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旅立ちとジャンク発明 ~在庫整理が終わらないまま旅に出ることになった~


翌朝、秋葉原最終処分場は戦場と化した。


戦争ではない。正確には「在庫整理」という名の混沌が、店の一階から三階まで余すことなく広がっていた。


「これ使える?」


「使えない、捨てて」


「これは?」


「……それは多分コンデンサだけど経年劣化が心配。箱に入れといて後で確認する」


「これは?!」


「触るな。」


「えっ」


「ミーナ、それはレアなFDDコントローラーだ。絶対に触るな。近づくな。存在を忘れろ」


「そんなひどい……」


カケルはまたしても溜息をついた。


在庫整理が始まってから三時間が経過した。店の在庫量は把握していたつもりだったが、いざ全部引っ張り出してみると、その膨大さに改めて目を白黒させる羽目になった。


秋葉原最終処分場は、言うなれば「異世界に漂着した現代日本の残骸置き場」だ。


初代店主が転生するときに「なぜか一緒に来てしまった」荷物が起源で、以来数十年にわたって異世界各地から流れてきた現代日本の遺物を買い取り、修理し、売りさばくことで細々と営業を続けてきた。品揃えは雑多だ。CPU。グラフィックボード。HDD。キーボード。マウス。電源ユニット。半端なケーブル類。型番不明の基板。謎の機械。これまた謎の機械。さらに謎の機械。そしてジャンク品。


その総量を今朝初めてまともに把握した結果、カケルの脳内では「これ全部旅に持っていけるわけがない」という現実的な結論が着地していた。


「選別基準を決めよう」


カケルはワークテーブルの上に走り書きのメモを広げた。


「持っていくのは①軽量で②電力消費が低いか独立稼働可能で③改造の余地がある、この三条件を満たすもの。あとは重要パーツだけ抜いて本体は置いていく」


「合理的ですね」エレナが頷いた。

「ただ、電力の問題はどう解決しますか。この世界には電源インフラがありません」


「そこはマナ石を電源として活用する。俺が変換コネクタを作った」


カケルはポケットからコロンとした石製の部品を取り出した。


見た目は不思議な石細工だ。しかしその内部には、カケルが半月かけて作り上げた精密な変換回路が埋め込まれている。マナ石――この世界の魔力を内包した石――から安定した電流を取り出し、現代日本の電子機器に流せるよう変換するための装置だ。


「すごい!」

ミーナが目を輝かせた。


「カケルってやっぱり天才だよ!」


「過大評価しないでくれ。動作試験も何度かやり直したし、マナ石の個体差によっては安定しないこともある」


「試験中に爆発しませんでしたか」とエレナが聞いた。


「三回した」


「……ご無事で何よりです」


「やめてください。今それを振り返ると動悸が」


カケルはごほんと咳払いをして話を戻した。


「マナ石変換アダプターは五個作った。これで電子機器を五台、独立稼働させられる。旅に持っていく機材はその五台に絞る」


「何を選びますか」とエレナ。


「まず通信用にトランシーバーが一対。改造済みで、マナ石で動く。これで離れた場所でも連絡が取れる」


カケルが箱から取り出したのは、古びた業務用トランシーバーだ。元はボタンがほとんど機能していなかったが、カケルが修理した結果、送受信は問題なく動作するようになっていた。


「次に、センサー類」


カケルはさらに箱を漁り、手のひらサイズの黒い機器を取り出した。


「これはモーションセンサーとカメラを組み合わせたもの。夜間の見張りと偵察に使える。電池式だったのをマナ石アダプターに換装した」


「カメラというのは……映し出す魔道具のようなもの?」

とリョウが確認した。


「そう。光を記録する装置。ただしこの世界では映像を表示する手段がないから、センサーのアラートだけを使う。不審な動きを検知したらブザーが鳴る仕組みにした」


「実用的ですね」とエレナ。


「あとは……スタンガン」


カケルが三つ目に取り出したのは、物々しい形状の装置だった。ミーナが目を丸くする。


「なにそれ怖い」


「電気ショックを与える護身用具。ただ現代仕様では出力が低すぎてこの世界の魔獣には通じないかもしれないから、マナ石で増幅するよう改造した。うまくいけば人間なら一撃で行動不能にできる」


「エレナの魔法の方が強くないですか」

とエレナが他人事のように言った。


「そうかもしれないけど、エレナがいない状況も想定しないといけない。あと――」

カケルは少し表情を引き締めた。


「魔法は使い手を消耗させる。機械なら使い手が疲れない。そこに意味がある」


エレナが静かに頷いた。


「その視点は、長く生きてきた私でも抜けていました。人の術者は消耗しますが、道具は消耗しない。なるほど」


「問題は電池容量……じゃなくてマナ石の残量だけど、その辺は道中で補充できるはず。マナ石はこの世界のそこらへんにある」


「大きな個体は山岳部に多く、小さな個体なら街道沿いの地表にも転がっています」

とエレナが補足した。


「ただし品質には差があります」


「そこはエレナが選別してくれると助かる。俺には魔力の質まではわからない」


「任せてください」


それを聞いていたリョウが、メモを取りながら口を挟んだ。


「旅のルートの話もしよう。今俺が考えてるのは、まず北――マナ石の主要産地・ドワーフ峠を経由して状況を確認する。そのあと東の交易路、エレナの故郷のエルフの森方面に進む」


「魔王軍が鉱山を押さえてるなら、ドワーフ峠はすでに危ない状況かもしれないね」


「だから様子を見に行く。もし本当に封鎖されているなら、それを確認しただけでも情報として価値がある」


「わかった。ルートはそれで行こう」


ミーナがぴょんと手を挙げた。


「あのあの! ミーナはどうすればいい?」


「ミーナには……」

カケルは少し考えた。


「前衛をお願いしたい」


「ぜんえい?」


「敵と直接ぶつかる役割。ミーナの身体能力はこのメンバーで一番高い。猫族の瞬発力と反射神経は、剣士にも引けを取らないはずだから」


ミーナが耳をぴんと立てた。


「戦っていいの?!」


「敵が出たらね」


「やったー!!ミーナ、絶対やっつける!!」


「ただし」

カケルはミーナの猫耳をぐいと引っ張った。


「俺の指示に従って。勝手に突っ込まない。これだけは絶対に守ること」


「いたた……うん、わかった!」


「本当に?」


「本当に! でも敵が来たら?」


「俺が「行け」って言ったら行っていい」


「わかった!!」


ミーナは尻尾をぶんぶん振って元気よく頷いた。カケルは密かに「本当に大丈夫かな」と心配したが、口には出さなかった。



出発は翌々日の朝と決まった。


その間の一日半で、カケルは残りの旅支度を終える必要があった。荷物の選定。食料の確保。機材の最終調整。そして、一番重要な仕事。


新しい発明品の製作だ。


「リョウ、あれどこにしまってある?」


「あれって?」


「以前、行商人から買い取ったやつ。タブレット型の薄い板。ガラスみたいな素材で」


「ああ、あれか。三階の奥の棚の……えーと、ダンボールに「MISC-F」って書いたやつの中」


カケルは店の階段を駆け上がった。


三階は「未分類在庫」の聖域だった。分類がされていないジャンク品が雑然と積み上がっており、棚と棚の間を歩くだけで肩が引っかかるほどの密度だ。


ダンボール箱を几帳面にめくっていき、「MISC-F」を発見する。中を探ると、出てきた。


思ったより薄い板。


大きさはA5判ほど。表面はガラスか、もしくはガラスに極めて近い素材でできており、完全にフラット。電源ボタンらしきものがない。見る角度によって微かに虹色の光沢を放っている。


カケルはこれを最初に見たとき、直感的に「これはディスプレイだ」と思った。


液晶か電子ペーパーか有機ELかはわからない。しかし、電子的な表示を行うための「何か」だ。配線端子らしき箇所があり、そこに対応した信号を送れば映像が出るかもしれない。


問題は「対応した信号」がわからないことだ。


しかし――カケルには一つのアイデアがあった。



作業台の前に座り、十二時間。


カケルはひたすらに手を動かした。


エレナが途中で差し入れを持ってきた。ミーナが「なにやってるの?」と覗き込んで、「触るな」と一言で退場させた。リョウが一度様子を見に来て、進捗を確認して何も言わずに戻った。


そして夜半。


「……動いた」


かすれた声が、静かな作業スペースに落ちた。


薄い板の表面に、淡い光が灯った。


最初は単色の白。次第に色がつき、ぼんやりとした映像が浮かぶ。カケルが手作りした信号発生回路からの入力を受け取り、謎の薄板が映像を表示し始めた。


表示されているのは、カケルが用意した「地図素材」だった。


羊皮紙に書かれた手書きの地図を、カメラで撮影して信号に変換して送り込んだ。粗い映像だったが、確かに地図の輪郭が板の上に浮かんでいた。


「使える」


カケルは確信した。


これは「ナビゲーション補助装置」になる。地図を表示しながら移動することで、道に迷うリスクを減らせる。さらに、センサーからのデータを組み合わせれば、リアルタイムで周囲の状況を把握する「レーダー」のようなものにもなりうる。


作業の手が止まらなかった。


追加改造を施していく中で、カケルは一つのことに気がついた。


この板が発するかすかな電磁波の波形が、マナ石のエネルギー波形と微妙に干渉している。


「……これは」


カケルは眉をひそめた。


干渉しているだけなら問題ない。しかし、もしこの板がマナ波に「反応」するとしたら?


それは魔法との相互作用を意味する。


カケルは素早く試験を行った。マナ石をディスプレイに近づけ、波形の変化を確認する。


わずか三分後、カケルはひとつの結論に達した。


「エレナを呼んでこなきゃ」



翌朝早く、エレナは作業台の前に座り、カケルの説明を聞いていた。


「つまり」

とエレナは言った。


「このディスプレイは魔力の波形を検知できる、ということですか」


「正確には、マナ波の強弱に反応して表示が変わることがわかった。エレナに魔法を使ってみてもらいながら試したい」


「面白い実験ですね」

エレナは静かに目を細めた。


「やってみましょう」


エレナが指先に魔力を集中させる。


その瞬間、ディスプレイの表示が変化した。地図の上に淡い波紋が浮かびあがり、魔力の中心点――エレナの指の方向に向かって、同心円が広がっていく。


「これは……」


「魔力の場所を視覚化できる。位置情報と組み合わせれば、戦闘中に敵の魔法使いの位置を把握することも、理論的には可能だと思う」


エレナはしばらく黙ってディスプレイを見つめていた。


「カケル」


「うん」


「あなたは恐ろしいですね」


「えっ」


「褒め言葉です」


エレナが珍しく、きっぱりとした口調で言った。


「この世界の人間は、魔力を感知するために生まれつきの才能か、長年の修行が必要です。あなたはそれを、道具で代替しようとしている。道具で才能を補う発想は、長命のエルフでも持ちませんでした」


「俺は特別なことをしてるわけじゃない。現代日本では、機械は人間の能力を補うために作られてきた。見えないものを見えるようにする。聞こえないものを聞こえるようにする。届かないところに届くようにする。それだけだよ」


「それだけ、とは思いません」

エレナは静かに首を振った。


「その積み重ねが、どれほどの力になるか。私は長く生きて、その変化を目撃してきました」


カケルは少し黙って、エレナの言葉を受け取った。


「……一個、お願いがあるんだけど」


「何ですか」


「このディスプレイ、もっと詳細な反応をさせるために、エレナに少し魔力を流し込んでほしい。機械と魔力を接合させることで、感度が上がるかもしれない」


エレナは少し考えた。


「機械に魔力を流すのは、慎重にやらないと機械を傷めます。量の調整が必要です」


「わかってる。少量から始めて、俺が波形を確認しながら調整する。うまくいけば、これが旅の最大の武器になると思う」


「……やってみましょう」


エレナが静かに指をディスプレイの縁に触れた。


ごく微量の魔力が、流れ込んでいく。


ディスプレイが一瞬強く輝き――そして安定した。


表示が鮮明になった。波形の解像度が上がった。魔力源の検知範囲が、目に見えて広がった。


「成功だ」


カケルはガッツポーズした。


エレナは微かに口元を緩めた。


「これを旅に持っていくのですね」


「このディスプレイと、センサーと、トランシーバーと、改造スタンガン。これが俺たちの武器になる」


エレナはディスプレイをもう一度見つめた。


「名前をつけましょう、カケル」


「名前?」


「道具には名前があった方がいい。長く生きると、そう感じるようになります」


カケルは少し考えた。


「マナ・レーダー」


「そのまますぎませんか」


「……じゃあ、魔視鏡まみかがみ


「それは良いですね」


こうして、秋葉原最終処分場の新兵器・魔視鏡が誕生した。



出発の朝は、晴れていた。


城下町ランデールに柔らかな朝日が差し込む中、秋葉原最終処分場の前には四人が揃っていた。


カケルは背中に大型のリュックを背負っている。中身はジャンク部品、改造工具、マナ石変換アダプター、そして魔視鏡。腰には改造スタンガンとトランシーバー。見た目は「電気屋のバイト君が山登りに行く格好」だが、中身はこの世界でも有数の技術を結集した装備だ。


エレナは薄手のローブを纏い、腰に魔法触媒の杖を差している。後ろで束ねた銀髪が朝風に揺れた。見慣れたはずの姿なのに、旅立ちの朝に見るとどこか違って見えた。カケルはその感覚を意識から追い出した。


ミーナは小型のナップサックを背負い、腰のポーチには工具……ではなく食料が入っていた。カケルが「工具は俺が持つから食べ物を持て」と事前に言い含めておいたためだ。耳はぴんと立ち、しっぽはぶんぶんと揺れている。明らかに旅そのものに興奮していた。


リョウは地図と帳面を持ち、細身の剣を腰に佩いていた。転生者の血を引く彼は魔法は使えないが、情報収集と判断力においてはこの四人で随一だ。店主として培った交渉術と人脈も、旅の中で力を発揮するはずだった。


「じゃあ、行くか」


リョウが短く言った。


「店の留守番は?」とカケルが確認した。


「街の知り合いに頼んだ。商品は売るな、在庫は触るな、以上の指示で」


「触るなというのが重要ですね」

エレナが言った。


「ミーナに何度教えても無駄だった教訓を生かしたよ」


「それ聞こえてるよ!」


「聞こえていいように言った」


和やかな笑いの中、四人は城下町の石畳を歩き始めた。


見送る通行人の中に、顔見知りの露天商のおじさんがいた。彼はカケルたちの姿を見て、片手を挙げた。


「おや、どこかに行くのかい」


「ちょっと北の方まで」


「気をつけて行きな。最近、街道で変なのが出るって話だから」


「変なの?」


「詳しくは知らないが……武装した集団が通行を妨害してるとか何とか。行商人が何人か足止め食らったらしい」


カケルとリョウは目を合わせた。


「魔王軍の偵察かもな」

とリョウが小声で言った。


「かもしれない。さっそく本番か」


「もし危なそうなら引き返す。情報収集が目的だから」


「わかった」


カケルはおじさんに礼を言い、四人で城下町の外門へと向かった。


石畳が砂利道に変わり、砂利道が草道になる。


城下町ランデールの外には、なだらかな丘陵地帯が広がっていた。遠くに山脈が見え、その頂上付近は薄く雪で白んでいる。マナ石の主要産地・ドワーフ峠はあの山脈の向こうだ。


「遠いな……」


カケルは思わずつぶやいた。


「馬車で三日かかります」

とエレナが答えた。


「徒歩なら五日ほど」


「馬車使わないの?」


「街道の状況が不明な以上、馬車は目立ちすぎます。徒歩の方が状況に応じて行動できる」


「なるほど、確かに」


「ちなみに」

エレナが付け加えた。


「ミーナは長距離の歩行が得意ですか」


「得意!」

ミーナが元気よく答えた。


「猫族は走り続けられるよ!」


「徒歩と走行は違います。五日間で約百五十キロを歩くことになります」


「……百五十?」


「問題ありますか」


「……問題ない! 多分!」


「頑張ってください」


エレナの言葉は優しかったが、表情に「心配していない」という余裕が滲んでいた。


カケルは先頭のリョウの背中を見ながら、歩調を整えた。


旅が始まった。


本当に始まった。


ジャンクショップの面々が、世界を救うために歩き出した瞬間だった。



出発から三時間後。


街道を順調に進んでいた四人の足が、突然止まった。


正確には――止めざるを得なかった。


「前方、ブロックされてます」


エレナが静かに告げた。


草道の先、小さな橋のたもとに人影があった。数は七、八人。全員が武装しており、革鎧と剣を身につけている。橋の前に横一列に並び、完全に通行を塞いでいた。


「盗賊か」

とリョウが低く言った。


「旗印がない。正規軍ではないですね」

とエレナ。


「でも武装はしっかりしてる。普通の追い剥ぎよりは組織的だ」

カケルは目を細めた。


「魔王軍の手下……かもしれない」


「どうする?」

ミーナが緊張した声で聞いた。尻尾が細くなっている。


「様子を見る。まずは交渉から」


リョウが先頭に立ち、四人はゆっくりと橋の方へと歩み寄った。


盗賊たちがすぐに反応する。


「止まれ!」


一番前に立った男が怒鳴った。首領格らしい。顎に無精髭を生やし、左目に眼帯をしている。背丈はリョウより頭一つ高く、肩幅も二倍近い。


「この橋を使いたければ通行料を払え。一人頭銀貨五枚」


「それは少し高いですね」

とリョウが穏やかに返した。


「銀貨一枚では?」


「舐めるな。値引きはない」


「最近急に値上がりしましたね、この街道の通行料。先週はタダだったと聞きましたが」


男の目が細くなった。


「誰から聞いた」


「行商人さんから。彼はここを毎週通っているそうで」


「……」


男がじっとリョウを見た。


「ここを通れる通行料を払えと言っている。払えないなら引き返せ。それだけだ」


「わかりました。ただ」

リョウが少し笑った。


「払うかどうか、少し考えさせてください」


「考えるだと?」


「そうです。ここで引き返すか、払って通るか、第三の選択肢を取るか。三秒ください」


男が眉をひそめた。


その三秒の間に、カケルはリョウの横に並んだ。小声で言う。


「エレナ、魔法の準備は?」


「いつでも」

とエレナが小声で答えた。


「ミーナは?」


「いつでもいく!」

ミーナが低くうなった。耳が伏せっている。臨戦態勢の猫の顔だ。


「俺は機材で対応する。スタンガンは最後の手段」


三秒が過ぎた。


「どうした。考えは決まったか?」

と男が言った。


「決まりました」


リョウが笑顔のまま言った。


「払いません」


一瞬の沈黙。


「……」


「……そうか。じゃあ」


男が剣に手をかけた。


「やれ!」


カケルはポーチから素早く改造スタンガンを抜き、前方へと投げた。


それは武器として投げたのではない。起動スイッチを入れながら放り投げ、地面に落ちた瞬間に電撃が放電するよう設定してあった。


スタンガンが地面に激突する。


青白い電撃が、地面を這うように広がった。


橋の前に立っていた盗賊たちが足を止める。電流は少量で人体に直接は届かなかったが、その光と轟音は十分な効果を発揮した。


「なんだ!? 魔法か!?」


「違う、違う魔法だ! 光ってる!!」


一瞬の混乱。


「ミーナ!」


カケルの声と同時に、ミーナが疾走した。


猫族の瞬発力は人間の域を超えている。ミーナが動いた瞬間、彼女はすでに橋の手前まで達していた。混乱している盗賊の側面に回り込み、拳でわき腹を叩く。


「ひっ」


盗賊の一人が吹き飛んだ。


「つよ!!」

別の一人が後退する。


「エレナ!」


「はい」


エレナが杖を軽く振った。


盗賊の足元に氷結魔法がかかり、数人がスリップして転倒する。エレナの魔法は規模が大きいわけではない。しかし、精密で確実だ。転ばせる範囲、転ばせる方向、回復するまでの時間。そのすべてが計算された、非常に「合理的な魔法」だった。


数秒で戦況は決した。


首領格の男一人を残し、六人の盗賊が地面に転がっている。ミーナが打ち倒したのが三人、氷結で転倒したのが三人。誰も重傷ではないが、戦意は完全に折れた。


「あ、あんたら……なにもの……」


首領が後退しながら言った。


「通りすがりのジャンクショップ店員と仲間たちです」

とリョウが穏やかに言った。


「銀貨は払いませんが、通してもらえますか」


「……好きにしろ」


男は剣を鞘に収め、道を開けた。


カケルは地面に転がった改造スタンガンを拾い上げ、ポーチに戻した。


「思ったより効いた」


「音と光は心理的に効きますよ」

とエレナが言った。


「人は見慣れないものに対して恐怖を感じやすい。あなたの道具は、この世界の人間には「見慣れないもの」ですから」


「利点をうまく使えたな」


「カケルのさくせん大成功!」ミーナが跳ねるようにして戻ってきた。「ミーナも強かった?!」


「強かった」カケルは素直に言った。「びっくりした」


「えへへ」


ミーナのしっぽが嬉しそうに揺れた。


「ただ」

カケルは付け加えた。


「次は相手が組織立って対応してくる可能性がある。今回は奇襲的な要素があったから成功した。同じ手は二回通用しないと思って」


「わかった! 次はもっと頑張る!」


「頑張る前に俺の指示を待って」


「うん!」


四人は橋を渡り、先へと進んだ。


リョウが後ろを振り返ることなく言った。


「あいつら、確認しておいたが首領の左腕に刺青があった。魔王軍の紋章だ」

リョウはわずかに表情を変えた。


「旅に出る前に伝えた偵察の話……あの連中かもしれない。テーン・バイ・ヤーが送り込んだ先遣隊だ」


「やっぱり」

とカケルは言った。


「本番はこれからだな」


「そうなるな」


草道の向こうに、ドワーフ峠へと続く山脈のシルエットが見えてきた。


夕暮れが近い。


今夜は野宿になる。


「カケル、夜ご飯何食べる?」ミーナが無邪気に聞いた。


「ミーナが持ってきた食料を食べる」


「全部食べていいの?!」


「全部一度に食べたら明日の分がなくなる」


「一食分だけ食べる!」


「それが正解」


先ほどまでの緊張が、ミーナの一言で霧散した。


エレナが小さく笑い、リョウが苦笑した。



一行は夕暮れの草道を、北へと歩き続けた。



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