒に染めあげ暴風を起こした。
周囲一帯は瓦礫すら残さない荒地と化していた。
そこには、闇堕ちし魔王と呼ばれる存在となった異形の者が佇んでいた。
絶望は闇を増幅し、荒野には無数の魔物が闊歩し人を襲う様になった。
魔物達に際限なく注がれる魔王の力は、闇のもの達にとって甘美な酒。
歓喜の雄叫びを上げながら人々を蹂躙していく。
気づけば僅か数年で、大陸の人口は約半分となっていたが、抵抗する術を失って等しい人々に出来ることなど少なかった。
大昔であれば。精霊と共に過ごしていた頃ならば。魔法という抵抗手段もあっただろうに。
魔法を使える人間は数少ない。
居ても、王侯貴族。稀少な力を血縁に取り込む事で保持していた。
だが、その力はあくまで権力を誇示する為で、民草の者を守る為に振るわれる事はない。
50年後、大陸の人口は三分の一まで減った。
王国は後がなくなり……東方の皇族にして勇者の血を引く王女が旅立つこととなったのだった。
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「ホントね〜、大――――っっ変だったのよ!!」
母の心からの言葉。タメが長い事が物語っている。
うんうん、一人で戦ったんだもんね。分かるよ、母。辛かったよね。
「ナルの浄化は上手くいったのに、その後もグチグチといつまでも自分の殻に閉じ篭って! 何言っても『どうせ自分は……』とか言って聞きやしないしっっ また魔王になるんじゃないかってヒヤヒヤしたわよ!!」
あ?戦いの方でなく、そっちでしたか……。
父と母の過去篇(絵本)は一旦終了〜。わーい。




