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鉄の鴉は風見鶏  作者: 市野志乃
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3/9

普段通りの夕方


 夕方になり、ようやく学校も終わりを告げるチャイムを響かせる。

(今日は兄貴にも言われてるからなぁ、さっさと帰るか…)

 早々と帰り支度をし教室を後にする。


 「おーい!鉄心!」廊下に出たところで、やたらとバカデカイ声が俺の名前を呼ぶ。うんざりするくらい聞き馴染みのある声だ。

 名前を呼ぶ方向に向き直ると、身長190cmは超えているであろう金髪丸坊主の大男が手を振りながら走ってくる。


「おーい鉄心!今から帰りか??」

「辰秋か、一体何の用だ?名前呼びながら走ってくるんじゃねぇよ、恥ずかしい」


 こいつは赤嶺 辰秋(あかみね たつあき)

幼稚園の頃からの友人で小中高と一緒の幼馴染だ。


「いやいや、お前にお客さんが来てるって話を聞いてな?それを聞いた俺がこうしてお前を呼びに来たって訳よ」

「なんだよお客さんって?知らねぇぞそんな話。俺は今日はまっすぐ帰るんだよ。あと…となりに並ぶんじゃねぇ!俺が小さく見えるだろうが」


 あまりにも近くに寄ってきた辰秋を少し突き放す。小さく見えるってのは…こいつがデカすぎるだけだ。別に俺が小さい訳ではない、断じて違う!


 って、お客さんて一体誰だ??


「聞いた話だと校門のところに他校の奴らが10人くらい。お前さんを呼んで来いって帰宅している連中どもに行ってまわってるらしいぜ…。鉄心、今度はいったい何したんだ??」

 辰秋は有り難い事に詳しく状況を教えてくれる

「そうだなぁ…それは多分だが昨日の奴らのツレとかじゃないかな?」


 昨日コンビニに行った帰りの事である。うちの制服を着ているやつが1人、他所の学校の連中数人に囲まれていたのを見たところがきっかけ。

 最初は首を突っ込むつもりもなかったんだが、1対複数はちょっと許せなかったので加勢したところであった。


「お前もほんとお人好しだな、困ってるからほっとけなかったってところだろう??」

 辰秋がニヤニヤしながら俺の方を見ている。

 殴りたい、このにやけ面…

「て事はその時お前さんにやられた奴らのツレが報復に来たってところか!」

「まぁ状況的にそうだろうな…おい辰秋、校門って言ってたな?」


 まったく迷惑なお客さんなことで…正直言って無視して帰りたいところではあるがそうも行くまい。

「そう聞いてるぜ、行くんか??」

「いや、正直行きたくないんだが…俺をご指名なんだろ?」

 結局行かなければ他の関係ない誰かさんに迷惑がかかってしまうかも知れないからな。

「そうこなくちゃぁな!それにお前の喧嘩しているところはご無沙汰だったからな、久々に観たいと思ってたんだよ!」


 観たいって…俺の喧嘩は見世物じゃねぇぞ!

 コイツはいつも…少しくらい手伝う姿勢とかみせてくれてもいいじゃないかな?

 そんな会話を交わしつつ2人は校門に向かうことにする。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



 俺は赤嶺辰秋。17歳高校2年生

 身長192cmで高身長の超絶イケメンだ。

 克己鉄心とは幼稚園の頃に出会い、今でも一緒にいる腐れ縁。あいつは俺と違って小っこく確か161、2cmくらいだったか…少し気にしているらしい。

  いわく、俺がデカイだけで自分が小さいことではないとか言い訳しているが。だからか隣に立とうとすると少し離れる

  まぁ俺はそれを見たいが為にわざと近づく訳だが…


  あいつはお人好しというか何というか…嫌々言いながらも揉め事やトラブルにはいつも仲裁に入ったり、それが元で厄介事に巻き込まれる。

  今回もおそらく自分から首を突っ込んだってところだろう。


  鉄心は昔っから信じられないほど喧嘩が強く、更に気も弱いわけではないので物怖じしたりしない性格だった。そんな性格が災いしてか少し前までは色々と歳上の方々からは反感を買い、目をつけられた。

「歳下に生意気な奴がいる」って具合にね。

  そんな噂話の所為か中学の頃もよく上級生や地元の悪い連中によくマトにされていたのだが…その度にあいつは周りを黙らせて来たた。


 文字通りの力づく。

  たとえ複数人であっても鉄心を止める事は出来なかった。

 小柄ながら馬鹿みたいな腕力と運動神経。どんなに殴られても平気そうなほどのタフネスさ。更に格闘技未経験とは思えないほどの立ち回り。本人曰く、なんとなくで動いているらしいが…

  そんな事が続くと、今度は「めちゃくちゃに強い奴がいる」と噂になる。

  話はすぐに地元だけではなく、他の地域にまで届くほどだったという。

  そこからは更に噂を聞きつけたワル供が我こそはと鉄心の首を狙って色んなところからやってきた。


  そこからは本当に毎日のように狙われ続け、一体誰が鉄心を倒すのか!って結構な金まで飛び交ったという話だ。

  結局、そこまでやっても鉄心は全員をことごとく返り討ちにしたのだが。


  それこそ武器も持たず素手で


  一緒にいる時間も長いので、俺自身も何度もあいつの喧嘩には遭遇した。それこそ一回や二回どころではない。それでも負けたところを見たことないし、やはり話で聞いたこともない。


  それから1年もせずに鉄心に挑むやつはいなくなっていた。

  結局誰一人勝つことは出来ず、その神懸かり的な強さを目にして皆諦めたってところだ。


  これは噂で真実かはわからないが、ある日拳銃を持ち出した馬鹿がいたそうだが、鉄心のやつは銃弾も避けちまったって話だ。

 鉄心本人はそれはないと否定していたが…

  たしかにそんな奴に一体誰が勝負を挑むというのだろうか。

  色々と尾ひれの付いている話も多いだろうが、今ではその話を知らないものはなく周知の事実となっている。

  それ故に今更ながら挑もうなんて命知らずは噂を信じていない者、若しくはそもそも知らないか…なので今回、鉄心の喧嘩をみるのは本当に久しぶりだ。


  さて、今日はどんな命知らずがやって来たのか…少し楽しみである



  鉄心と2人校門に着くと、合計で9人他所の学ランを着た男達が立っている。


  間違えようもないくらいに聞いていた奴らであろう。その中で一際背の高い、俺と同じくらいだろうか明らかにアタマっぽい男が声を出す。

「お前があの有名な克己鉄心か?昨日はうちのが世話になったそうじゃねぇか。」

  …男は俺の方を見ながら言う。周りにいたやつも一緒になって俺を睨みつけている。


「克己鉄心は俺の隣のコイツだ。俺はただ呼んで付いてきただけのツレだよ。」

そう言って俺は鉄心の方を指差す。

  そうすると全員が今度は鉄心の方に視線を移す。そしてアタマっぽい男は一瞥するとフッと鼻で笑い、


「おいおい、冗談だろう??あの噂の克己鉄心がこんな弱そうなチビ野郎だとは思わなかったぜ。」


 いきなりチビ野郎だと言い放った。

(冗談はそっちだ馬鹿野郎!やめてくれよ、鉄心は身長の事は気にしてんだよ!)

  俺は心でそいつに文句を言いつける、実際には言わないが…そして少し怖い気持ちもあるが鉄心の方を見てみると…

 明らかに不機嫌になっていて、目尻がピクついている。キレる一歩手前って状態だ。


「チビ野郎で悪かったな。で??それが最期の言葉でいいか??」


  前言撤回、既にプッツンしていたようだ、鉄心がいつもよりもトーンの低い声になっている。

  男はその言葉に激昂したのか「はぁ?舐めてんのかテメェ!!」と鉄心の胸倉を掴みあげ、睨みを効かせながら顔を近づける。


「デカブツが…いきなり人の胸倉つかんでんじゃねぇよ!!」


 と次の瞬間


「バチッッ!!!」


  耳奥まで届きそうなほどの破裂音が響いた。

  鉄心の胸倉を掴んでいた男はそのまま気を失ったのかその場にドサリと倒れ込んだ。

  鉄心が右の平手打ちで男の顎を叩いた…らしい(あまりにも早く見えなかったので後から聞いた)


  あまりの一瞬の出来事に皆声を失う。男もきっと何が起きたのかわからなかっただろう。


「ほら終わりだ、てめぇらさっさとコイツを連れて帰りな。」


  そう言って鉄心は倒れている男を指差して取り巻きに伝える。そこでようやく勝負が終わっている事を理解したようだ。


「おい!聞こえねぇのか!!」


 イラついたような口調で鉄心が今度は周りに睨みを効かせる。

  取り巻き連中は鉄心の殺気に気圧されたのか、慌てて気絶している男を抱え、その場からそそくさと退散していった。



「なぁ鉄心さんよぉ、久しぶりにお前の喧嘩見るの楽しみにしてたんだが呆気なくないか??」


  ほんと早すぎて何をしたのかも見えなかったんだが…


「そりゃ学校の目の前で派手にやっちまう訳にはいかないからな。あとあれくらいじゃ弱くて話にならんし」


  いや弱いって…誰がどう見ても強そうなやつだったよ。


「でもお前、結局は学校の前でやっちまってるじゃん。」

「あぁ、ちょっと…ほんとにちょっとだけイラついちまったからな。まぁでも大丈夫だろう?すぐに終わったし。」


と鉄心はハハッと笑いながら言うが…

  結構強そうな奴だったけど、一瞬でぶっ倒すって一体なんなんだ?いよいよ噂と相まってコイツが人間かどうか怪しくなってきたな。


「お前ほんとに何かしら格闘技とか始めたら??すぐにでも世界チャンピオンとかなれるんじゃね?」


 これは冗談抜きに思っている事だ。

  コイツが本気で何かに打ち込んだとしたらボクシングの世界チャンピオンだってぶっ倒しちまうんじゃないかと考えてしまう。

  俺がそういうと鉄心は、「そうだな、多分俺の方が強いからな。」と冗談混じりに笑いながら返してくる。


「でもすまんな辰秋、今日のところは世界チャンピオンよりも素早い帰宅を目指す事にするわ。兄貴に言われてんだよ。」

「銀二さんにか?それならしょうがないな。鉄心、銀二さんにも宜しく言っといてくれ、ご無沙汰してますってな。」


  鉄心は既に家の方向に向かって歩き出していて「はいよ。」と後ろ手をヒラつかせながら帰って行く。


  一人取り残された俺は遠くなっていく鉄心の背を眺めていた。


(やっぱ家族が1番だもんな。周りはみんなお前を怖がったりするけど、俺に言わせればお前程良い奴はいねぇよ)


  こんな事恥ずかしくて本人には言えないが、例えば今日の喧嘩も元はフクロにされかけていた奴を助けたのがきっかけ。そしてあいつは特に理由もなく理不尽な暴力に晒されている人なんかを助けたりする。

  結果いつも力づくで解決させようとするから周りからは『不良』と呼ばれたりもするが…


(まったく…不器用で損な性格してんなぁ…一体お前のどこが『不良』なんだか)

  鉄心はもうだいぶ先に行ってしまい背中も小さくしか見えない。


「さて、俺は1人街でもぶらつきますかね〜。」


 誰かに言った訳でもない、ただの独り言を漏らす。

  一人になって少し寂しい気持ちもない訳じゃないが、俺は鉄心が行った方とは逆方向に向かって歩き出す

 

  今日はとても天気が良い。


  夕焼けが綺麗に空を赤色に染めていた。


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