第8話 友達だろ?
虚ろな表情をしたテオに、僕は質問を投げかけた。
「テオが僕に近づいた目的は何だ?」
「――ルルア様を陥れるためです」
「なぜそんなことを?」
「――ロイク様に命じられたからです」
「やはりそうか――ん?」
後ろから熱い視線を感じて振り返ってみると、マイヤと目が合った。
「どうした?」
「いえ、改めてすごい力だと」
自分も同じようにして事実を話したのだと、改めて実感したといったところだろうか。
「マイヤも何か聞きたいことがあったら割って入ってもいいからな」
「お気遣いありがとうございます。かしこまりました」
さて、尋問に戻るとしよう。
何と言ってもここからが本題だ。
「テオがロイクに逆らえないのは、実家がブレイク家の寄り子だからだな?」
「――はい。父上からも絶対に逆らわないよう言いつけられています」
「ブレイク家を頼るようになった理由は?」
「――それは」
テオは淡々と、ブレイク家に逆らえなくなった経緯を語る。
「なるほど、賊か――」
どうやら、十年ほど前からブレヒト男爵領に大きな賊が住み着いたらしい。
王国は初代国王が治めていた時代を除いて、決して平和とはいえない状況が続いている。
周囲を敵国に囲まれ、国内にも決して少なくない賊たちがはびこっているのだ。
本来なら、領主の騎士団だけでは対応できない賊を対峙するのも国王直下の騎士団なのだが、今は周辺国との戦いで忙しくそこまで手が回っていないのだろう。
それで止むなく、ブレイク家というわけか。良くも悪くもトリア派の貴族だけあって、武力は相応のものがあるしな。ただ――。
「未だに賊が住み着いているというのが気になります」
「そうだな。恐らくブレイク家とその賊は繋がりがある」
ブレイク家が力を貸すようになってから、賊による被害はなくなったというが、賊は依然としてブレヒト領に潜伏しているという。
こうなると、ブレイク家が賊と関りがある――というより、賊自体がブレイク家の者である可能性が高い。
それに賊が住み着いた十年前というと、各貴族たちが次期国王について考え始めた時期でもある。
「どちらにしても、実戦には絶好の機会だな」
「ルルア様。まさか――」
「そのまさかだ」
ちょうど二日後には安息日がある。
その日を使って男爵領へお出かけだ。
「マイヤ。できれば君にも参加してもらいたいのだが」
「もちろん同行させていただきます」
「ありがとう」
「いえ。従者として当然です」
さて、あとはテオだな。
「今からテオを我に返す」
「よろしいのですか?」
「ああ」
このまま隷属の権能で縛り付けておいても良いが、それでは僕への忠誠心は芽生えない。
今のところテオは有望株であり、彼にはできれば自然と僕へ忠誠を誓ってもらい、マイヤのように忠誠の権能でより強くなってもらう。
「――っ、ぼ、僕は何を――え、ルルア様……っ!?」
正気を取り戻したテオが、僕とマイヤを見て動揺を露わにする。
「どうした。そんなに驚いて」
「いや、だって――って、ロイク様に」
「待てよ。あいつより王族の僕が優先だろ?」
「そ、それは――」
「王族の僕に逆らうのか?」
「うっ――」
権力という点で僕に大した力がないのは事実だが、それでも一男爵家くらいなら何とかできる。
「何をおびえているんだ。僕たち友達だろ? 賊とかブレイク家とか、領地のことを色々と教えてくれたじゃないか」
「えっ――」
当然、自分が洗いざらい話した記憶は残っていない。
だが、事情を知らてしまっている事実はしっかり認識できたはずだ。
「なあテオ。困っていたら助けるのが友達だと思うんだが、違うか」
「そ、それは――」
「違うか?」
「ち、違いません……っ!」
「だろ? だから僕が男爵領にいる賊を倒してやる」
「――えっ?」
てっきり何か要求を受けるものと思っていたのか、素っ頓狂な声をテオが上げる。
「そ、それは本当ですか?」
「ああ」
「その、失礼ですが……」
どうやら、僕の実力に懐疑的らしい。
魔法を見せたのは今日の一回だけだから当然だ。
とはいえ、本気を見せるわけにもいかない。
「テオ。僕たちは友達だ、僕を信じてくれ」
「そ、そんな……」
「このまま実家が苦しめられてもいいのか?」
「――っ!?」
「だろ?」
「で、ですが……」
まだ納得しないか。
「仮に賊討伐が失敗したとしても、テオには何の不利益もない。それどころか、僕の首を土産にロイクのところへ行けばいいじゃないか」
「――」
「上手くいってもよし、いかなくてもよし。そもそも悪い話じゃないだろ?」
「……っ、わ、わかり、ました」
「ありがとう。テオ」
僕はわざわざ立ち上がると、顔を青ざめさせている友人の背後に回り、軽く肩を叩く。
「作戦の決行は次の休息日。その前の夜には出発するから、悪いが家まで来てくれ」
「は、はい――」
「安心しろ。僕がロイク(のクズ)から助けてあげるから。ただ――」
「た、ただ……?」
「このことは口外しないでくれ。あと、決行日までロイク(のクズ)とは関わらないように」
「――っ、そ、それは……っ」
「貴族院では僕と一緒にいればいい。僕を懐柔しようと上手く懐に入っている風を装っていれば大丈夫だ」
「う……っ」
ここまで来てようやく反論が尽きたのか、テオが諦めたように肩を落とした。
どうしてもダメなら決行日まで隷属の権能を使うことも考えたが、それは必要なさそうだ。
「僕からの話は以上だが、テオから何かあるか?」
「い、いえ何もないです大丈夫です」
「そうか。なら気を付けて帰れよ。それじゃ、また」
「はい。ではまた――」
用件が済んだとわかったなり、すぐにテオは邸宅を後にした。
「よろしいのですか?」
「いや。今から手は打つさ」
テオに色々と言って納得させたが、それでもロイク側は休息日まで黙ってはくれないだろう。
もしかすると、今帰っている途中に何か仕掛けてきても不思議ではない。
僕は自分の分身を生み出し命じる。
「テオの護衛を頼む」
「――わかった」
便利なことに、闇の権能を使うことができる。
認識阻害の権能を使えば、最強の尾行役になるというわけだ。
分身がテオを追ってすぐに外に出たところで、再びマイヤから熱が籠った視線を向けられていることに気づく。
「本当にすごいです」
「分身か? 便利だが、結構な魔力を持っていかれる」
現に生成しただけで僕の魔力は半分ほど持っていかれた。
この上、荒事で権能を使うものなら、かなりキツい。
本音をいえば、使わないに越した力ではないのだ。
「はあ、早速か」
どうやら、友達が早速ロイクの手下につけられているらしい。
テオが人気の少ない場所へ行く前に、軽く捻っておいた。
「これはこの先が思いやられるな」
魔力の使い過ぎで、リティアに会えないようなことになるのだけは絶対に避けなければ!




