395.三級冒険者ケンツとの出会い 03 sideアリサ
「お断りします」
当然の却下!
そりゃそうでしょ。
ナンパじゃあるまいし、出会って10分ほどの関係で、“はい”と言えるわけがない。
もし“はい”と言えるとしたら、それはかなり頭が弱い子だ。
おあいにく様、私はそんなに頭の弱い子じゃないし、チョロインでもありませんのであしからず。
「じゃあケイトさん、例の件について……」
私はケンツさんを無視して、こちらの用件を進めようとしたのだが……
「待ってくれ!話を聞いてくれ!おいケイト、ちょっと頼む!」
この人、ケイトさんを巻き込んだ!なんて迷惑な……
「ケンツさん、どうかされましたか?」
「ケイト、すまんが俺の身に起きたことをアリサさんに説明してやってくれ!俺はどうしてもこの子とパーティーを組んで這い上がるんだ!そしてシャロンを取り戻すんだ!」
「はぁ?」
「いえ、そう言うの本当に結構ですから……」
何やら訳ありなようだけど、私には優先すべきことがある。
悪いけどケンツさんには構っていられない。
それに周囲の視線が集まって、不快な事この上ない。
「ここじゃ注目を浴びているので奥に行きましょうか。アリサさんも来てください。先程の問い合わせにも一緒にお答えいたしますので」
ケイトさんは察してくれたのか、(消臭スプレーをかけながら)私達を応接室へと通された。
「――というような事がケンツさんの身の上に起きたのです。彼は今どん底です。そこから這い上がって愛するシャロンさんを迎えに行きたい……とケンツさんは思っているのですよ」
「そ、そうなんだよ!だから頼む!あんたの力を貸してくれ!俺にチャンスをくれ!」
どうやらこのケンツさん、元はアドレア連邦認定勇者にもっとも近い男と言われる程の実力者だったそうだ。
しかしその実力は、実は実力ではなかったのだ。
その力の源……なんとそれは彼が解雇した〈バーク〉と言う名のポーターのバフ効果だった!
そしてケンツさんを始めとする彼のパーティーメンバーもろとも、不正昇格・虚位報告の嫌疑をかけられ、一気に落ちぶれてしまったらしい。
結局、故意であることは確認できず(実際故意ではなかったそうだ)、降格処分となったのだが、以降ケンツさん達は周囲の人々から常軌を逸脱した過激なイジメの的にされたそうだ。
普通の人ならここまでのイジメには合わなかっただろう。しかしこのケンツさんはアドレア連邦認定勇者にもっとも近い男と言われる程の有名人!世間の目はかなり厳しくなってしまった。
そして負の連鎖に陥り、ギルドからもまともな仕事も回してもらえず生活は困窮していった。
逆に追放した元ポーターのバークは冒険者に転向し、メキメキと頭角を現し始めた。(ポーター時代のバフについては冒険者になる前だったこともあってお咎めは無かった)
ケンツさんのパーティーメンバーは、イジメを逃れるためパーティーから離れバークの元に身を寄せ、最後に残った最愛の幼馴染シャロンさんも、ケンツはバークに押し付けるようにして自ら破局させた。
そしてケンツさんはなんとかして復活することを目指し、なんとしてもシャロンさんを迎えに行きたいと思い、日々悩み苦しんでいたそうだ。
そんな時に私が現れ、ケンツさんは光明を見出したらしい。
なるほど、ケンツさんの状況はわかったけど、今の私には他人の手助けをする余裕など全く無い。
むしろ助けて欲しいのはこっちだわ!
「お気持ちは御理解致しますし同情もします。ですが返事はノーです」
私は情に流されないように、かなり冷たい口調で断った。
「なぜだ!アンタには俺の気持ちが伝わらないのか!?あんただって想い人と引き離されたら必死になるだろう!わからないのか!!」
なおも食い下がるケンツさん。
しかし今のケンツさんの言葉は、私の心を刺激するのに十分だった。
― ピクンッ
「わかるわよ!想い人と引き離されたのが自分だけだと思っているの!?私だって必死でユーシスを探しているの!だから邪魔をしないで!」
思わずキレてしまった。
鉄の仮面に徹していた私の表情が、一気に怒気をはらんだ表情へ変化し、そして連邦に来てからずっと耐えていた涙が一気に流れ出た。
「アリサさん、落ち着いて!」
突然の激昂に驚いたケイトさんが、ハンカチを渡して落ち着かせようとする。
「すみません、つい……ケンツさん、私はね……」
私は自分の身の上を泣きながらポツポツと話した。
【逃亡者の都】と呼ばれる街ダバスに住んでいたこと。
ラミア大神殿の転送事故に巻き込まれ、想い人【ユーシス】が何処かへと飛ばされてしまったこと。
私はユーシスを追ってアドレア連邦まで来たこと。
「そうだったのか、すまねぇ……無理に誘って悪かったよ。おりゃ昔から自分の事しか見えなくてよ、他人を巻き込んでは迷惑ばっかり掛けてるんだ。そんな俺をシャロンはずっと支えてきてくれたんだ。やっぱり俺は一人じゃ駄目なんだなぁ……シャロンがいなきゃ俺はだめなんだ……シャロン……うあああああん!」
しばらく二人して涙の流し合いが続き、頃合いを見てケイトさんが話を進めようとしてきた。
「えっともういいですかね、アリサさんのお問い合わせの件なのですけど」
「あ、はい……取り乱してすみませんでした」
そうだ、いつまでもメソメソと泣いている場合じゃない!
私はユーシスを助けるために来ているんだから!
気持ちを切り替えケイトさんの言葉を待った。
しかしケイトさんの言葉は、私の期待を大きく裏切るものであった。
「お問い合わせに合った【国定自然公園ラミアの森・フォレストラビットの討伐】の依頼書の件ですが、アリサさんはお受けできません」
「なぜですか!?あれは五級以上の冒険者なら誰でも受けられるはずです!」
まさか断れるとは夢にも思わず、私はケイトさんにくって掛かった!
「【ラミアの森】はアドレア連邦の特別自然保護区です。立ち入り許可を貰えるのはアドレア連邦の国籍を持つ者だけ……それ以外は無理なのです」
「そんなぁ……」
力が一気に抜けていく……じゃあどうやってラミアの祠に行けばいいのよ……
目の前がグニャリと歪む……これでラミアの森への侵入は絶望的だ。
こうなったら私の持てる力を全て使ってでも結界を破壊して……
そんな良からぬ事を思っていると、助け船が思わぬところから現れた。
なんとケンツさんだ!
「なあアンタ、なんで【ラミアの森】に固執するんだい?良かったら話してくれよ。もしかしたら力になれるかもしれないぜ」
「ラミアの森にあるラミアの祠に行きたいの。もしかしたらそこにユーシスが飛ばされたかもしれないのよ……」
「ユーシスってのはアンタの想い人かい?まさかアドレア連邦内のラミアの遺跡を全て回るってのか?」
「そうよ、ユーシスは私の大切な人……彼が飛ばされたラミア遺跡というのはある程度絞られているのよ……次が私の探す最後のラミア遺跡なの……ここで飛ばされた痕跡が無ければユーシスは……」
うっかり最悪な事態を思い浮かべてしまい、身体がガクガクと震えてしまった。
― キランッ!
しかし話を聞いたケンツさんは、心なしか目が輝いたような気がした。
「おいケイト、そのラミアの森への立ち入りなんだが、アリサは無理でも俺なら可能だよな?」
「ええ、問題ありませんよ。不人気物件なので他の冒険者との競合もありませんし……ケンツさん、まさかアリサさんに代わってラミアの森に?」
「ちょっと違う。俺のパーティーにアリサを入れて、俺の名で【ラミアの森・フォレストラビットの討伐】の依頼を受けてやるんだよ!そうすりゃアリサもラミアの森に入れるんじゃないのか?」
「そんな事が可能なんですか!?」
そんな裏技が!?
私は驚きつつケンツさんを見つめた。
そのケンツさんは、私に向かってドヤ顔を決めている!?
「で、どうなんだ?」
「はい、それなら可能です。アリサさん如何いたしますか?ケンツさんのパーティーに所属しますか?」
そんなこと、断るはずがない!私の返事は当然イエスだ!
「もちろんです!ケンツさん、ありがとうございます!」
「よっしゃ決まりだ!じゃあ【ラミアの森・フォレストラビットの討伐】は新生〔一番星〕が受けるぜ!」
こうして私はケンツさんの冒険者パーティー〔一番星〕に入り、行動を共にすることとなったのだった。
ただ私はケンツさん個人に対してちょっと……いやかなり気になる事があった。




