第9話 初陣!
休息日初日の明朝。
「ここが賊の根城だな」
「は、はい……」
「そんなに疲れてどうした?」
まあ無理もない。
馬で三日はかかる距離を半日もかけずに移動したのだ。
誰よりも僕への忠誠心の厚い愛馬のジークに忠誠の権能を使った結果、強力な移動手段となった。
ちなみに、ジークは僕のような黒目とリティアの髪のような銀色の毛並みを持つ小柄な馬である。
「ルルア様。夜明け前に事を済ませた方がよろしいかと」
馬車で手綱を握ってくれていたマイヤの言う通り、賊を片付けるなら日が昇る前だ。
「わかってる。テオ」
「は、はい!」
「ここで選ばせてやる。ついてくるかこないかを」
「えっ――?」
「ここから先、僕たちの戦闘を見ればテオは後戻りできなくなる」
「――っ!?」
一連の出来事から、僕の力がヤバいものだということは、薄々気づいているはずだ。
テオに忠誠を誓ってもらえるに越したことはないが、ブレヒト男爵家を自派閥に取り込めるだけでも十分価値はある。
「どうする?」
「――行かせてください」
「わかった。では行こうか」
族の根城は、森を抜けて突き当りにある岩山の洞窟らしい。
森に入ってしばらくすると、巡回と思われる賊がちらほらと現れるようになってくる。
「ルルア様。どうしますか?」
「マイヤ。頼めるか?」
「はい――」
闇の権能で認識阻害をすれば気づかれることなく根城にたどり着くことは可能だ。
しかし、今回の目的は賊の殲滅。徹底的に潰してこそ意味がある。
マイヤが僕たちの下を離れた途端、近くにいた賊が一人また一人とその場に倒れていく。
「あの、マイヤさんって……」
「僕の従者ならこれくらい当然だ」
実際、忠誠の権能の力がなくともマイヤならこれくらいは当然のようにやってのけるのだろう。
最初に仲間になったが彼女で本当によかった。
「あそこだな」
岩山にできた洞窟が目に入る。
入り口の左右に見張りはいたが、すぐにマイヤが処理した。
「ルルア様。ここから先は――」
「あとは僕一人でやる。二人は後ろにいるだけでいい」
認識阻害が権能を解除し、堂々と洞窟へ入る。
「――っ、誰だてめぇ……っ!」
早速、賊と敵対する。
この力を人に向けて使うのは、力に目覚めたとき以来だな。
「邪魔だ」
僕が手をかざすと、空中に闇色の太い針が無数に展開され、即座に賊へ襲い掛かる。
「な、何だ――ぐはぁ」
身体中に無数の穴を開けられた賊は、そのままその場に倒れる。
「さて、進もうか」
それから何度か戦闘こなし、半分ほど進んだと思われるところで、目の前に数十人近い賊の集団が現れた。
事件を聞きつけ、待ち受けていたらしい。
集団の中に一際大柄な男がいる。恐らくこいつがリーダーだ。
リーダー格の男は前に出ると僕を睨みつける。
「坊主、随分とやってくれたじゃねえか」
「文句があるならお前たちの飼い主に言え」
「飼い主だと?」
そうだ。せっかくなら証言を取っておこう。
「今から僕の質問に答えろ」
「何を――わかった」
「お前たちの主は誰だ」
「ブレイク家」
「つまりブレイク家に命じられてブレヒト男爵家を?」
「その通り」
本当に腐っているな。
周辺諸国と交戦状態が続いている中、身内で何をやっているんだ。
やはり最初に潰すべきはトリア派で間違いなさそうだ。
「もういい」
「――っ、お、俺は何を」
さっさと片付けるか。
リーダー格が動揺している時間を使って、空中に一万近い針を生成し、 僕は一斉に賊へ放った。
◇◇◇
リーダー格を無事に潰すことに成功した僕たちは、そのまま別の拠点へ向かった。
「あといくつだ」
「次で最後です」
最初に宣言した通り、今回の目的は賊の殲滅。
ブレイク家に少なくないダメージを与えるためには必要なことだ。
「ルルア様。大丈夫ですか?」
「ああ。問題ない」
さすがはマイヤ。よく見ている。
額に浮かんだべたつく汗が、僕の状況を物語っている。
賊自体は大して強くない。ただ、数が多過ぎる。
僕は今までにないくらい魔力を使っていた。
身体の魔力については余裕はある。
問題は闇の権能を使い過ぎたことによる副作用だった。
醜態をさらす前に終わらせるぞ。
最後の小拠点に着いた僕たちは、百人ほどの賊を討伐した。
「やっと終わったか」
「お疲れ様です。ルルア様」
「さあ、ブレヒト男爵の下へ――っ」
「どうされましたか?」
咄嗟に背を向けた僕に、マイヤが心配そうに近づいてくる。
「(リティア――)」
ダメだ。僕にはまだやるべきことがある。
それが終わるまでは、この衝動を抑えなければ。
「大、丈夫だ」
心に渦巻く歪んだ愛の奔流を抑えながら、僕は前を向いて歩き出す。
それから男爵家の屋敷についたのは、日が完全に上った頃だ。
「――っ、こ、これは一体……」
目の前に突き出された賊の頭領の遺体に、男爵が狼狽する。
「付け加えると、他の賊も一掃――全滅させておきました。なあテオ」
「はい」
「どうしてこんなことを」
「決まっているじゃありませんか。テオは僕の友達です。友達が困っていたら助けるのは当然です」
「――違います」
僕の言葉に被せるように、テオが否定した。
「テオ?」
「ルルア様は友達などではありません」
マイヤがテオに殺気を向け始める。しかし――。
「父上。ルルア様は、僕が仕えるべき君主さまです!」
マイヤから殺気が消えた。僕も身体から力が抜けた――。
「(リティア――)」
今ので完全にタガが外れた。これ以上は無理だ。
「男爵。部屋を貸してくれないか。少し休みたい」
「わ、わかりました。すぐにご用意します!」
さて、向き合うとするか。
闇の権能の代償とやらと。




