第11話 ここからが本番だろ?
男爵には、予めテオから事情を伝えてあるらしい。
「お待たせしました。男爵」
「こちらこそ、大したもてなしもできず。改めまして、当主のウルド・ブレヒトです」
「ルルア・ルナリアだ」
僕が手を差し出すと、遠慮がちにウルドさんは手を取る。
息子と同じ髪色と瞳で、かつ性格まで似ているとは。
この雰囲気なら、さぞかし領民から慕われることだろう。
だからこそ、ブレイク家に目をつけられたともいえるが。
「まずは賊を倒して頂けたこと、領主として感謝いたします」
「さっきもいったが、僕はただ友達を助けたに過ぎない。むしろ、迷惑だったか?」
「そ、そんなことはありません。これでブレイク家とも縁を切れます」
「なるほど、それは良かった。しかし、ブレイク家と縁を切ったあとは?」
「――っ」
男爵が表情を引きつらせる。
どうやら僕のやったことは、半分嬉しく半分迷惑だったらしい。
とはいえ、迷惑の部分はすぐに解消するだろうから問題ない。
「ブレイク家の報復などは……」
「可能性は高いですね」
「うっ……」
「そこで提案があります」
僕は頬を緩める。
「僕の派閥に入りませんか?」
「ルルア様の、ですか……?」
「はい、近々立ち上げようと思いまして」
「失礼ですが、後ろ盾などは」
「これから探します。当てはあります」
「……」
やはりこれでは弱いな。
「入って頂けるなら、素晴らしい寄り親を紹介します」
「素晴らしい寄り親……?」
「ノルン家です」
「ノ、ノルン家……っ!?」
ノルン家は今や貴族界隈で知らぬものはいない実力派貴族。その名前が持つ影響力は大きい。
「僕の婚約者のことはご存じですね?」
「はい。それは当然」
「では、そういうことです」
「……」
「安心してください。ノルン家はブレイク家とは違います」
リゼールさんの署名が入った、数枚の提案書を差し出す。
「これは……っ」
内容について、男爵が驚きの声を上げる。
「本当によろしいのですか? これは寄り親寄り子というより」
「そうですね、業務提携といったところでしょうか」
ノルン家の治める土地は、国内では小さい部類に入る。領内でできることは限られるため、頭打ちの次期に入っていた。
そこで、ブレヒト家を寄り子として迎える代わりに土地を貸し出させるのはどうかと、リゼールさんに提案した。
ちなみに、ブレヒト領に工場などができた際には、ブレヒト領に求人も出すという雇用の拡大条件付きだ。
「どうでしょうか?」
「是非、お願いしたい!」
「よかったです。では――」
「はい」
男爵は立ち上がると、僕の前に来て膝まづく。
「ルルア様。ブレヒト家は全面的に、忠誠を誓います」
「頼りにしているよ」
これでひと段落だな。
◇◇◇
「もう発たれるのですか?」
「ああ。王都でやることがあるからな」
「うう、またこの馬車に」
「何か言ったか、テオ」
「な、何でもありません!」
何がおかしいのか、男爵は小さな笑みを浮かべる。
「すみません。いざ仲が良いところを見ると」
「それは当然、友達ですから」
「ルルア様。私は臣下です、友達などでは」
「テオ」
「な、何でしょうか」
「今回の件、助かった。お前のような息子を持てて光栄だ」
「父上――」
「ルルア様をしっかりお支えするように」
「――っ、はい……っ!」
やはり、こういう家族はいいな。
リティアと作るなら、こういう家庭がいい。
「それでは出発しようか。マイヤ」
「はい――テオ、あなたはこっちです」
「えっ――」
「ルルア様の従者となったのですから当然です」
「マイヤ、しっかり教育してくれ」
「かしこまりました」
王都に着く頃には立派な御者がまた一人、だな。
それから王都に着いたのは、日付が変わろうとしている時だった。
「テオ。今日は家に泊まれ」
「――よ、よろしいのですか」
「ああ。それと明日、時間はあるか?」
「はい。特に予定などもありません」
よし。ならば――。
「特訓だ」
「特訓ですか……何の?」
「決まっている。ロイク(のクズ)をボコボコにする特訓だ」
「へ……?」
この従者は何を惚けているんだ?
ここからが本番じゃないか!
ああ、本当に楽しみだ。
◇◇◇
休息日をテオの一件に費やして迎えた登校日。
「聞いてくれテオ。今日はすごく良いことがあったんだ!」
「な、何でしょうか……!」
ああ、友達とはいいものだ。
素晴らしい出来事を共有できるのだから。
「実は今日な、リティアが僕の変化に気づいてくれたんだ」
朝。いつも通りの幸せな登校時間を過ごす中で起きたできごとだった。
『ルルア様。身長がお伸びになりましたね』
『――き、気のせいだよ』
僕は副作用のことは悟られたくないため、誤魔化そうとした。
「そこでリティアが何て言ったと思う?」
「な、何と仰られたのでしょうか」
聞いてしまうのか、それ。
『誤魔化してもダメです。ずっとあなたを見てきたのですから』
反則だろ、これ。
「一緒に過ごしてきた年月はもの言うということですね」
「テオ。すごい良いこと言うな」
本当、友達がいるって良いことだ。さて――。
「何か用かな?」
教室が静かになったから何だと思ったら、冷たい笑顔を浮かべるロイク・ブレイクが僕たちの前に立っていた。




