寒いのは苦手です
父と私の周囲の空気が変わった、そう感じた瞬間、地上のカイを中心に、目だけを出した黒の布巾で顔を覆い、黒の上下黒の武官服を着た十数人が取り囲んでいた。
皆、一様に父に対して敵意の視線を向けている。自然、腕に抱かれている私にもその余波は来る。背筋に冷たい汗が流れた。
ひゅーーーっと息を呑む音に父が私を覗き込む。
「怖がらせた。リアン、すまない。今すぐ、あの害獣は駆除する所以待ってくれ」
嫌悪を多分に含ませた棘のある言葉とは真逆な満面の笑顔を私に向けると、背中に回していた左掌を上に向け魔力を練り上げ出した。
掌の上には2センチ程の金色の球体が浮かんでいて、その球体の中心に向かって風がぐんぐんと吸い込まれていって球体の魔力の密度がどんどん膨れ上がっていく。
そんな父の様子を見ていた武官服を着た人達は緊迫した気配を見せ始めた。
短剣や長剣を取り出す者や魔法を発動する為に詠唱を始めている者。一足触発という単語が頭に過った……。
が、ただ一人、カイが笑顔で私達を見つめ口を開いた。
「ふふ……狭量な男は嫌われますよ」
この状況で笑えるって凄いな! ビックリだよ。
しかし……この二人の関係はなんなんだろね。相容れない関係性ってのは何となくわかるけど。
「残念だったな。ヴィーが私を嫌う事は一生あり得ない」
「そうですね。ですが、私が嫌われることもないと確信があります。どちらかというと好かれている自信があります」
胸に手を当ててにっこりと笑うカイが怖いっっ
父は怒りが360度回った為か、無表情で目が据わっている。あぁ、こっちも怖い……。
「そうだな。好かれてはいるだろう。玄孫とかへの好意だろうが」
言外に『異性としての好意ではない』ということを言ってるようだ。
カイの笑っていた目元がぴくっと痙攣した。
――ふむふむ。母をめぐっての喧嘩なら私も参戦しますよ! もちろん、父の味方ですっっ
……ところでカイの周囲の皆さんが2人の会話を聞いて戸惑っている。
主(?)が危険だ!!と戦闘態勢に入った途端、母の事で互いが牽制しだしたんだから困っちゃうよね〜。
色恋沙汰でこんな危機的状況とかやめてくれ!?とか誰か突っ込まないかな?
え? 無理?? だよね〜、馬に蹴られたくないよね〜。ははっ
だけど、いつ何時、攻撃が来るか分からないので気が抜けないよう。護衛の方、お疲れ様です!
私はどうしようかな?と父を見つめる。『やっちゃう? やっちゃおうか!』と、父の腕の中だからか好戦的になってるかも。
多分、私の目はランランとしてるんだろう。
そんな私の表情を見て父は苦笑いを浮かべた。そして、掌にあった魔力が霧散した。
「一応聞いてやろうか。何をしに来た」
「お迎えにあがったのですよ。愛しの宵闇姫を」
父の笑顔は、より一層冷気を伴い艶やかさを増した。
カイも花が綻ぶ様な笑顔で。
笑顔での応酬がこんなに周りを凍り付かせることができるなんて!
60年近く生きてて初めて知ったよ!!




