第28話 格の違い
さて、そろそろか。
自室で、僕は第一王子のアルトを待ち構える。
僕の要求どおり、アルトは自ら僕に会うために出向く意思を見せた。
僕が治った後にでもと、そう言いそうなところでのこの判断。
どうやらアルトは、早急に僕への対処をしたいと考えてるようだ。
「ルルア様。アルト様がお見えになりました」
「わかった。すぐに向かう」
玄関へ赴くと、ちょうど扉を開けてアルトが入ってきた。
アルトは僕を見るなり、瞳を輝かせる。
「ルルア、久しぶりだね」
「お久しぶりです。アルト兄さん」
「見ない間に、随分と大きくなったね」
柔らかい笑みで僕との再会と僕の成長を喜んで見せるアルト。
政敵である僕に対して、この友好的な態度。
どうやらアルトには、それだけの余裕があるらしい。
「お話があると伺いました。こちらでお伺いしましょう」
広間に案内して、二人で向かい合って座る。
マイヤが双方にお茶を出し、僕の後ろに控えたところでアルトは言った。
「ルルア。今日は兄弟二人きりで話がしたいんだ」
つまり、マイヤを退出させろということだ。
「わかりました。マイヤ」
「かしこまりました」
僕たち二人に一礼してから、マイヤが広間を後にする。
「念のため、防音結界を張っておくね」
そう言ってアルトが指を一回鳴らした瞬間、広間全域に魔力が満たされる。
これで準備が整ったと判断したのか、アルトはテーブルに両肘をついた。
「まずは、体調が悪いところ話の場を設けてくれてありがとう」
「いえ、アルト兄さんの頼みとあれば当然です」
「そう言ってもらえると嬉しいよ」
それじゃ、本題に入ろうか――。
アルトの雰囲気が変わった。
笑顔は張り付いているが、気味の悪い緊張感が伝わってくる。
「ルルア。ヴァルノート辺境伯と共に、自派閥を宣言したんだね」
「はい」
「それはつまり、国王を目指すということでいいのかな?」
「ご認識の通りです」
「そうか」
口調は軽い。
まるで僕のことを敵と思っていない証拠だ。
だが、今はそれでいい。
油断してくれていた方が動きやすいからな。
「国王になりたい、理由を教えてくれないかな?」
理由――それは当然リティアのためだ。
だが、それを素直に話すわけにはいかない。
それはそのまま僕の弱みを教えることと同義だ。
ここは適当に――。
「ああ、言い難かったらごめんね」
僕が答える前に、アルトが言葉を被せてくる。
「私が言い当ててみる。そういうのはどうかな?」
どういう意味だ?
「もちろん、当てずっぽうに何度も尋ねたりはしない。聞くのは一回だけだよ」
アルトの出した条件に、僕は状況を悟る。
これは自信があるからこその提案だ。
つまり、アルトは僕の弱点を――。
「わかりました。一回だけですよ」
「ありがとう!」
アルトが持っている情報について、確認しないわけにはいかない。
「では、どうぞ」
「ああ、その前に。ルルア、婚約おめでとう」
「――っ!?」
「どうしたんだい?」
まだ、自分は何も言っていないよ?
そんな軽い笑みを浮かべながら、首をかしげるアルト。
だが、僕にはわかる。
これは確信犯だ。
「じゃあ、私の考えだけどね」
アルトは当たり障りのないことを言って、違ったかと苦笑いを浮かべる。
完全に、してやられた。
やはり、アルトはトリアとは格が違う。
このままでは、一方的に僕が不利益を被ることになりかねない。
今日は様子見のつもりだったが、止めだ。
僕は声に闇の魔力を込め、アルトに言った。
「アルト兄さん。今日の本当の目的は何ですか?」
「本当の目的、かい?」
「――」
どういう、ことだ?
僕は確かに隷属の権能を使った。
だが、アルトには全く効いていない。
いや、まだだ。
「とぼけないでください。僕の意思確認だけで、わざわざ兄上のようなお方が」
「ルルア。体調が悪いのかい?」
「――えっ」
間違いなく、完全に僕の権能は効いていない。
その事実に対する困惑が、表情に出てしまった。
「すまない、ルルア。やはり日を改めるべきだった」
そう言ってアルトは立ち上がると、防音結界を解いて広間の外へ人を呼びに行こうとする。
制止しようとするが、上手く声が出ない。
「ルルア様……っ!」
アルトに状況を聞かされたマイヤが、すぐに僕の下へ駆け寄って来る。
やめろ、今そんなことをすれば――。
「ルルア。また今度ゆっくり話そう」
「――(待て!)」
「そうだ。最後に一つだけ」
今度、一つ僕に頼みたいことがある。
詳細は、後日連絡する。
そう言い残して、トリアは玄関から外へ出て行った。
「ルルア様、これは……っ」
「完全に、してやられた」
いや、してやられたなんて生温いものじゃない。
「アルトに、権能が効かなかった」
「え……それは、つまり――」
「ああ――」
同じ力を持つ者に対して、闇の権能は発動しない。
つまり、アルトもまた闇の魔力を保有しているということだ。
「となると――」
おそらく、最初から僕の力についても把握していたと考えるべきだろう。
情報の出どころはトリアで間違いない。
そもそも、トリアのことだ。
僕への復讐をかねて、すべてアルトに情報を明け渡していても不思議ではない。
「ルルア様。これからどうなさいますか?」
どうするか?
「決まっている」
確かにアルトは強大な敵だ。
トリアとは格が違い過ぎる。
だが、それ以上にアルトは僕の逆鱗に触れたのだ。
「アルトは、絶対に叩き潰す」
リティアを人質に取るような真似をしたのだ。
その罪は、しっかりと償ってもらうぞ!




