第24話 圧倒的な勝利
本陣まで無事たどり着くと、銀髪の美丈夫を中心として二十名近い戦士が奇襲の警戒態勢を取っていた。
「あれが、オルフェオ・ゼタヘルムか」
帝国の皇子であり、この軍の総指揮官。
帝国も貴族は魔法が使えるため、戦闘力は高い。
特に皇子ともなれば、並外れた才を持っているはずだ。
おそらくこの奇襲への警戒態勢は彼が考案したものだろう。
そして作戦の前提には、闇の権能がある。
初代国王の時代にも、帝国との戦いはあった。
当時の闇の権能に関する記述が帝国には残っていたのだろう。
「どうやら、本気を出してみるときがきたらしい」
どのみち、そう遠くない内に狂愛の時間は訪れる。
ならば、この辺りで全力を出してみるのも悪くない。
「ゼノ、メーナ。手出しは無用だ」
「「は……っ!」」
さて、始めようか。
不便なことに、認識阻害の権能を発動中は他の魔法が使えない。
そのため、攻撃の際は必ず認識阻害の権能を解く必要がある。
「――っ、来たな」
僕が堂々と姿を現すと、オルフェオの緑色の瞳と視線が合う。
「一人か?」
陽動を疑い、すぐには動かない。
今回に限っていえば違うが、一般的には正しい判断だ。
「戦うのは、な」
「何――」
オルフェオとその周辺から漂う殺気を受けて確信した。
この数相手の戦闘では、ゼノとメーナは使えない。
善戦はするだろうが、不用意に駒を減らす結果になる。
僕一人で戦うことにして正解だな。
「時間があまりない。始めようか」
僕の言葉を合図に、僕は無数の針を構築。
敵はそれぞれ最も得意とする攻撃魔法を展開。
加えて、近接戦闘型が接近してくる。
分身を連れ戻すか。
さすがに近接戦闘と遠距離戦闘を同時にこなすのは無理だ。
王都の邸宅に置ていた分身を消し、この場に呼び出す。
分身が突然消えてもマイヤなら上手く対処してくれるはずだ。
「リティアとしらばらく会えなくなったんだ。しっかりその代価は頂戴するとしよう!」
大切なリティアとの時間を犠牲にしたことで、自然と僕の中の魔力が増大していく。
本体の僕が遠距離戦闘を担当し、分身の僕が闇の魔力でできた双剣を手に、近接兵と対峙する。
「そうだ。駒を増やそう」
分身に隷属の権能を使用させ、近接兵を手中に収める。
「――っ、なぜ我々を攻撃する……っ!?」
僕の配下となった近接兵が、僕の分身と一緒にオルフェオたちに向かって攻撃をしかける。
「隷属の権能か……やむを得ない、攻撃しろ!」
「――っ、は……っ!」
さすがは帝国の皇子。
容赦ない的確な判断だ。
しかし、戦況は既に僕へと傾いた。
帝国側が隷属の権能を使って寝返らせた兵士に対処している間に、僕の遠隔攻撃が次々と敵を蹂躙していく。
やはり、オルフェオだけは別格か。
事前の情報でオルフェオは水属性魔法が得意だと聞いていたが、想像以上だ。
僕の針と同じような大きさの氷礫を大量に生成し、完璧なまでに相殺している。
「これならどうだ?」
僕は展開する針の両を十倍に増やす。
「――っ」
表情を歪めるオルフェオ。
しかし、こちらの攻撃は再度相殺された。
さすがだな。
おそらく、魔力量は互角。となれば、このまま魔法の打ち合いを続ければ互いに消耗していくだけだ。
また、これ以上の戦闘は無意味だがな。
「この辺で終わりにしよう」
「何、だと?」
「上を見ろ」
「上だと――っ!?」
突如として、本陣の周辺上空一面に闇の針が展開されている。
「いつの前に――っ」
弱点がある認識阻害の権能だが、一度展開した針に使えばこの通り相手に気づかれることなく罠を張れる。
「言っておくが、まだ外で待っている戦力にこの針は見えていない」
認識を阻害する範囲の調整は可能だ。
「僕の言いたいことはわかるよね?」
まだ戦闘を続けるようなら、無数の針による攻撃が外で待機している伏兵に向けられる。
オルフェオにとってこれは、人質を取られているに等しい状況だ。
「――何が望みだ?」
「話が早くて助かる。オルフェオ・ゼタヘルム。あなたの身柄だ」
「何――?」
ゆっくりと僕はオルフェオに近づく。
途中で警護の兵が手を出そうとするが、すぐにオルフェオが止める。
「今から僕について来い」
「――わかった」
隷属の権能を受けたオルフェオは、全軍撤退の指示を出し、僕たちを攻撃しないよう他の指揮官に指示を徹底させる。
「さて、行こうか」
総指揮官の身柄を確保した。
これ以上にない戦果を手に、僕は敵本陣を後にする。
「さすがです。ルルア様」
「圧倒的な勝利ですね!」
ゼノとメーナがそれぞれ歓喜の声を上げる。
「そうだな」
オルフェオを人質にするように、僕たちは堂々と敵の本陣を進んでいく。
一人くらいは攻撃してくる輩がいると思ったが、完全に戦意を喪失したようだ。
やはり、それだけ帝国での皇子の地位は絶対ということだろう。
「ルルア様!」
帝国軍が完全撤退を進める中、無事にテオたちのもとへ戻るとオルフェオの身柄を預ける。
「ルルア様、どちらへ?」
「先にヴァルノート邸へ戻っている。戻って来るのはゆっくりで構わない」
ジャスミンにそれだけ伝えて、僕は早々に戦線から離脱する。
「リティア――」
さて、今回はどれほどのものかな。




