第15話 次の段階へ
ロイクの件を片付けてから早くも一月が経った。
「それではルルア様」
「うん。また明日!」
僕は自宅の前でリティアに別れを告げ、彼女が乗った馬車が見えなくなるまで手を振り続けてから玄関を潜る。
「お帰りなさいませ。ルルア様」
「ただいま、マイヤ。それでテオたちは――」
「はい。すでに広間で待機していらっしゃいます」
「わかった。すぐに向かう」
制服を着替えることなく、僕はそのまま広前へ向かう。
「悪い。待たせたな――」
「「「「「「「お待ちしておりました。ルルア様!」」」」」」」
「お、おう……」
広前へ入ると、俺と同じ貴族院の制服を着た七人の生徒が一斉に大きな声とともに頭を下げる。
その中には、当然のようにテオの姿もある。
彼ら彼女らはみな、元はブレイク家の寄り子だった家の子息子女であり、ロイクを再起不能にした勇気ある者たちだ。
僕を信じ、上級貴族の子息に手を挙げた彼らの勇気に応える形で、この七名には忠誠の権能を使っている。
ちなみに、他にも僕の陣営に入った下級貴族はいるが、忠誠の権能は使っていない。
この場にいる七名に使ったタイミングで、例の愛の発作が起きてしまったことが原因だ。
どうやら、狂愛の時間は忠誠の権能を複数名に使ったときも発生してしまうらしい。
「顔を上げろ」
「「「「「「「は……っ!」」」」」」」
僕が椅子に座ると、テオたちは正面に並び立ったままだ。
「さっさと《《椅子》》に座れ」
「「「「「「「は……っ!」」」」」」」
ようやく七名は椅子に座った。腰を下ろせとか、抽象的に言うと床に直接座るの
で注意が必要だ。
「さて。まずはテオから報告を聞こうか」
「は……っ!」
僕は現在、彼らに貴族院内の寄り子の子息子女たちのことを探らせている。
具体的には、僕の陣営に取り入れることができるかどうかについてだ。
「私からの報告は以上です」
「わかった」
この場にいる一人ずつに状況を聞いていき、最後のメーナが発言を終えたところで、僕は小さく考え込む。
「そろそろ頭打ちだな」
ロイクの件が片付いて以降、順調に僕の陣営は拡大していき、入学当初掲げたDクラスの連中を全員服従させるという目標も七割は達成できていた。
しかし、問題は残りの三割だった。
「やはり、第一王子派閥の貴族は固いな」
「はい。どの家もそれほど困っている様子はありませんでした」
僕の言葉に、テオが同意を示す。
第一王子派の貴族は堅実な輩が多く、権力を誇示したい第二貴族派の連中のように、むやみやたらに寄り子を取ることもしない。
第一王子派の貴族の寄り子は、いわば選ばれた寄り子。待遇も決して悪いものではない場合が多いのだ。
「計画を次の段階に進める必要がありそうだな」
「と、仰いますと……」
「後ろ盾を獲得する」
「「「「「「「遂に……っ!」」」」」」」」
僕の発言に、テオたちが歓喜の声を上げる。
本音をいえば、もう少し粘りたいところだが、これ以上はテオたちだけでなく、お義父様にも大きな負担をかけてしまう。
この辺りで後ろ盾を手に入れ、正式に第三王子派閥の設立を宣言するべきだ。
「ジャスミン」
「は……っ!」
僕は亜麻色の髪の少女に命じる。
「明日の放課後、少し付き合え」
「――っ、か、かしこまりした!」
ジャスミンは、この場にいる七名の中で唯一の子爵家の女性。僕の陣営で、現状ヴァルノート家の令嬢への挨拶に連れて行ける最善の人材だ。
僕の指名を受け、あたふたするジャスミンに対して、テオをはじめ他の六名が嫉妬の籠った視線を向ける。
「テオ」
「は、はい」
「不満があるのか?」
「――っ、い、いえ!」
なあ、お前たち。
そんなテオの視線を受け、他の五名も黙って頷いた。
僕へ忠誠を誓った年月にさほど時間は変わらないが、六人ともテオに対して一程度の敬意を払ってくれているので、こちらとしては助かっている。
「ではジャスミン。明日は頼んだぞ」
「はっ……!」
「他の者たちは引き続き任務を続行だ」
「「「「「「はっ……!」」」」」」
「では、今日は解散だ」
僕の命を受け、すぐに七名が僕の邸宅を後にする。
「さて、明日からまた忙しくなるな」
とりあえず、明日の放課後はリティアと一緒に帰られない。
「マイヤ」
「何でしょうか」
「明日の放課後。リティアの護衛は任せた」
「――かしこまりした」
「《《最重要任務》》だからな」
「心得ております」
僕の言葉に何一つ疑いを持つことなく頷くマイヤを見て、思う。
やはり、最初に忠誠を誓ってくれたのが彼女がで良かった。
彼女を送り込んでくれた第二王子派閥には本当に感謝だ。
◇◇◇
翌日の放課後。
「お待ちしておりました。ルルア様」
「ジャスミン。貴族院でそれは止めろ」
恭しく一礼してくるジャスミンを、僕は手で制する。
ちなみにジャスミンは一学年上で、学校では先輩だ。
表面上、学校で身分云々は慎むようになっているため、先輩に頭を下げさせる光景をあまり周囲に見られるのは良くない。
「では、生徒会室へ行こうか」
「はい」
後ろ盾の最有力候補――ヴァルノート家の令嬢セシアは貴族院では生徒会副会長を務めている。
この時間帯は、毎日生徒会室にいることは調べてが付いていた。
「ここが生徒会室か」
質素でありながら、十分な品格を漂わせる装飾が施された扉の前で、僕は立ち止まる。
「ルルア様」
「わかっている」
部屋の中から、声が聞こえてくる。
生徒会室にはほとんど人が寄り付かないため、わざわざ防音結界を張るまでもないということだろう。
敵の貴重な情報になるかもしれない。
少しだけ聞き耳を立てた。
「すまない。私の力ではこれ以上の前線への援助は難しい」
「そう、ですか……」
生徒会長がセシアに謝っている。生徒会長は第一王子派閥の公爵家で、かなりの力を持っている。
内容的に、セシアが前線への援助を公爵家へ依頼したが、聞き入ってもらえなかったといったところだろうか。
タイミングとしては悪くないな。
そう思ったタイミングで、生徒会室の扉が開かれ、一人の女子生徒が姿を現した。
燃えるような橙色の長い髪と瞳を持つ美女――セシア・ヴァルノートだ。
「誰だ。君たちは……?」
「お初にお目にかかります。ルルア・ルナリアと申します」
「私はジャスミン・ハーブです」
「――近頃、噂になっている第三王子とその側近か」
どうやら、僕たちのことは認知してくれているらしい。
「今日はセシアさんにお話があり、伺いました」
「私に、か――いいだろう。場所を移すぞ」
「ありがとうございます」
僕は後ろで緊張気味のジャスミンに頷きかけてから、セシアの後に続いた。




