第22話 まだ大丈夫なはずだ
何とか、リティアに心配をかけずに済んだな。
朝の登校を無事に終え、意識を分身から切り離した僕は安堵の息をつく。
「ルルア様。フィデル様がお呼びです」
「わかった。今行く」
東の戦線を難なく崩壊させたことは、すでに報告している。
おそらく、用件は中央戦線の攻略に関するものだろう。
「お疲れのところ、申し訳ない」
「いえ。用件は次戦についてですか?」
「ああ――」
テーブルに向かい合って座ったところで、僕たちは次の戦いについて話し合う。
「中央戦線ですが、他の二つのように攻め落とすことは可能ですか?」
「そうですね――」
認識阻害の権能を使えば、敵の指揮官の下まで行くのは難しいことではない。問題は指揮官との戦闘だ。
「さすがに三度目となると、向こうも警戒するでしょう。それに、中央に東西の残党が終結しています」
いくら闇の権能が優れているといっても、僕たちの奇襲を呼んで多数の魔法師を配置されれば無傷とはいかない。
加えて、指揮官を倒せたとしても、指揮系統が完全に崩壊した残存兵が一気に襲い掛かってくる可能性は高い。
「そこで、奇襲組と正面から戦闘を行う集団に分けようと思います」
「なるほど――」
奇襲組に僕を含めて三人。
残りの五人を前線に配置する。
前線に人数を割くことで、敵も奇襲だけを警戒せずにはいられない状況にすることができる。
「私としては、作戦に異論はありません」
すでに僕たちの実力は十分に信頼足るものだと理解しくれているらしい。
「決行はいつになさいますか?」
「可能なら今夜」
昨夜、奇襲を受けたことで、僕がヴァルノート領にいることはトリアも気づいていることだろう。
加えて、西の戦線が落ちたことも、もうじき連絡がいく頃だ。
すぐにトリアは派兵するだろうから、その兵が到着する前にかたを付けなければいけない。
「わかりました。今夜襲撃をかけられるよう、兵力の準備をいたします」
「ありがとうございます」
さて、最前線での戦いも今日で終わりだ。
これでようやく、リティアに会える!
◇◇◇
ルルアとフィデルが中央戦線での戦いに向けて話を詰めている頃。
王都の王城の一室で、バジル・ヴァルドは冷や汗をかきながら、トリアに報告を始めた。
「ルルア様への奇襲ですが、撃退されました」
「だろうな。それで結果は――?」
「傷跡から血液がまったく出ていなかったとのことです」
「――影武者の権能か」
「おそらくは」
「では、ルルアの本体はどこにいる?」
「そ、そのことですが――」
バジルが伝えたくなかったのは、まさしくそのことだった。
「ルルアがヴァルノート領に……加えて西の戦線が後退だと!」
「はい……どのような手を使ったのかはわかりませんが」
「く……っ!」
つい最近まで、主要な三つの戦線は何とかヴァルノート軍とその周辺の貴族たちによって持ちこたえていた。
そのうちの一つが、ルルアが訪れた瞬間、王国側が大優勢となった。
「ルルア……っ!」
今まで冷静さを保っていたトリアも、流石に今回ばかりは怒りを覚えずにはいられない。
「どうなされますか?」
「決まっている。すぐに派兵だ!」
「し、しかし、まだ他の国境に――」
「今集められるものだけで構わない!」
「か、かしこまりした!」
すぐにバジルが執務室を後にする。
「早く、早くしなければ――」
本当にすべてルルアに持って行っていかれてしまう。
トリアの焦りは現在進行形で加速してく。
今までヴァルノート領に派兵せず、周辺の小さな戦場でトリアは確実に戦果を上げてきた。
それは自派閥の実力を確実に上げ、最終的にヴァルノート領で大戦果を上げて第一王子派閥をしのぐ権威を得るためだ。
その計画が、崩れ去ろうとしている。
(いや、まだ大丈夫なはずだ……)
主要な戦線は二つある。
いくらルルアの権能が優秀とは、三日ですべての戦線を攻略してしまうなど、あるはずがない。
そんなトリアの下に、東の戦線が攻略されたと知らせが入ったのは、派兵の命を出した翌日のことであった。
◇◇◇
夜がやってきた。
辺境伯は約束通り、中央戦線に追加の兵を招集してくれた。
「それではテオ。ここは頼んだぞ」
「――っ、承知しました」
前線で戦うように指示を受けたテオが、悔しそうに僕の命に頷く。
忠誠の権能を与えた中で、テオはマイヤに次ぐ実力を持っている。
つまり、今いる中ではテオがナンバー2というわけだ。
さすがに、僕とテオの二人が前線を抜けるわけにはいかない。
テオにとっては不服だろうが、ここは前線を支えてもらう。
「ルルア様のお供の一体誰でしょうか?」
「そうだな……」
テオの問いに、僕は少しの間考えてから答える。
「ゼノとメーナにしよう」
灰色の髪と瞳の少年と、茶色の髪と黄緑の瞳をした少女を指名する。
「この二人でよろしいのですか?」
実力的に、ゼノとメーナは下から一番と二番だ。
テオが不安を覚えるのも、無理はない。
「実力としては十分だ。それに、いざという時は僕が何とかする」
「――っ、承知しました……」
依然として納得しかねる部分はあるのだろう。
渋々といった様子で、テオは頷いた。
「ゼノ、メーナ。行こうか」
「「は……っ」」
前線をテオたちに任せた僕は、ゼノとメーナに認識阻害の権能を使用し、周囲から姿を消す。
今頃は、トリアが大急ぎで派兵を進めていることだろう。
その努力は空しく、僕がすべての戦果をもらうことになる。
まあ派兵自体が無駄にならないような配慮はするつもりだ。
とりあえずは、帝国軍が撤退した跡地の占有に役立ってもらうとしようかな。




