第6話 色男の舎弟
翌日。今日から本格的に貴族院での授業が始まった。
授業内容は魔法学や領地経営といった座学と、魔法や剣術の実践訓練の二種類に分けられる。
貴族院で学習する座学は一通り身に着けているが、実践については注意が必要だ。
実践で扱うのは、火・水・土・風・雷の基本属性魔法で、僕は最近までほとんど使えなかった。
闇の魔力を無理やり抑え込んでいたことが原因で、最近は初級程度なら問題なく使えるようになっている。
ただ、周囲からの認識は依然として基本属性魔法が使えない無能。
そんな無能が、突然能力を使えるようになったなど、下手に目立つわけにはいかない。
そういった部分の調整が、今の僕にとっての課題だった。
「それでは、今から魔法実践の授業を始めます」
座学中心の午前を難なく終え、実践中心の午後カリキュラムが始まった。
午前と午後の使い方は他の学年、クラスともに共通しているため、リティアたちも今頃は他の訓練場で授業を受けているはずだ。
リティア……っ。
直接、本人から聞いたわけではないが、どうやらAクラスでリティアは僕と同じように浮いている状況らしい。
Aクラスに多く集まる名門貴族の子息子女たちかしてみれば、成り上がりのリティアは実に面白くない存在というわけだ。
加えて、ロイク・ブレイクのようないけ好かない奴もいると考えると、心配で仕方がない。
「早速ですが、ペアを組んでもらいます」
リティアの心配を始めて早々、僕にも一つの関所がやってきた。
何をするかはわからないが、二人組になる必要があるらしい。
Dクラスは残念なことに総勢四十一人――つまり、僕が余ることが確定しているというわけだ。
余ったら教員と一組といったところか――。
「あの……」
「ん、どうした?」
なぜか声をかけられた。
僕と同じ小柄で、緑色の瞳と、全体的に切り揃えられた亜麻色の髪が特徴の男子だ。
「どうした?」
「よ、よろしければ僕と組みませんか……?」
「えっ――」
男子の提案に、僕だけでなく周囲までもが驚きの反応を見せる。
一体、これはどういうことだ。
どう考えても怪しいが、僕としてはありがたい申し出には変わりない。
「ありがとう。では一緒に組もう。名前は?」
「テオ・ブレヒトと申します」
「僕はルルア・ルナリア。よろしく」
僕が何の気なしに手を差し出すと、おどけた様子でテオは僕の手を取った。
ブレヒト家――ブレイク家の寄り子だったな。
おそらく、テオはロイクの舎弟だ。
早速あの色男が仕掛けてきたらしい。
「全員、二人組になりましたね。ではその二人組ずつで、基礎魔法を使ってもらいます」
それから、演習の詳細説明が始まる。
今回の演習は、純粋に現状の実力を見ることが目的らしい。
内容は、得意な属性の初級攻撃魔法を的めがけて放つというもの。
以前の僕なら、的に大きく届かず終了といった結果だった。
「どうした、テオ」
「い、いえ何でも……」
ちらちら僕の方を見てくるテオに声をかけると、動揺した様子を見せる。
ロイクから僕を打ち負かすよう言われているといったところだろうか。
「それでは始めましょう」
教員の合図とともに、各二人組がそれぞれ皆の前で初級攻撃魔法を放って見せる。
さすがに誰も失敗はしない。こんな中で失敗すれば、大恥もいいところだろう。
「テオは何属性の魔法を?」
「ぼ、僕は雷を」
「雷属性が得意なんて、珍しいな」
すべての基本属性魔法を使えるというのは、非常に珍しい。
僕を含め、体内で生成される魔力が特定の属性に偏ることが大半だ。
その基本属性の中で、雷属性は最も攻撃力が高く、かつ適正者が少ないとされる属性だ。
気弱そうだが、こちらの陣営に取り込めれば将来有望かもしれない。
「ル、ルルア様は何属性の魔法を?」
「僕は水属性だな」
水属性は、闇の魔力を抑えているときでも使えた唯一の属性だ。
といっても、威力の弱い水道のようにチョロチョロと指先から水を出せる程度だったが。
「では次。テオ・ブレヒトとルルア・ルナリア」
「「はい」」
ついに僕たちの番が来た。
「まずはテオ・ブレヒトから」
「はい」
テオが的に向かって手のひらを前に出し、眉間に皺を寄せる。
すると手のひらから極細い稲光が発生し、それが的に向かって伸びていく。
しかし、その勢いは非常に遅く、実戦向きとはいえない。
周囲から笑い声が聞こえてくる中、時間をかけてテオは小さな電を的に当てた。
的に当たる頃には威力がかなり落ちていて、辛うじて的に小さく焦げた跡が残っている。
なるほど、これがロイク・ブレイクの思惑か。
ブレイク家には複数の寄り子が存在し、Dクラスに存在するその子息子女たちは一人ではない。
そんな中でテオが選ばれたのは、彼の実力が最も低かったからだろう。
ロイクは、落ちこぼれ中の落ちこぼれより僕が劣っていると、衆目の目にさらしたいのだ。
だが、残念だったな。
「次はルルア・ルナリア」
「はい」
教員に呼ばれた僕は、テオの隣で的に向かって手のひらを向け、瞳を閉じる。
体内を巡る大半の闇の魔力に混じった、ごくわずかな水属性の魔力を感じ取る。
それらを手のひらへ集中させ、小さな水でできた球体を生み出し、それを的に向かって放った。
「えっ――」
隣で、テオが小さく声を漏らした。
周囲にいた面々も同じである。
僕の放った水球は、的を粉々に破壊した。
的を破壊する者は他にもいたが、僕ほど徹底的にやった者はいない。
というより、ここまで威力を出せるのは最低でもBクラスの生徒からだろう。
「すごいですね。ルルア・ルナリア……」
教員が辛うじて言葉を漏らすと、まばらに周囲から拍手が聞こえてきた。
「で、では次――」
次の二人組が呼ばれたところで、僕とテオは後ろに下がりその場に座り込む。
やってしまった――。
数日前に練習したときは、ここまで威力は出ていなかった。
闇の魔力を使うようになって、他の属性の魔法の精度が上がっていることはわかっていたが、これは想定外だ。
「(話が違う話が違う話が違う話が違う……)」
な、何だ……っ!
隣を見ると、酷く青ざめた顔でテオがブツブツと呟いている。
そうか、目的を達成できなかったテオはこれから――。
「テオ」
「――っ、は、はい……っ!」
「放課後、少しだけ時間をもらえないか?」
「え、えっと、その時間は――」
おそらく放課後はロイク・ブレイクに成果を報告することになっているのだろう。
だが、そんなところへ行ってテオが再起不能になってもらっては困る。
「いいだろ?」
「――はい」
僅かに影が差した瞳で、テオは頷いた。




