召喚とは
アストランザス城 とある一部屋
会議室のようなところであろうか、部屋の中央に1つの大きなテーブル。
そしてそのテーブルを囲うようにして配置された複数の椅子。
その中の一つに既に腰を下ろしている女性がいる。
アストランザス王国の王女アイシャだ。
豪華に装飾された大きい椅子に深々と座り、手にはティーカップを握っている。
いかにも退屈そうに時間を潰している感じだ。
コンコンッ!
部屋の入り口をノックする音が響く。
「メイアです。克己様をお連れ致しました。」
そう言って部屋に入って来たのは王女の侍女メイア。
そしてその後ろに続くのは昨晩アイシャに召喚されたとされる男『克己鉄心』
「待ちくたびれましてよメイア。」
口ではぼやきを入れているが、先程までの退屈そうな雰囲気とは打って変わり生き生きとした様子だ。
よっぽど1人で待つのが面白くなかったのだろう。
その言葉を聞き、メイアは一言「お待たせ致しました」と言うと、アイシャの座る椅子とは反対側に位置する椅子を引いた。
「克己様、こちらにおかけください。」
お辞儀と共に鉄心に座るよう促す。
「これは丁寧にどうも…」
鉄心は言葉少なく礼を言い引かれた椅子へと腰掛ける。
アイシャはその様子をジッと見ていた。
昨日の夜、目の前に現れた男に興味津々なのだろう、穴があくほどの熱視線だ。
鉄心の動き全てを見逃さないつもりだろか。
メイアは鉄心が座るのを確認すると彼にお茶を淹れる。
そして淹れ終わるとそのまま今度はアイシャの後ろ側へと移動し深々と頭を下げる。
「姫様、お待たせして申し訳ありませんでした。」
「良いのよメイア、色々とお世話をかけましたわね。ありがとう。」
アイシャはメイアに労いの言葉を送る。
謝る必要などないと言うようにとても優しい笑顔だ。
そして、今度は鉄心を真っ直ぐに見つめる。
鉄心もアイシャを見つめる。
「昨晩は十分に話も出来ませんでしたわね。」
「あぁ…別に…、昨日そっちはなんか慌ててたみたいだったから…」
「えぇ…昨晩は困惑してしまいましたが…改めて名乗らせて頂きますわ。私はアイシャ・アストランザスと申しましてよ。」
「俺は克己鉄心。呼ぶときは鉄心でいい…」
改めてお互いに名乗る。
「鉄心…ですわね。私のことはアイシャと呼んでいただいて結構ですわ。」
名前を確認するように呟く、そして自分の事も名前で呼ぶようにと言い放つ。
「失礼致します姫様。僭越ながら一言宜しいでしょうか?」
「何かしらメイア?」
メイアは少し苛立ったような感じである。
「克己様が姫様を名前でお呼びするのは如何なものかと思います…。」
喋るうちに少しずつ落ち付きを見せる。
だが鉄心を見るメイアの視線は未だ落ち着いてはないようだ。
「メイア、それは主従の関係の事を言っているのですか?」
今度はアイシャの方が苛立っているようだ。
少し語気も強めだ。
「えぇっと…その主従ってのは何?」
鉄心は急に険悪になった2人に割って入るように質問をする。
「そうですわね。鉄心にはまだ何も説明をしておりませんわね。」
少し収まりを見せるアイシャの苛立ち。
「昨晩の、私と鉄心がお会いしたところを覚えておいでですか?」
「あぁっと…広い場所で…何かしらをやっていたように思ったんだけども…」
「ええ、私はあの時使い魔、しもべを呼び寄せる魔法行っておりました。そしてそこで現れたのが鉄心…あなたですわ。」
その言葉に鉄心の表情が冷たくなる。
今、アイシャは何と言った?
「使い魔?魔法?え?呼び出された?」
何一つとして理解が追いつかない鉄心のに、「ええ、その通り。」と言わんばかりにアイシャは頷く。
「そしてつかぬことをお聞きしますが、鉄心…あなたは何なんですの?」
何とは?…漠然とした疑問をアイシャは鉄心に投げかける。
「なにってなんだよ。」
いきなり何と聞かれたがゆえか、少し苛つく鉄心。
「失礼、言葉が足りませんでしたわね。」
そしてアイシャは改めて尋ねる。
「あなたは『人間』なのですか?」
「は?なんだそりゃ、それ以外にどう見えるんだよ。」
人間かとの問いに、何を当たり前の事を聞いてくるんだと言わんばかりの感情を表す鉄心。
「克己様、姫様に対してそのような…」
「いいのよメイア、私の聞き方が足りなかったのだから…」
鉄心の言葉に怒りを露わにしたメイアであったが、アイシャはすぐに落ち着くように促す。
「人間で悪いか??」
だが鉄心はまだ鋭い言葉でアイシャに尋ねる。
その言葉を受けたアイシャは悩むような感じで、だがハッキリと答える。
「分かりませんわ。」
「は?」
予想外の答えに気を抜かれる鉄心。
「アストランザス王国の歴史をみても、『人間』の使い魔は前例が無いので私にも分からないとしか答えようがありませんわ。」
「な、なるほど…前例がない……っ!だからみんなして昨日はバタついてたって訳か。」
アイシャの言葉に合点がいったのか、昨晩の鉄心の感じていた違和感のある雰囲気はそういう事だったのだ。
「ちなみにその昔の使い魔ってのはどのくらいいたんだ?」
ぽっと沸いた疑問を鉄心は投げかける。
「えぇと、そうですわね…2000年の王国の歴史の中でも過去だいたい100例ほどの使い魔がおりましたわ。」
「正確には姫様が執り行われたのが96度目の儀式でございます。」
アイシャの答えをメイアがフォローをする。
それに合わせてアイシャが続ける。
「過去の使い魔は小型の生物ばかり、大半は手のひらに乗る程度のもので、稀にそれよりも大きいものもいたそうですけれども、到底人間大にはおよびませんわ。」
「それは別に俺がちょっと小さいからという理由で「それはありえませんわ」…あぁそうか…よかった。」
説明のなか鉄心に生まれた疑問はアイシャに遮られる形で払拭される。
「じゃあ、俺がその…召喚されたってのは、そもそも間違いだったんじゃないか??」
鉄心は続いて生まれた疑問を口に出す。
「いえ、間違いはなかったと私は思います。なぜなら…」
アイシャはそう言うなり、左手に着けていた手袋を外し始める。
そして、露わになった手の甲には
「鉄心!あなたもコレには見覚えがあるのではないですか??」
そこには一枚の翼のイレズミのような文様が描かれている。
「!!?」
「気づいたようですわね鉄心。」
鉄心は翼の文様を見た途端に驚く。
「この左手は昨日、貴方を召喚した時に現れたものです。そして…おそらく貴方にも同じ文様があるはずですわ。」
左手を見せながらアイシャは続ける。
曰く、代々召喚を行なった者、召喚された者両者には同じ文様が刻まれること。
そしてその文様は召喚者により様々な種類があるが、今回『翼』の文様は過去の文献にも載ってはいないものだった。
「確かに俺にも同じ翼の入れ墨みたいなものがある…」
説明を受けた鉄心は着ていた上着を脱ぎ捨てる。
「なるほど、鉄心は右胸にあるのですね。確かに私のものと同じ文様ですわ。」
アイシャは目を背ける事なく鉄心の体を確認する。
「今朝メイアさんが持ってきた服に着替えている時に気づいたんだ。後で聞こうとは思っていたんだけど、先に説明してもらって助かる。」
脱いだ服をまた着ながら鉄心は納得したように言う。
「なるほど、てことは間違いなく俺は召喚されてここに居るって事か…」
「本来ならば召喚の時にでもお伝えするべき事だったのですが…昨夜の事はあまりにも私達にとっては異常な事だったのです。ご説明が遅れた事の非礼はお詫び致します…」
アイシャは少し言い淀んだ。
鉄心は昨夜の事を思い出す。
召喚が終わったのちの国王の狼狽えよう、アイシャの驚きの声、そして後から入って来た人達の警戒したような顔。
本当に不測の事態だったのだ。
その時は国王の判断では皆を落ち着けるため、一晩置くことを決めたとの事。
その国王本人は今は公務多忙のために不在とのことであるが…
「それで鉄心、貴方にはどのような『力』がございますの?」
かつてより使い魔というものには特殊な力が備わっているもの、そしてその多くは召喚者にとって自らが望むものを様々なカタチで叶えるものだという。
しかし、鉄心は自分の力というものに全く心当たりがなかった。
「そのアイシャが言う『力』ってのは…今まではどんなものがあったんだ?」
「そうですわね…例えば未来予知などは出来まして?」
如何かとアイシャは問うが…仮に未来が見えるのならば車になど轢かれそうにはならない。
「いや無理だ」
「でしたら…空を飛ぶことなど…」
「いや、飛ぶのもちょっと…」
「ならば…魔法を使いこなしたりは…」
「そうそう!!魔法ってのは何だ、俺を呼び寄せるとか何とか…」
「鉄心は魔法をご存知で無い!?えぇ…それなら………説明はまたの機会に行いますわ!」
面倒だと思ったのだろうか、アイシャは鉄心の質問は後回しにする。
「いや、それは大事な事だと思うんだが……」
鉄心も諦めず食い下がろうとするも、
「また後で必ず説明しますから!……メイアが……」
最後の方は小声で鉄心には聞き取る事が出来なかったが、近くに居たメイアは身体をビクっと震わせアイシャの方を見ていた。
そこからも色々とアイシャは鉄心を質問攻めにするも、そのことごとくが無理難題であった。
そんな状況にアイシャも次第にイライラを募らせる。
「まったく!あれも出来ないこれも出来ない!だったら鉄心は何が出来ますの!!」
「いやいや、無茶苦茶言ってるのはそっちだからな!」
お互いに不満が爆発する。そしてアイシャとうとう強い口調で今度は逆に聞いてきた。それを聞いた鉄心も反論はするが、アイシャの言葉に引っ掛かりを覚えた。
「俺に出来ることかぁ…」
鉄心はアイシャの剣幕に気圧されそうになるも、一度自分について思案する。
そして閃いたかのように答えた。
「俺は喧嘩なら負けたことがない」
ボソリと呟いた一言であったが、その場にいたアイシャとメイアにも聞こえたようだ。
一瞬の静寂が場を包む。
鉄心も自分で何気なく言った言葉に失敗したという顔をしている。
「メイア、鉄心の言う喧嘩とは…あの喧嘩ですわよね。」
アイシャは信じられないといった風にメイアに相談する。
メイアもポカンとしていたがアイシャの声に我を取り戻す。
「姫様、そうですね…街のならず者達が行う、いわば手合わせや決闘と同義の事かと…」
戸惑いながらもメイアはアイシャに説明する。
「克己様はどのような武器をお持ちですか?」
「いや、俺は獲物を使った事はないけども…」
メイアの問いに答えた後に自らの失敗に気づく。
(今武器はって…この世界では何かしら武器を使うのが日常的なのか?さっきの魔法云々も……もしかするとめちゃくちゃ裏目に出たかもしれん)
鉄心は素手でしか喧嘩をした事はない。
たまに相手がナイフやら角材やらを持ち出す事はあったとしても皆ド素人ばっかりだった。
そういえばと昨夜の事を思い返す。
鉄心が召喚された際に後から入って来た人達はみな剣や槍を構え、更には鎧なんかも身につけていた。
「いやちょっと待t「なるほど鉄心はとても強いという事ですわね!!」…て。」
鉄心の制止する声もアイシャにかき消される。
とても簡単に、そして厄介な方へと理解したようだ。
「そういう認識で良いかと思います。克己様は魔法も知らず、武器も必要としない程に強さに自信がおありのようですね!」
メイアもアイシャと同様に納得する。
「いやちょっと待て2人とも。そんなに期待されても困るんだが…」
ただの思いつきで放った一言がとてつもない悪手である事に気づくも、時は既に遅かった。
「でしたら2人共、場所を変えますわよ。」
アイシャが何かを思いつい
たとばかりに椅子から立ち上がる。
「姫様!どちらへ向かわれるのですか?」
急な行動にメイアも面食らう。
鉄心もいきなり移動すると言われ付いて行けてない状況だ。
「もちろん修練場に決まってますわ!」
勢いよく言い放つ。
自信満々に、そして悪戯でも思いついた子供のような…
「鉄心!貴方の強さを私に見せてくださいませ!」
曇りのない明るい笑顔を見せた。




