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湯けむりのハプニング ~ミーナが仕切り板を壊したが、マナ石は増えたので結果オーライとする~

挿絵(By みてみん)



ミーナが「温泉に入りたい」と言い出したのは、ドワーフ峠から引き返した翌朝のことだった。


「温泉?」


カケルは思わず聞き返した。


「うん! 猫族の里では温泉に入る習慣があるの! 温泉はいいよ! 体が温まるし、疲れが取れるし、毛並みもよくなるし!」


「毛並み……」


「ミーナは毛並みが命なの!!」


ミーナは頭上の猫耳をぴんと立て、後ろのしっぽをぶんぶんと振りながら、全身で主張した。その熱量に、カケルは思わず「まあ……いいか」という気持ちになった。


そもそも、ここ数日の強行軍は確かに疲れていた。


ドワーフ峠で想定外の情報を得て、緊張状態が続いていた。夜営地でも完全には気が抜けなかった。温泉でゆっくり湯に浸かる時間があれば、疲労と緊張を取り除いて、次の行動に向けて頭を整理できる。


リョウも同意した。


「ちょうどいいタイミングかもな。南の街道沿いに「グランデ温泉宿」という宿がある。食事と宿泊込みで、一泊銀貨二枚。悪くない」


「温泉と宿泊がついて銀貨二枚は安いね」


「行商人御用達の宿だから。清潔さは保証する」


「清潔さを保証するって言い方が少し怖いな……」


「大丈夫、ちゃんとした宿だ」


エレナは「私は温泉よりも長風呂が好みです」とだけ言って、異議を唱えなかった。


かくして四人は、南の街道を折れて、温泉宿へと向かうことになった。



グランデ温泉宿は、想像より立派だった。


山の斜面に張り付くように建てられた、二階建ての木造の建物。湯気が細い煙突から漏れ出ていて、近づくほどに硫黄のかすかな香りが鼻をくすぐる。入り口には「温泉・宿泊・食事」と三ヶ国語で書かれた看板が掛かっており、その下に「本日空室あり」の文字が見えた。


「いい宿じゃないか」


カケルは素直に思った。


フロントで宿主のおばさんに迎えられ、四人分の部屋を二部屋確保した。男女に分かれての宿泊だ。カケルとリョウが一部屋、ミーナとエレナが一部屋。温泉は「男湯」「女湯」に分かれており、時間帯で入れ替え制になっている。


「夕食は一時間後です。それまでにゆっくりお湯に浸かってください」

と宿主のおばさんが言った。


「温泉の仕切りはしっかりしてますか」

とカケルが確認した。


「ちゃんとした木の板の仕切りですよ。背丈より高いし、崩れたことは一度もありません」


「そうですか、よかった」


なぜそんなことを確認したのか、カケルには理由はうまく説明できなかった。しかし、このメンバーで旅をしている以上、念のため確認しておいた方がいいという本能的な判断が働いた。


宿主のおばさんが去ったあと、荷物を部屋に置いてから、それぞれ温泉へと向かった。


男湯の入り口でリョウと分かれ際、リョウが小声で言った。


「ミーナを一人にしておくのは不安だな」


「女湯だからエレナがいる」


「エレナで抑えられるかな」


「……頑張ってもらうしかない」


「そうだな」


カケルはそう言いながらも、心のどこかで嫌な予感を感じていた。


しかしその嫌な予感は、自分の意識から素早く追い出した。


温泉だ。せっかくだから楽しもう。


男湯の暖簾をくぐった。



湯船は想像より広かった。


岩を組んだ浴槽に、透明感のある湯が張られている。湯気が白く立ち上り、窓の向こうには山の稜線が見えた。夕暮れの斜光が湯面に反射して、橙色に輝いていた。


「いい温泉だ……」


カケルは思わず声に出した。


湯に浸かった瞬間、旅の疲れが一気に溶け出していくような感覚があった。現代日本でも銭湯は好きだったが、露天風呂の経験はそれほど多くなかった。これは本物の良い湯だ。


リョウも同じく湯に浸かり、天井を見上げていた。


「たまにはこういう時間も必要だな」


「本当に。……ところでリョウ」


「うん」


「テーン商会のこと、もう少し教えてくれないか。あの名前、街道の看板に出るくらい表に出てきてるってことは、もう相当組織として動いてるはずだ」


「俺も調べてる最中だけど」

リョウは湯の中で腕を組んだ。


「商人のネットワークに聞いたところ、テーン商会は半年くらい前から急速に規模を拡大してる。最初は小さな物資取引の会社として登場して、今や鉱山管理まで手を伸ばしてる」


「半年で鉱山管理まで? 速すぎる」


「後ろに魔王軍がついてるなら当然だろうな。軍事力で脅しながら、表向きは合法的な契約で押さえていく。逆らえる領主はそう多くない」


「ひどいやり方だ」


「でも賢い」

リョウは静かに言った。


「戦争をしかけたら国際的な反発が来る。でも「商取引」の形にすれば、抵抗しにくい。誰かが「これはおかしい」と気づいても、証拠を集めて声を上げるまでに時間がかかる」


「その時間差を利用して、どんどん囲い込みを進める」


「そういうこと」


カケルは湯に肩まで浸かり、目を閉じた。


温泉のぬくもりの中で、頭の中では逆に冷静な計算が動いていた。


テーン商会の動きを止めるには、三つの方法が考えられる。


一つ目は、物理的に阻止する。鉱山を奪還し、交易路の封鎖を解く。これは正面戦争に近い。今の四人の戦力では、正直厳しい。


二つ目は、情報戦。テーン商会の実態を暴いて、各国の指導者や民衆に伝える。

「これは商取引ではなく、世界制服の準備だ」と。ただし証拠が必要で、時間もかかる。


三つ目は、テーン商会が独占しようとしている「もの」の価値を下げる。マナ石の代替エネルギーを開発すれば、マナ石独占の意味がなくなる。それが実現できれば、経済戦争の土台そのものを崩せる。


三番目が、カケルのアプローチだった。


そして、そのためにもっと大きな発明が必要だ。


「リョウ、エルフの森への道のりは」


「ここから東に四日ほど。ただし途中にミーナの故郷・猫族の里がある。そこで一度立ち寄る予定だ」


「情報と物資を集めながら進む」


「それで行こう。各地の職人や商人とも繋がりを作っておく。いざというとき、協力者がいるかどうかで全然変わってくるから」


「わかった」


二人で少し静かに湯に浸かっていた。


夕暮れの光がゆっくりと変わっていく。


山の向こうが橙から赤へ、赤から紫へと移ろっていく。温泉の湯気が夕空に溶けていく。


平和な時間だ。


カケルはこの平和が本物であってほしいと思いながら、同時に、この平和は今だけのものだと知っていた。


そのとき――


どごん。


鈍い衝撃音が聞こえた。


続けて、女性の驚く声。複数人分。


カケルとリョウは顔を見合わせた。


「……」


「……」


「嫌な予感がしてた」

とカケルは静かに言った。


「俺も」


次の瞬間、女湯の方から叫び声が上がった。


「ちょっと! ミーナ! なにやったの!!」


それは、エレナの声だった。


エレナが大声を出した。


カケルは生まれてから一度も聞いたことのない類の声だった。


つまり、それは相当なことが起きているということを意味していた。



事の発端は、ミーナの「好奇心」だった。


女湯に入ったミーナは、最初は大人しく湯船に浸かっていた。


しかし五分も経たないうちに、ミーナは「向こうに何があるんだろう」と考え始めた。


向こうというのは、男湯と女湯を隔てる板の仕切りの向こう側だ。


高い板の仕切りが、浴槽の真ん中に設置されている。板は厚く、隙間もない。完璧な目隠しだ。


しかしミーナにとって、「隙間がない」ということは「大きな空白がある」ことと同義だった。


猫耳をそばだてると、向こうからカケルとリョウの話し声が聞こえた。内容まではわからないが、声はする。ということは、カケルたちはすぐ向こうにいるわけだ。


ミーナはじわじわと仕切りに近づいた。


「ミーナ、近づかない方がいいですよ」

エレナが静かに言った。


「ちょっと近くで声を聞くだけ!」


「それは覗こうとしていませんか」


「ちがう! 覗かない! 声だけ! 猫耳で声だけ聞く!」


「……そういうことにしておきましょう」


エレナは溜息をついて、ゆったりと湯に浸かったまま目を閉じた。


ミーナは仕切りの近くまで来て、板に手をついた。


猫耳を傾ける。カケルの声が少し大きく聞こえた。


「……テーン商会……」「……半年で……」「……囲い込み……」


むずかしい話をしている。


面白くない。


ミーナは少し考えた。


話しかけたら面白いのに、と思った。


仕切りを叩いたら気づいてもらえるかな、と考えた。


板を、ちょっとだけ叩いてみた。


コン、と音がした。


向こうから反応がなかった。


もう少し強く叩けば気づいてもらえるかも、とミーナは思った。


少し強く、叩いた。


板がわずかに揺れた。


まだ反応がない。


もっと強く。


ドン。


板が大きく揺れた。


そして。


板の下の固定金具が、経年劣化でぽっきりと折れた。


どごん、という音とともに、仕切り板が男湯の方向に倒れた。


完全に。


ばしゃあ、という大きな水音が上がった。


沈黙。


ミーナは湯の中で固まった。


向こうには……カケルとリョウが、同じく固まった顔をして、こちらを向いていた。


三者が視線を交わした。


コンマ数秒の静寂。


「……」「……」「……」


全員が同時に目をそらした。


エレナが湯の中で目を開け、状況を確認した。そして静かに言った。


「ミーナ」


「……はい」


「やりましたね」


「……ごめんなさい」


「謝る相手が違います」


ミーナが恐る恐る顔を上げると、向こう側の湯の中でカケルが頭を抱えていた。


「ミーナぁ……」


「ごめんなさい!!」


「宿主のおばさんを呼んでくる!!」


リョウが素早く立ち上がり、浴場から出ていった。動揺していたが判断は速かった。


カケルは背中を向けたまま動かなかった。


「カケル、大丈夫?」

ミーナがおそるおそる聞いた。


「大丈夫じゃないけど……大丈夫」


「ごめんなさい……」


「……ミーナ

」カケルは背中を向けたまま言った。


「俺が「これに触っていい」って言うまで、今後は一切なにも触らないこと。それだけ約束してくれ」


「……うん。約束する」


エレナが静かに言った。


「仕切りを叩く前に、私が止めましたよ」


「エレナがいてもこうなるのか……」

とカケルがつぶやいた。


「申し訳ありません」


「エレナが謝ることじゃないよ……」


宿主のおばさんがリョウに連れられて慌てて来て、仕切り板を見るなり顔を赤くして

「こんなことは初めてです!!」

と叫んだ。板は急遽修理のため、四人は一度それぞれの部屋に戻るよう案内された。


部屋に戻るよう案内されてから着替えを済ませ、廊下でカケルとエレナが並んで歩いた。


「エレナ」

カケルが静かに言った。


「その……見えた?」


エレナは少し間を置いた。


「背中を向けていたので」


「そうか。よかった」


「カケルは?」


「俺も背中を向けた」


「……それは良かったです」


「うん」


二人の間に、なんとも言えない空気が漂った。


「ミーナはわかりません」

エレナが付け加えた。


「それは聞かないことにする」


「賢明です」


廊下の向こうから、ミーナの「ほんとにごめんなさーーー!!」という声が聞こえた。


カケルは天井を見上げた。


この旅はまだ始まったばかりなのに、早くも疲労感が二倍になった気がした。



夕食の時間。


四人が食堂の卓に揃った。


ミーナはしっぽを丸めて縮こまっており、カケルは目を合わせないようにしていた。リョウは何も言わずに黙々と食事を取り、エレナは静かにスープを飲んでいた。


その沈黙を破ったのはリョウだった。


「まあ……誰も怪我はなかったし、見えたわけでもないし、いいんじゃないか」


「宿主のおばさんに弁償した」

カケルは言った。


「仕切りの修理代、銀貨三枚」


「高い授業料だったな」


「ミーナ」


「……はい」


「次はない」


「……うん」

ミーナはうなだれた。


「ほんとにごめんなさい」


「謝罪は受け取った」

カケルは溜息をついて言った。


「飯を食べよう」


宿の夕食は質素だが温かかった。パンとシチュー、焼いた野菜、干し肉の薄切り。これだけでも、野宿が続いていた身にはご馳走に感じた。


食べながら、少しずつ場の空気が和らいでいった。


ミーナがおずおずとパンをちぎり、カケルの前に差し出した。


「これ……食べる?」


「もう自分の分は持ってる」


「そうだよね……」


ミーナがしゅんとした。


カケルは少し迷って、ミーナのパンを受け取った。


「……もらっておく」


「!!」

ミーナの耳がぴんと立った。


「喜びすぎ」


「だって!!」


「食べながらな」


「うん!!」


エレナが口元を隠しながらスープを飲んだ。


「仲いいですね」


「そうか?」


「そう見えます」


カケルはそれ以上何も言わなかった。


食事が進む中で、リョウが今後の話を切り出した。


「明日はここを出発してミーナの故郷・猫族の里に向かう。そこで情報収集と補給ができれば、その後のエルフの森への道も楽になる」


「ミーナの故郷」

カケルが言った。


「ミーナ、里のことを教えてくれるか。どんな場所?」


ミーナは顔を上げた。


「猫族の里は、山と川の間にある村。百人くらい住んでて、みんな猫耳があって、しっぽがある。温泉もある。あとジャンプが上手い」


「ジャンプが上手い?」


「猫族はジャンプが得意! 木に登るのも! 高いところにいると落ち着く」


「猫だ……」


「猫族だから!」


「里には、ミーナの家族もいるんだよな」リョウが言った。


ミーナの表情が、わずかに変わった。


「……うん。お父さんと、お母さんと、弟」


「仲はいいのか?」


「……いい。でも」


ミーナは少し言葉を探した。


「里を出てから、ずっと会ってないから。どうかな」


「どうかなって?」


「心配されてるかなって思って。猫族の里では、外に出るのはあまりよくないことだから。でもミーナはどうしてもお店で働きたくて……リョウの祖父さんに会って、連れてきてもらって」


リョウが静かに頷いた。


「祖父が里の近くで倒れてたミーナを拾ったのは聞いてる。里から逃げてきたんじゃなくて?」


「逃げてきたわけじゃない」

ミーナは少し口をとがらせた。


「冒険に出ようとしたら道に迷っただけ」


「結果的に同じな気がするが」


「ちがう! ちゃんと目的があった!」


「どんな目的?」


「世界を見てみたかった。里の外がどんなところか」


カケルはミーナの顔を見た。


普段は明るくて破壊的なミーナが、今は少しだけ遠くを見るような目をしていた。


「ミーナ、里に帰るのが怖いのか?」


ミーナはしばらく黙った。それからゆっくり首を振った。


「怖くない。でも……ちゃんと話せるかな、お父さんたちと。里を出たことを、何も言わないで行っちゃったから」


「それは俺が同席してもいいか?」

とカケルが言った。


「一人で向き合わなくていい」


ミーナが少し驚いた顔でカケルを見た。


「……いいの?」


「俺が行くことで楽になるなら、行く」


ミーナは少しだけ目を潤ませた。それからぱっと笑顔になって、しっぽをぶんぶん振った。


「一緒に来て!!」


「わかった」


「エレナも! リョウも!」


「私は少し距離を置いた方がいいかもしれませんが」

エレナが言った。


「エルフが猫族の里に入るのは、歓迎されないこともありますから」


「エレナが来ちゃダメなの?! ミーナ、エレナも来てほしいのに!」


「里の長に確認してから判断しましょう

」エレナは静かに言った。


「私がいることで揉め事になっては困りますから」


「……わかった」


食事の後、四人はそれぞれの部屋に戻った。


カケルは部屋の窓を開けた。夜風が入ってきて、温泉の湯気の名残がかすかに感じられた。


修理された仕切り板が、向こうの浴場でしっかりと立っているらしかった。


「……今夜はもう入れないな」


カケルがそうつぶやいて、窓を閉めた。


そのとき、部屋のドアがそっとノックされた。


「カケル」


エレナの声だった。


「なに?」


「一つだけ確認があります」


「どうぞ」


「今日の件で、不快に感じましたか」


カケルは少し考えた。


「不快、というより……驚いた。でも誰も傷ついてないし、終わったことだ」


「そうですか」


「エレナは?」


エレナが少し間を置いた。


「私は……長く生きているので、こういった状況には動じません」


「動じない、ね」


「ただ」

エレナが続けた。


「カケルが背中を向けていたことは、評価しています」


「それ、評価するものかな」


「紳士的な行動です」


カケルはなんとも言えない気持ちになった。


「お休みなさい、カケル」


「……お休み、エレナ」


足音が廊下を遠ざかっていった。


カケルは布団の上に仰向けになった。


今日は色々ありすぎた。


頭の中で一日の出来事が走馬灯のように流れて、カケルは目を閉じた。


それからほどなく、意識が落ちた。



翌朝。


朝食のあと、宿を発つ直前のことだった。


エレナが、珍しく険しい顔をして食堂に戻ってきた。


「どうした?」

カケルが気づいて声をかけた。


「温泉の源泉のところに、少し気になるものがありました」


「気になるもの?」


「マナ石の反応が、通常より強い」

エレナは静かに言った。


「この温泉、源泉の近くに大型のマナ石が埋まっています」


カケルは目を細めた。


「それは……採掘可能か?」


「露出しているわけではないので、掘り出すには相応の作業が必要です。ただ」

エレナはカケルを見た。


「旅の中でマナ石を探していると言っていましたね。ここで採掘を依頼すれば、宿のおばさんも興味を持つかもしれません。この宿にとってもメリットがある話だと思います」


「おばさんに話してみよう」


宿主のおばさんに事情を説明すると、おばさんは目を丸くした。


「源泉の下にそんなものが埋まっているとは知りませんでした……!」


「採掘の許可をもらえれば、俺たちで取り出す道具を作れます。取り出したマナ石は半分ずつ分けてはどうでしょう。そちらは温泉の動力に使えるし、俺たちは旅の電力源に使える」


「それは……願ってもないお話ですが、できるんですか?」


「できます。半日あれば」


そしてカケルは、半日かけてマナ石採掘装置を作った。


材料はリュックの中のジャンク部品。電動ドリルの代わりとなる振動発生器を組み、マナ石変換アダプターで動かす。簡易的なものだったが、源泉近くの岩盤に当てると、振動でひびが入り、マナ石を取り出せる隙間を作ることができた。


ミーナが「ミーナも掘る!!」と元気よく手伝い、エレナが魔力で岩盤の弱い部分を特定し、リョウが採掘した石を分類した。


四人がかりで二時間。


大型のマナ石を三個取り出すことができた。


「すごい……!」宿主のおばさんが目を輝かせた。「こんな立派なマナ石が、うちの宿の下に!」


「一個はそちらで使ってください。温泉の湯沸かしに使えれば、薪の消費が減るはずです。残りの二個を俺たちに」


「もちろん! むしろ昨日の仕切りの修理代も返しますよ!」


「いいんですか!……では…ありがたく……」


かくして仕切り破壊の損失が回収され、さらに大型マナ石二個という大きな収穫を得て、四人は温泉宿を後にした。


街道に出たところで、ミーナが満足そうに言った。


「来てよかった!」


「仕切りを壊さなければもっとよかった」

とカケルが言った。


「それは……うん」


「でも」カケルは少し笑った。


「マナ石が手に入ったのはミーナのおかげでもある。おばさんが特別に源泉の近くを案内してくれたのは、昨日ミーナが弁償してくれたことへの気遣いがあったからだと思う」


「えっ、そうなの?!」


「たぶんな。間接的に役に立った」


「やったー!!」


「ただし仕切りを壊したのは駄目だったことに変わりはない」


「……うん」


エレナが静かに言った。


「怪我の功名とも言います」


「フォローが優しい」とリョウ。


「長く生きると、失敗も糧になることを知ります」


「俺たちに言い聞かせてるのか、ミーナに言い聞かせてるのか」

とカケルが言った。


「両方です」


四人は笑いながら、東への道を歩き始めた。


ミーナの故郷・猫族の里まで、あと二日。


旅は続く。


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