第69話 ノルマンさん、カッケーっす!
── くそう…よりによって部隊一チャラいパリピ3人組に教えを乞う日が来るとは…。
教えてもらう…という立場なのに謙虚さと真剣味が足りないハンニバル。ちょっと反抗的だ。
── 確かに、今の俺にあの店のデートは無理だ。しかし俺だってやれば出来る子だ。そのはずだ。
「実践はまだ先ですね…」
「教えることが山ほどありますから」
「当分はカデンちゃん同伴ですよ」
パリピ達の言葉を思い出すハンニバル。
── あの店は例外だ。難易度が高すぎる。他の店だったら俺だって…。
パリピ達が貸してくれた教本(ファッション誌)を開くハンニバル。
「…………」
── 確かにカデン無しでは絶望的だ…。
パンの種類やドレッシングを選んでオーダーするフレッシュ・ウェイ・サンドウィッチや、謎のカスタマイズが怖いハートバックス・コーヒーも1人で行けないことを思い出したハンニバル。しなしな〜と反抗的な気持ちが萎れてゆく。
── そもそも、ハートバックス・コーヒーのサイズ設定は何だ!?……ショートとトールはいい。分かる。
だが、グランデとベンティ、お前らはダメだ、許さない。どっちがLでどっちがLLだ!グランデが1番大きく感じるぞ。
それにカフェラテとカフェオレ、お前たちもだ!どこがどう違うのか自己紹介してみろ!
「お待たせしましたー」
「隊長は復習ですか? 熱心ですね!」
「心強い味方を連れて来ましたよー」
ハンニバルがコーヒーに怒っているとパリピ3人組が現れた。ゲストも一緒だ。
ちなみに今日も阿修羅は勘助のところだ。
「初めまして、ノルマンと申します」
パリピ達が連れて来たのはパリッとした紳士だった。ちゃんとし過ぎてパリピとの接点が謎だ。
「ハンニバルだ」
「隊長! ノルマンさんは、あの店のフロアマネージャーなんですよ」
「もう直接お話ししてもらった方がいいかなって!」
「ダメ元で相談してみたらオッケーでした!」
「そ、そんな…俺のためにわざわざ来ていただくなんて…」
「いやあ、それほどでも!」
「この礼は次の査定で!」
「期待してまーす!」
「いやお前らでは無い。ノルマンさんに言った」
「えー!」
「ひどーい!」
「じゃあ帰りましょうか!」
「…待て……俺が悪かった」
途端に謙虚になり、パリピにすがるハンニバル。
「この度は当店のご利用をご検討くださっているにも関わらず、分かりにくさでご迷惑をお掛けしております」
ノルマンさんが頭を下げる。そんな姿まで優雅で美しい。ノルマンさんの紳士ぶりに圧倒されるハンニバル。
「い、いや…そんなことは…」
そんなことある…と思っていたのだがノルマンさんに文句とか絶対に言えない。
「ご説明の機会をいただけて光栄です。当店がキッチリとすべてを説明していないのには理由があります。
まず飲み物についてです。女性のメニューには価格を表記しておりませんが、男性のメニューには税とサービス料金込みの価格を記載しております。ご予約の段階でご予算やご希望もお伺いしておりますが、女性のご意見もお伺いしながらその場で臨機応変に対応するため、少々曖昧にしております」
『ハンニバル、難しくて分からない…』そんな顔だ。
「ああ…」
「えっと…」
「実際にやってみますね」
「僕が女性でロボが男性ですよ」
見ていられないパリピが見本を見せてくれるようだ。
「メニューをどうぞ」
ノルマンさんが差し出したメニューを広げたロボが女性役のシベリアに向かって話し出す。
「今日は魚料理だから白がいいかな、初めて会った時、辛口の白を飲んでいたよね?」
「はい、すっきりとした白ワインが好みです。ロゼもいいけれど、今日は魚が美味しそうだから」(裏声)
「僕らはすっきりした辛口の白が好みなんだけど…このくらいでオススメはある?」
シベリアが男性用メニューの中から適当な価格を、さりげなく指差しながらノルマンにたずねる。
「おお! そのような裏技が!」
シベリアの裏声にげんなりしていたハンニバルが途端に元気になる。
「ミュスカデはいかがでしょう? 辛口で爽やかな風味が本日のお料理を引き立てます。
グリーンがかった淡いイエローが目にも美味しいですよ」
「それは素敵ね!」(裏声)
「ミュスカデの中でもこちらは温暖な年のものですので、酸と果実味のバランスが理想的です」
思い通りの銘柄に賛成するよう、女性が好みそうな描写で女性を誘導するノルマンさん。
しかし再び『ハンニバル、難しくて分からない…』そんな顔だ。
「隊長、今のは分かりましたよね?」
「…ミュスカデって何?」
「……」
「……」
「……」
「ミュスカデはブドウの品種ですよ。フレッシュな柑橘系の香りが特徴です」
無言&無表情なパリピ3人組に代わって、にこやかなノルマンさんが優しく答える。
『こんなところに連れて来てしまって申し訳ねえ!』『こんな人に会わせて済まねえ!』
そんな気持ちのパリピ3人組だったが、ノルマンさんは穏やかに優しくハンニバルのすべての疑問に答えた。
「私たちはお客様の秘書のような存在であると考えてください」
紳士なノルマンさんが、カッコいいセリフで締め括った。
「いや限度がありますからね!」
「隊長は僕らとシミュレーションを頑張って!」
「今のまま来店したらサービス料金を80%くらい取っていいと思う!」
「…いえいえ、私もとても勉強になります」
「うちの隊長、これでも貴族なんです…」
「それだけお仕事を頑張っていらっしゃるということでしょう? ありがたいことです」
ノルマンさんこそ心の貴族だと思うパリピ3人組だった。




