397. 一人寝の寂しい夜 Sideアリサ
Sideアリサ
「ケンツさん、このレストランなんてどうですか?」
私は入り易そうなレストランを見つけて指さした。
「え、俺なんかが入っても大丈夫かな。叩き出されるんじゃ……」
「もう……今のケンツさんは黙ってさえいれば中々の好青年ですよ。卑屈になるのはいい加減にやめましょう!」
「お、おう、そうだな。よし入ろう」
私とケンツさんは店内に入り、適当なテーブルに案内された。
オーダーをすませ、料理が来るまで話し合う。
「それでコンビを組む条件の再確認ですが……」
私はラミアの祠に行くためにケンツさんのパーティーに入った。
しかしそれはあくまで一時的なモノ。
ユーシスと遭遇、もしくはユーシスがリットールにいない事を確認次第、すぐにコンビを解消する。
【ラミアの森・フォレストラビット討伐】が休みの日は、出来るだけ塩漬け案件をこなしお金を稼ぐ。
私の取り分は討伐料の四分の一。少ないと思うかもしれないが、あまり多く貰うとコンビ解消時に揉める可能性があるのでこの割合にしてもらった。
討伐に行かない日は、私は街に出てユーシスの捜索をする。それ以外の空き時間はケンツさんに技の指導することに。ケンツさん的にはこれがもっとも重要なようで、レッサーワイバーンを倒した私の実力を目の当たりにしてからは、とにかく教えを乞おうと必死で頼んで来たのだ。
あと条件ではないけれど、三日後に冒険者ギルドにて昇級試験があるとかで、ケンツさんに二級冒険者昇級試験を受ける事を勧めてみた。
私の見た限り、ケンツさんの実力は三級冒険者の枠ではなく、間違いなく二級冒険者としてやれるはずだ。装備を一新した今、きっと余裕で受かるはず。
「オーケイ、全て了承した。と、言うか何から何まですまねぇ」
「双方に益のあることです。これくらいお互い様ですよ」
レストランで食事を済ました後、私達は今夜の宿を探した。
「ケンツさん、部屋に良い鍵が付いていてシャワー完備の宿はリットールにあります?」
「宿!?そうか、金があるから公園のベンチや茂みで寝なくていいんだ!やったぜ、もう酔っ払いに小便かけられたりゲロをかけられたりせずに済む!」
「…………」
なんだろう、ケンツさんが喜ぶ度に、憐みの涙が出そうになる。
「えっと宿……というかホテルだな。あることはあるけど結構高いぜ、一泊三万ルブルはすると思う。ちなみにシャワーと鍵の無い安宿なら千ルブルであるぞ」
「じゃあ三万ルブルの宿にしましょう」
「え、そんな贅沢してバチがあたらないかな……」
「…………」
いやまあ気持ちはわかりますよ。私だって普段は三万ルブルなんて高い宿……というかホテルには特別な何かな時しか泊まらないし。
でもずっと野宿ばっかりだったし、たまには柔らかいベッドで身体を休ませたいの。
それに安宿ってセキュリティーがザルだから、独りだと安心して寝ることが出来ないのよね。
「ケンツさんは一年のあいだ耐えてきたんですし、今日はご褒美ってことでたまの贅沢くらい良いのでは?」
「そうかな?そうだよな。うん今夜くらい御褒美でもいいよな!せっかくアリサが一緒に泊まってくれるのに断るのは失礼ってもんだぜ!」
は?
一緒?
この人何を言ってるの???
「いやいや、ケンツさん、何を言っているんですか。部屋は別々ですからね!」
「ええっ!?」
驚き固まるケンツさん。
「何で絶句してるんですか!」
「いやでもせっかくの良いホテルだし……それに安宿と違ってホテルで独り寝ってのはかなり寂しいもんだぜ?大丈夫か?」
「寂しくありません!それに今まで独りで野宿してたので大丈夫です!」
この人真顔でなに言ってるの?
一緒の部屋で寝泊まりするわけないじゃない!
だいたいケンツさんは、シャロンって想い人と別れてからずっと女日照りだったはず。
そんな女に飢えまくっている人と一緒の寝泊まりなんてあり得ないから。
とりあえずそれなりに格調高いホテルに案内されてホテルフロントへ。
「すみません、シャワー付きのシングルルームを二つお願いします」
「なあ、ダブルルームとは言わないから、せめてツインルームにしねーか?その方が安いぜ。エロい事なんか絶対にしないからよう」
「御連れの方はああ言っておられますが……それに当ホテルのシングルは〈セミダブルルーム・バスタブ付き〉となっておりまして一泊三万ルブル、二部屋で六万ルブルになりますよ?それならもうワンランク上の部屋で、お二人でお泊りになられた方がお値段も安くゴージャスな……」
「シングルでお願いします!」
少しイラっとして口調がきつくなってしまった。
ホテルフロントで前受け金6万ルブルを支払い、それぞれの部屋の鍵を受け取る。
三階の廊下を挟んだ向かい合わせの部屋を借りることができ、私達はそれぞれの部屋へ。
「それじゃケンツさん、おやすみなさい」
「おう、また明日早朝な」
― ガチャン、カチャリ
部屋の鍵を閉め、すぐにベッドになだれ込んだ。
「ふぅ、疲れたなぁ……」
一気に気が緩み、ダルさが体に圧し掛かかって重みをずっしりと感じる。
ベッドの上で微動だにできない。それに全身が凝っている感じもする。
「ユーシスが一緒なら凝りのほぐしっこするのになぁ……」
……………………
…………
……
― グリグリグリグリィィィ
『いたたたたた、ユーシス痛いってば!』
『なに言ってんだ、こんなに凝らせて!キミちょっと仕事のし過ぎだぞ? 太腿だってこんなにパンパンじゃん』
― モミモミギュウウウウ
『あ、そこそこ!はううう、いい感じ……もっと♡』
『こんな感じか?』
― モミュモミュ
『ちょ、くすぐったい!て言うかなんか指先の動きが突然卑猥に!?』
『え、そうかな?』
― モミュ!
『わひゃああああああん!!』
……
…………
……………………
「…………」
ふとダバスの家の寝室で、ユーシスに身体をほぐして貰った事を思い出し、ジワリと目に涙がたまる。
「大丈夫、寂しいのは今だけだから。ラミアの祠にさえ行けばきっとユーシスに……」
― ノソリ
鉛のように重く感じる体に鞭打って、私はノソノソとバスルームへ行く。
バスタブにお湯を溜めつつ、その横で着ているものを脱ぎ、その場で湯が溜まるまで膝を抱えて小さく蹲る。
やがて湯は溜まり、私は湯舟に身を沈めた。
何もする気が起きず、ぼーっとしながら湯舟でそのまま小一時間……
「ふぅ……」
その後はシャワーを流して、頭の先から爪の先まで身体を洗った。
シャワーが心地よく肌を刺激し、弾けるように湯が流れ落ちる。
「ああ、そっか……」
緊張を解き弛緩した中で、私の身体は穏やかな刺激を求めていることに気が付いた。
別に性的な刺激や快感を求めている訳じゃない。
ただ人肌に、ユーシスの肌に飢えているんだ。
「気付くんじゃなかった、失敗した……」
気付いた事により、ユーシスへの餓えはどんどん大きくなっていく。
私は堪らずシャワーをお湯から水に切り替えて、自分の餓えた肌を諫めた。
そして冷えた体を拭いて、髪を乾かし素肌のまま再びベッドへ。
今度は頭から毛布を被った。
「ケンツさんの言った通りね、この広い部屋に一人はかなりキツイわ……」
壁が厚いこの部屋は、自分が何もしなければほとんど無音だ。そのせいで妙に神経が研ぎ澄まされる。
さらにセミダブルの広いベッドは自分が孤独であることを痛感させられてしまう。
そして時間が経つとともに、孤独に押しつぶされそうになる。
「ユーシス……」
知らず知らずのうちにユーシスの名を何度も口にして、ベッドの中で居るはずのないユーシスを探し、あるはずのないユーシスの脚に自分の脚を絡めようと藻掻く。
滑稽な自分……
今更ながら、自分がいかにユーシスに依存しきっているかを思い知らされる。
「ユーシス……ユーシス……寂しいよぅ……辛いよぅ……」
その晩、広いベッドの真ん中で、私は涙を流しながら枕をぎゅっと抱きしめ、豆粒のように小さくなって寂しい夜を過ごした。




