396.塩漬け案件、レッサーワイバーンの討伐 sideアリサ
ただ私はケンツさん個人に対してちょっと……いやかなり気になる事があった。
それは、この人の容姿、それに臭いと垢。
臭いと垢は人目の付かない所でホーリーピュアファイで消すとしても、その浮浪者同然な容姿で本当に仕事を回して貰えるのだろうか?
「あのケイトさん」
「アリサさんの不安はごもっともです。そしてその不安は現実のものとなるでしょう」
あ、やっぱりこの浮浪者ファッションじゃダメなんだ。ケンツさんをまともな身なりにしないと!
でもこの人、お金持ってなさそうだなぁ……
普段の寝泊まりとか、やっぱり公園のベンチや茂みの中とかだったり……
うーん、これは仕方がない。ちょっと力を貸しますか。
ケイトさんから【ラミアの森・フォレストラビットの討伐】を詳しく聞いてみたところ、討伐は週四日のみの仕事で、それ以外は受け付けていないらしい。
つまり週のうち三日は空き日。そして明日、明後日、明々後日と空き日が続く。
「ケイトさん、私達でも受けることが出来る高額案件はないですか?塩漬け案件でもかまいません」
むしろ塩漬け案件だとありがたい。他の冒険者と競合することが無いから。
「え?塩漬けですか?そりゃ幾らでもありますけど……」
「紹介して下さい。どんな案件でも解決して見せます!」
「いやおまえ、いきなり何言ってん……」
ケイトさんもケンツさんも怪訝な顔をする。
「ケンツさん、そんな汚い姿で何が出来るの?なんでそんなに酸っぱい悪臭を漂わせたままで平気なの?穴の開いた靴で森の中を歩けるの?そんな姿じゃ不審がられて森林保安官に追い払われちゃう。剣の手入れもしていないみたいだし……ねえ、ケンツさん、お金ないんでしょ?だったら稼がなきゃ!冒険者なんでしょ!」
マシンガントークで何か言いたげなケンツさんを封殺する!
その間にケイトさんは解決困難な塩漬け案件依頼の束をペラララララ~と確認。一枚の依頼書を抜き出した。
「えっと、これなんか如何です?【レッサーワイバーンとサラマンダーの討伐 要三級以上 討伐料金40万ルブルから】」
どれどれ、馬に乗って一時間くらいの距離か。これなら今からでも行けそう!
「依頼主の村長さんは寛大な方なので、ケンツさんの容姿でも大丈夫だと思いますよ」
これはもう決まりね!
しかしケンツさんは慌てた顔で止めにはいった。
「まてまてまて、レッサーワイバーンとサラマンダーの討伐で40万ルブルって安すぎるだろう!?そもそもなんで三級からなんだよ?完全に一級以上の案件じゃねーか!」
「だから塩漬け案件なんですよ、どうされます?というか当然断りますよね?」
「当たり前だ!こんなもん受けて――」
「受けます!ケンツさん今すぐ行きましょう!今ならさっさと倒して日暮れまでに戻ってこれますよ!」
「嘘だろう!?」
私達は依頼を受け、ケンツさんとギルドを後にした。
ギルドから少し歩いたところで――
「ストール!」
― キュイイイイイイイイイイイイイイイン……
時間停止空間が開き、愛馬ファイスが出て来た。
「おわ!なんだその馬は!?」
ケンツさんは突然登場したファイスに驚いた!
「説明はあとで!さあケンツさん、後ろに乗って!」
「ブヒヒヒヒヒヒイイイイイイイイイイン!!!!!」
しかしファイスが全力拒否!
『近づくと殺す!』とばかりに蹄を掻いてケンツさんを威嚇する!
「そうそう忘れてた。ホーリーピュアファイ!」
キラキラと金色の粒子がケンツさんを覆い、一気に浄化させた!
着ている服はボロッちいままだけど、汚れと悪臭は完璧に消えた!
「うおおおおおお!どうなってんだ、こりゃあああ!?」
「驚くのはあとあと!さあ早く乗って!」
まだ嫌がっているファイスを宥め、私はケンツさんを後ろに乗せた。
「さあケンツさん、飛ばしますよ!ハイッ!」
「ヒヒーン!」
― パカラッ パカラッ パカラッ パカラッ
私達は、レッサーワイバーンとサラマンダーが出没するという村に全力で向かった!
*
「ここがレッサーワイバーンとサラマンダーの出没する村ね」
「うう、気持ち悪い……なんつー飛ばし方しやがる……」
馬に酔ったケンツさんを無視して、まずは村長さんの元へ。
詳細を聞くとどうやらレッサーワイバーンとサラマンダーは、あと一時間もしないうちに村が経営する牧場を襲いに来るそうだ。
「じゃあケンツさんは地上に逃げて来たサラマンダーの討伐をお願いします。私はレッサーワイバーンと飛んでいるサラマンダーをやっつけますから」
「へ?いやいや。ちょっと何を言ってるかわからないんだけど???」
「そのままの意味です。あ、レッサーワイバーンとサラマンダーが来ましたよ!じゃあ作戦通りお願いしますね。スワローフライ!」
「作戦?いやこれが作戦ってどういう事だってばよ!」
頭に〈?〉をいっぱい付けたケンツさんとの話を打切り、私は大空へ舞い上がった!
『ギャアアアアアアアアアアアアアアアス!』
『クキャアアアアアアアアアアアアアアア!』
きたきた、レッサーワイバーンとサラマンダーがきた!
レッサーワイバーンは体長約5メートル前後、その数4体。
サラマンダーは体長約2メートル前後、その数約30体。
「いくわよ、手加減無しのペタボルトォォォォ!」
― カッ……ガラガラガラドッシャアアアアアアアアアアアアアアン!!!!!
轟音と共に目の前の敵に雷のシャワーが降り注ぐ!
『ブルギャアアアアアアアアアアアアアアア!!!!』
『キュイイイイイイイイイイイイイイイイイ!!!!』
雷撃はレッサーワイバーンとほとんどのサラマンダーに直撃!
サラマンダーは次々と墜落していく!しかし何匹か打ち漏らした。
一方、レッサーワイバーンは流石に飛竜の一種だけあって、大ダメージを受けつつも私の雷にも辛うじて耐えた!
「ちっ、サラマンダーの何匹かは打ち漏らしたか!地上に向かっているけどケンツさんで大丈夫かな?」
しかしその心配は全くの杞憂。
― バシュッ!ザンッ!
ケンツさんは手入れの出来ていない錆びた魔法付与剣で、打ち漏らしたサラマンダーと互角以上に戦えていた!
「へぇ、ケンツさんって結構やるんだ。あれなら任して大丈夫そうね。なら私の次の狙いは……」
当然レッサーワイバーン!
「はあああああああああ!!!!」
― ビチッ!バチバチバチバチ!
全身に雷気を漲らせ、力を充実させていく!
「一撃必殺、雷帝彗星斬!てりゃあああああああああああ!!!!!!」
― ガラガラガラガラ!ズバッシャアアアアアアアアアアアアアア!!!!!
『ギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアス』
真一文字に振り抜かれた雷帝彗星斬の雷斬波が、四体のワイバーンを纏めて屠った!
「よし、討伐完了!ケンツさんの方はどうかな?」
地上に目にやると、ケンツさんが最後の無傷なサラマンダーとやりあっていた。
「魔法剣、フローズンスラッシュ!」
― ブオッ、ゴガアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!
氷刃の斬撃がサラマンダーを一瞬にして凍て斬った!
『ギャシャアアアアアアアアアア!!!!!』
「サラマンダーを凍てつかせる斬撃!?あの人やっぱり強いんだ。剣に多少振り回されている感はするけど、二級相当の実力は余裕でありそう……」
雷を逃れたサラマンダーを全て屠ったあと、ケンツさんは地上に転がっているサラマンダーをプチプチとトドメを刺して回る。
私も地上に降りて生き残りのサラマンダーにトドメを刺した後、討伐部位を回収して回った。
それから村長さんに討伐完了のサインをもらって、無事ミッションコンプリートだ!
「さあケンツさん、急いで戻りますよ!」
「ひえええええええええ!!!」
― パカラッ パカラッ パカラッ パカラッ
私達はまた全力で冒険者ギルドへ向かった。
*
◆リットールの冒険者ギルド
「おいケイト、レッサーワイバーンとサラマンダーの討伐を完了したぜ!討伐部位を確認してくれ!」
― ざわっ!?
堂々としたケンツさんの声に、周りの冒険者達がざわめきたつ。
「あいつ、今なんて言った?」
「レッサーワイバーンとサラマンダーの討伐完了って言わなかったか?」
「絶対嘘だ!ケンツ如きがレッサーワイバーンなんて……!?」
「ケンツのクセに生意気だ!」
格下と思っていた者が、とんでもない活躍をして驚く様。
ふふふ、なんかいい感じです。
「ケンツさん、本当に討伐されたのですか?お二人が出かけてから三時間も経っていないと言うのに……しかしこれは確かに村長直筆のサインが入った討伐成功の書類、それにこれもレッサーワイバーンとサラマンダーの討伐部位である魔核!?」
「見ての通りだ。早く鑑定してくれ」
ケイトさんは物凄く驚きはしたものの、すぐに鑑定を終わらせ討伐料48万ルブルを現金で支払ってくれた。
「さあケンツさん、お金を手にしたところで次にいきますよ!」
「え?行くってどこへ!?」
私は戸惑うケンツさんの背中を押して、リットールの街中へ。
まずは靴屋。
ケンツさんの履いている革靴はボロボロだ。しかも所々食べられた後がある。まさかとは思うけど、食うに困って革靴をかじったのかしら……
出来るだけ考えないようにして剣士の靴を購入。
次は服屋と防具屋。
ホーリーピュアファイを掛けても臭ってきそうなケンツさんの服を捨て、パリッとした剣士風の冒険者衣装に買い換える。
そして散髪屋。
長く紐状に絡み合った髪を清潔感あふれる短髪にチェンジ!
最後は武器屋。
「ケンツさん、この剣は素晴らしい剣ですが、今のケンツさんには合っていませんよ。思い切って買い替えましょう!大丈夫、実は私の想い人は鍛冶屋でして、私も多少の目利きは出来ます。さあ早く早く!」
品揃えの良さそうな武器屋に入り予算の許せる範囲で、ケンツさんにバッチリ合いそうな魔法付与剣を探し当て購入。
「ケンツさん、どうですか?」
「これは確かに剣を振る鋭さが数段増したな。しかし耐久性は少し不安がある」
「それは仕方がないですよ。もう少し稼いだら軽くて耐久性のある剣にまた買い換えましょう」
新しい剣を腰に携えたところで、改めてケンツさんを見る。
うん、これなら大丈夫。浮浪者と思われて森林保安官に追い出されることも無いわ。
どこからどう見てもいっぱしの冒険者ね。
それに、なかなかどうしてケンツさんもイケメンの部類じゃない。
落ちぶれる前は、そこそこ女の子を泣かしてそうな感じ。
「さあ、容姿も整ったところでレストランに食事いきましょうか。それから今日の宿を探しましょう」
「レストラン!?いいのか?俺なんかがレストランで食事しても!?レストランのゴミ箱じゃないんだよな!?」
「…………」
うわぁ、なんて卑屈な……心が最底辺に染まり切っちゃってる。
この人、社会復帰できるのかな?
躊躇しているケンツさんの背中を押して、レストランへと向かった。
【重要】
ティラム逃亡記第七章の視点違いの姉妹作品の紹介
【追放した側のファンタジー・英雄ケンツの復活譚】』
https://ncode.syosetu.com/n5138hd/
主人公ケンツの視点を主とする恋愛色の強いハイファンタジー小説です。
登場人物も本作第七章とほぼ同じで、ティラム逃亡記では書かれていないシーンもあります。
時間軸(物語の進行)を合わせながら読まれると面白いかもしれません。(ただしネタバレ覚悟!)




