第27話 第一王子の帰還
ヴァルノート領戦勝記念パーティーで、フィデルは約束通り第三王子であるルルアの後ろ盾となることを宣言した。
(これで、後には引けなくなったな)
フィデルの宣言に対する反応は一様だった。
本当に大丈夫かと、皆フィデルの正気を疑っている。
ルルアが数日にして帝国軍を退けたことを疑う者は多い。
現実的な話ではないので、フィデルとしても仕方ないところ。
加えて、第一王子派と対立することを無謀だと笑う声。
第二王子派閥が崩壊したとはいえ、力の差は歴然。
これもフィデルとしては致し方のないところである。
(忠義のための嘲笑と思えば、安いものだ)
仮にルルアが加勢せず、本筋通り第二王子派閥が援軍に来たとする。
それによって、勝利という結果に終わった可能性は十分にある。
しかし、最小限の犠牲に収まることは間違いなくない。
最小限の犠牲、そして敵国の皇子の確保。
ルルアでなければ、絶対に実現不可能な偉業である。
(さて――)
主賓としての挨拶で高らかに宣言して終わりでは当然ない。
むしろ、ここからが後ろ盾としての仕事の始まりだ。
「リゼール殿。行きましょうか」
「ええ」
フィデルは第三王子派筆頭貴族であるノルン家当主のリゼールと共に、会場に集まった貴族たちに挨拶回りを始める。
そして、一通り挨拶を済ませた頃だった。
「何だ……?」
途端に会場内が騒がしくなる。
騒ぎの中心へフィデルは目を向けた。
「あれは――」
「アルト様、帰ってこられたのか」
弟と同じ金髪紫目、逆に顔立ちは温和で知的な印象を受ける。
騒ぎの中心にいたのは、これからルルアが戦うことになる第一王子のアルトだった。
群がる貴族たちの間から、アルトは誰かを探しているようだった。
そして、フィデルと目が合った瞬間、ニコっと笑い歩いてきた。
「ヴァルノート辺境伯。お久しぶりです」
「これは、アルト様。お久しぶりです」
非常に愛想の良い笑顔をアルトは浮かべたまま、今度はリゼールの方へ視線を向ける。
「ノルン子爵――失礼、今は伯爵でしたね。伯爵もお久しぶりです」
「こちらこそ、覚えて頂けて光栄です」
「当たり前だよ。可愛い弟の義理の父に当たる方ですからね」
可愛い弟。
その言葉に全く嘘偽りは感じられない。
それが逆に、フィデルにとっては不気味だった。
「辺境伯、ルルアはどこに?」
今回のパーティーの主賓はフィデルだが、普通なら功績を上げたルルアも同席するのは自然なことだ。
事前にルルアと決めておいた言い訳をフィデルは伝える。
「少し体調を崩されまして、本日は欠席されております」
「体調を?」
「はい。最前線で戦った疲れがここに来て」
「なるほど。でもそうか――」
アルトの笑顔が僅かに薄くなり、作り物感が増す。
「僕がいない間に、随分と成長したんですね」
「約四年ですか。それだけあれば」
「はは。それはそうですね!」
軍事のトリアとは違い、アルトは外交がメイン。
その関係上、アルトは留学という形で他国で生活していた。
「それで、先ほど少し聞いたのですが」
来たな――。
リゼールと一度視線を交わして、二人で身構える。
「二人を中心に、ルルアを支援すると」
「はい。我々はルルア様に恩義がありますから」
「ということは、ルルア自らがそれを望んだということですか?」
「いかにも」
「そうですか。ちなみに、理由などは?」
「それは私の口からは」
というより、フィデル自身はその件について具体的には知らない。
わかっているのは、何らかの理由でルルアが権力を欲しているということ。
リティアのために動いていると知っているのは、フィデルの隣にいるリゼールだけだ。
「なるほど。では、直接聞くしかなさそうですね」
「「――っ!?」」
「よろしければ、ルルアと会う場を用意して頂けませんか?」
アルトは現状、次期国王に最も近い存在。
政敵とはいえ、二人にアルトの頼みを断ることはできない。
「私の方からお話を通しておきます」
「ありがとう。頼んだよ、伯爵」
手を挙げたリゼールに、アルトはニコリと笑いかけてから二人の下を離れていった。
「どうやら、ルルア様との面会が本題だったようですね」
「ああ。ルルア様への言伝、よろしくお願いします」
自分たちから離れていくアルトを見つめる二人の手には、異常な汗が出ていた。
◇◇◇
戦勝記念パーティーの終了予定時刻を過ぎ、就寝時間が訪れたタイミングで、部屋にマイヤが入ってきた。
「どうした?」
「リゼール様がお見えに」
お義父様が?
「すぐに行く」
広前に行くと、お義父様が恭しく一礼した。
「まずは急なご訪問となり申し訳ありません」
「大丈夫です。それで、どうしましたか?」
「アルト様が、帰還されました」
「――そうか」
時期的に、いつ戻って来てもおかしくない頃ではあった。
「それで、一度ルルア様とお話したいと」
「なるほど――」
闇の権能の後遺症で、異常に成長してしまっている俺だが、アルトは少し前の僕を知らない。
アルトと最後に顔を合わせたのは、四年前だ。
「そういうことなら、拒絶する理由はないですね」
「よろしいのですか?」
「ちょうど退屈していたところです。ただ」
不要に人目につくのは避けたい。
「一つだけ条件を出しましょう」
「条件、ですか?」
「会合の場所はここ。あの人なら、僕の体調を気遣って受け入れてくれるはずです」
「なるほど。承知しました。そのように私のほうから交渉いたします」
「よろしくお願いします。では、私はここで」
お義父様が家を後にしてから、僕は小さく息をつく。
「いよいよか――」
アルトには、トリアのように武力は通じない。
ここからは知略が重要になってくる。
「僕にアルトを倒せるのか――いや」
倒さないという選択はない。
アルトを倒さなければ、僕とリティアの幸せは訪れないのだから。




