絵本の真実⑤
『どうかしたのか?』
訝しげに少女の顔を覗き込む風の王に、言い淀んでいたが『ピアス』を身につけた為、猶予が無かった少女は口を開いた。
親切な人に『今、ピアスを着けたのなら来年の春までに相手に対のピアスを着けてもらわなければ。このままでは貴女様の生命力が尽きてしまいますよ』と言われていたから。
身につけた後でこんな事を言うとは……きっと他の人がこの事を聞けば『騙されている』としか言わない様な状況なのに、少女は何故か魔族の言葉を疑うことは無かった。
「私、貴方が好きなの!ずっと一緒にいたいの!!」
「……え?」
「だからこれっっ 着けて!!」
畳み掛ける様に少女から想いを告げられ、握り拳を突きつけられた風の王は、嬉しさと戸惑いの中で言葉を失っていた。
少女からは、呆然としているように見えたのだろう。少々苛ついているかのように、
「手!!」
と、ドスの効いた声で言われる。
ビクッと体を跳ねさせながらも、
「え! あっ はい!!」
と、返事しおずおずと手の甲を上に差し出すと、「違う!」と手首をガシっと掴まれ掌を上に向け、窪みにピアスを押し付けられた。
あまりの剣幕におどおどと尋ねる。
「………これ、着けたらどうなるんだ…?」
「……おまじない。ずっと一緒にいれるっていう…か……一緒に生きてけるっていうか……寿命を分け合うっていうか…」
段々と小さくなっていく少女の声は、後ろの方は何を言っているのか分からなかったが、少女に『好き』と言ってもらえたことで浮かれてしまい「―――ふ〜ん」と軽い気持ちで耳朶にピアスを刺していた。
「どうだ?似合うか?」
艶やかな微笑を浮かべ少女に尋ねた。
少女は、自分の言葉を肯定してくれた行動を示した風の王に向かって顔を真っ赤にしながら首を勢いよく縦に何度も振る。
幸せの光景。
きっと、誰もが思ったであろう風景は、耳をつん裂く様な雷の音と共に脆く崩れた。
二人の側に立っていた月桂樹は雷によって真っ二つに割れた。
あまりの至近距離に鼓膜が痛い。耳が熱を帯びているかの様で熱く、音を拾うこともできない。
どちらかと言うと自分の体内の音が響いてくる。
「エ、エリカ!」
風の王は隣に居たはずの少女の名を叫んだ。無事を確かめたかった。だが、風の王の耳に飛び込んできたのは、空気を切り裂く様な悲鳴。
「いやーーっっ ぃ…痛い!! 助けて!」
声の方を慌てて向くと黒い霧に纏わりつかれている少女が地の上を転がりながらもがいている。
どうしたらいいのか!?困惑する風の王を置いてけぼりにして少女の体が指先からボロボロと崩れ出した。
痛みと自分の体が崩れていく事に少女の精神は保たなかった。
人とは思えない叫び声をあげ続けていたが、時間にして数分経っただろうか。
体の殆どが崩れ、最期、目と目が合った瞬間、大粒の涙を一つ零し少女の全てが黒い霧となっていた。
【花言葉】
エリカ 孤独・裏切り・寂しさ
月桂樹 裏切り




