第13話 婚約の真実
お義父様が来たのは、夕食と入浴を済ませた後だった。
「こんな夜分にすまないね」
「いえ。僕としてもお話したいことがありましたので」
給仕をしていたマイヤを下げさせ、広間で二人きりになる。
「防音結界を張らせてもらってもいいかい?」
「もちろんです」
「では――」
お義父様が風魔法の防音結界を広間に張り巡らす。
「これでよし」
「流石です」
「風魔法はノルン家の十八番だからね」
小さく一息つくと、お義父様の表情が変わった。
「単刀直入にお聞きします。ルルア様。あなたは何を企んでいる?」
お義父様は傑物だ。
ある程度は僕の企みにも気づいているだろう。
ノルン家は今の僕が頼れる唯一の有力貴族。
嘘偽りなく事実を伝えるべきだ。
「僕は国王になります」
「――それはリティアのためかい?」
「はい。僕のせいで彼女の株が下がるのは我慢なりません」
「それをリティアが望んでいなかったらどうする?」
リティアは優しい。だから、お義父様の言う通り僕が罪を犯してまで国王を目指すことを望まないかもしれない。だが――。
「もう、戻れないのですよ」
僕は闇の魔力を使った。
マイヤとテオを従者として、ロイクを再起不能にした。
僕にはこの戦いを最後までやり遂げる責任がある。
「わかった。ならば最後までやり遂げ成なさい。協力は惜しまない」
「ありがとうございます。では早速ですが――」
ロイクの件で仲間になった六つの家の寄り親になって欲しいと伝える。
「六つか……いいだろう。ノルン家も随分と偉くなったものだな」
「数年後には侯爵になってもらうので覚悟しておいてください」
「何と、それは夢がある話だ」
お互い小さく笑みを躱し合う。
「伯爵、一つお聞きしたいことがあるのですが」
「何だい?」
「僕の力について――」
「知っているとも。だからリティアを嫁がせてもいいと考えた」
思った通り、無能に大切な娘を嫁がせる親はいないということか。
「念のため言っておくが、君の力について知っているものはノルン家のごく一部の者だけだ。安心して欲しい」
「ありがとうございます。ところで、どうして私の能力を?」
「自分でも自覚があるのではないかい?」
「というと、やはりあの誘拐事件ですか?」
「そうだ――」
今から五年前。
僕とリティアが出会って一年ほど経った頃。
一度ノルン家の屋敷に行ったことがあった。
そして、二人で近くの森に遊びに行ったとき、運悪く賊に捕まった。
当時から無能と呼ばれていた僕に優秀な護衛などいるはずがなく、それが仇となった形だった。
「力を使ったのは、あの事件が初めてかい?」
「はい」
古びた小屋に閉じ込められ、リティアに害が及ぼうとしているとき、居ても立っても居られなくなって僕は力に目覚めた。
「賊を一蹴した後は気を失って本当に記憶がないのですが、そのときに……」
「ああ。現場を見つけた捜索隊に偶然私もいてね、それでルルア様の力について知った。全力で事件について隠ぺいさせてもらったよ」
無能とはいえ、王族が一時的に拉致されたのだから、情報工作にも相当苦労したことだろう。
ある意味では、僕がここまで生きながらえてきたは本当にお義父様おかげかもしれない。
「あの後、母に魔法が使えるようになったと伝えると、二度と使うなと釘を刺されました」
「それで周囲には事件のことは覚えていないと触れ回ったのか」
「はい」
「ルルア様が何も覚えていないと言っていたと聞いたときは焦ったよ。そのときにはもう、リティアにルルア様と婚約させると言っていたからね」
「なるほど。それは焦りますね」
仮に僕がお義父様の立場なら、いつまであの王子は無能であり続けるのかと、毎日寝台のうえで発狂していたことだろう。
「ともかく、ルルア様が無事にお力をお使いになってよかった」
「よかった、のでしょうか……」
「何と言っても建国の力だ。素直に誇っていい」
「狂王を生み出した歴史があるとしても?」
「闇の魔力は本人の狂気に作用する、だったかい?」
「どうやら僕の狂気とは、リティアへの愛であるようです」
「なるほど――壊したら許さないよ?」
「壊す前に自ら命を絶ちます」
「よろしい」
闇の魔力を使い過ぎないことを祈ると言って、お義父様は立ち上がる。
「もうお帰りに?」
「ああ。明日には王都を発つからね。そういえば、もう一つ聞きたいことがあった」
「何でしょうか?」
「王位争いに参加する以上、後ろ盾は必須だろう。当てはあるのかい?」
力をつけているノルン家とはいえ、まだまだ中央にいる有力貴族ほどの力は持っていない。
「候補ならあります」
「差し支えなければ聞かせてもらっても」
「ヴァルノート辺境伯です」
「――なるほど。いい目の付け所だね」
ヴァルノート辺境伯領が治める領地は、王国内にある周辺諸国との戦場の中で最も苛烈を極める場所である。
有力貴族の一角でありながら、戦線維持に注力を余儀なくされていることから誰の派閥にも入れていないというのが現状だった。
「ヴァルノート辺境伯といえば、確かに貴族院にご令嬢が」
「はい、二つ上の学年に。近日中に声をかける予定です」
「なら、リティアも連れて行くといい。一応は顔見知りだからね」
「ありがとうございます」
リティアと二人で――ということは、二人で初の交渉仕事ということか!
「ニヤニヤしてどうしただい」
「いえ、何でもありません」
「ふむ、では私はそろそろ失礼するよ」
マイヤに連れられる形で、お義父様は屋敷を後にした。
「さて――」
ヴァルノート家を後ろ盾にするためには、彼らの戦場で貢献する以外に方法はない。
そのためには、僕の力だけではなく、忠誠を誓った者たちの力も必要だ。
成功のカギはどこまで彼らが力をつけるかにかかっている。
これからさらに忙しくなりそうだ。




