表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

16/25

世界を巻き込む最終決戦 ~百二十人が集まった。「誰も死ぬな」とリョウは言った~


装置停止から二週間後、世界が動き始めた。


テーン商会の装置が沈黙したという情報は、予想以上の速さで大陸全土に広まった。


リョウが整備した情報ネットワークが機能した結果だった。ベルナの商人組合、南の農業組合、ドワーフの採掘拠点、そしてエルフの森の長老会議。バラバラに動いていた抵抗勢力が、初めて一本の通信線で繋がった。


「各地から返信が来ている」

リョウが通信装置の前で言った。「


「動く準備がある」という声が、五か所から上がっている」


「五か所が同時に動けば、テーン商会は一箇所に集中できない」

カケルが言った。


「分散させる作戦だ」


「ただし、それを束ねる誰かが必要だ」


「それが俺たちの役割になる」


テーン・バイ・ヤーは、装置の停止を受けて大陸全土に「テーン商会に反した勢力への即時制裁」を宣言した。


それは事実上の「宣戦布告」だった。


商業的な包囲から、軍事的な圧力へ。手口が変わったのは、計画の遅れに対する焦りの証拠でもあった。


「向こうが直接動いてきた」

カケルは言った。


「それはある意味、こちらにとってはわかりやすくなった。経済戦争は見えにくいが、軍事的な動きは見える」


「見えるということは、備えられる」

エレナが言った。


「その通りだ」



ドワーフの拠点を発ったのは、装置停止から二週間後の朝だった。


今度は四人だけではなかった。


ゴルダムが率いるドワーフの戦闘チーム、二十人。


改良された通信装置を持ち、ヨアケを引き連れた一行は、大陸の中央部に向かって進んだ。そこに「連合の集結地点」が設けられることになっていた。


リョウが各地と交渉して決めた場所は、大陸の中央にある「三叉平野」だった。東西南北への移動が容易で、どの拠点からも同じくらいの距離にある。


「ここを拠点に、同時多発的に動く」

リョウが説明した。


「テーン商会の主力を魔王城から引き離しながら、俺たちが城へと向かう。囮と本命の二重構造だ」


「囮になる人たちは安全か」

カケルが聞いた。


「完全には保証できない。でも、行くという意志を持った人たちだ。こちらが「危ないから囮はやめろ」と言えば、聞かない」


「それはわかってる。確認しただけだ」


「了解した」


三叉平野まで、四日の道のりだった。


道中、通信装置に各地からの状況報告が届き続けた。


ベルナの商人組合は港を制圧してテーン商会の物資補給路を遮断した。南の農業組合は三つの関所からテーン商会の検問員を排除した。エルフの長老会議は魔法的な防壁を張り、テーン商会の偵察を遮断した。


それぞれが、それぞれの力で動いていた。


「俺一人では絶対に無理だった」

カケルはその報告を聞きながら言った。


「そうです」

エレナが静かに言った。


「一人でできることには限界がある。でも、繋がることで限界が変わる」


「それがこの旅で一番学んだことかもしれない」


「そうですね」

エレナは少し間を置いてから続けた。


「私も学びました」


「エレナが?」


「一人で長く生きていると、自分だけで抱えようとする習慣がつく。仲間に頼ることを忘れる。この旅で、それを思い出した気がします」


「エレナでも、そうなることがあるのか」


「あります。何百年かごとに」

エレナは静かに言った。


「あなたたちは……そのたびに気づかせてくれる人たちかもしれません」


カケルはその言葉を、静かに受け取った。



三叉平野に着いたのは、四日目の昼だった。


この三週間、リョウは歩きながら通信装置を使い続けていた。ドワーフ峠の装置停止という「勝利の報告」を各地に送り、同時に「魔王城への進軍に同行できる者を三叉平野に集めてほしい」という呼びかけを発信した。応じるかどうかは各自の意志に任せた。強制もしなかった。ただ送り続けた。


すでに先に到着していた人々がいた。


ベルナの商人組合から来た「港の自警団」が三十人。南の農業組合から来た「村落連合の民兵」が四十五人。北から合流したドワーフの別働隊が十五人。そして驚いたことに、東の小国の正規騎士団が二十人、旗を掲げて到着していた。


「騎士団まで来た」

リョウが驚いた顔をした。


「テーン商会への不満は、国の単位にも達していたんだろう」

カケルが言った。


合わせて百二十人を超える連合軍が、三叉平野に集まっていた。


その中心に立ったのは、リョウだった。


リョウが全員に向かって話した内容は、シンプルだった。


「目的は一つです。テーン商会の支配を終わらせる。そのために魔王城に向かう。囮として動いてくれる部隊と、城を目指す本命部隊に分かれます。誰がどちらを選ぶかは、各自の判断に任せます。ただ、どちらを選んでも、同じだけ感謝します」


静寂。


それから、半分が手を挙げた。囮を志願した人たちだ。


「ありがとうございます」

リョウが言った。


カケルはその光景を、少し離れたところから見ていた。


百人以上が、自分の意志でここに来ている。誰かに強制されたわけではない。恐怖から逃げるためでもない。


「ミーナ」カケルが横を見た。


「うん」


「お前は、どっちに行きたい?」


「城!!」

ミーナはすぐに答えた。


「カケルと一緒に行く!!」


「そうか」


「ミーナは、最後までカケルのそばにいる。それだけ」


シンプルな言葉だった。


カケルには、その言葉が何より心強かった。



翌朝、連合軍が二手に分かれて動き始めた。


囮部隊は西の魔王城の手前で陽動を起こす。魔王軍の主力を引き付け、城の守りを薄くする。


本命部隊は四人プラスゴルダムのドワーフ隊十人。最小限の人数で、囮が作った隙に城へと向かう。


「出発します」

リョウが短く言った。


魔王城は、三叉平野から三日の距離にあった。


進む道中、一度だけ魔王軍の斥候と遭遇した。


五人の斥候がヨアケを見て固まった。


「な……なんだ、あの機械は……」


カケルが操縦席の中で確認した。逃げる様子はある。戦闘になる前に片付けたい。


「ミーナ、警告射撃を」


「警告射撃? 何もない!」


「ヨアケの拳で地面を叩く。音と衝撃で驚かせて逃がす」


「なるほど!!やる!!」


ヨアケの右拳が地面に叩きつけられた。地響きと砂煙が上がった。


斥候五人が全力で逃げ出した。


「逃げた!!作戦成功!!」ミーナが嬉しそうに言った。


「完璧だ」

カケルが言った。


「戦わないという選択が、時に最も賢い」

エレナが静かに言った。


「長命の知恵だ」

カケルが言った。


「経験です」

エレナが言った。


リョウが苦笑した。


道はまだ続いていた。



二日目の夜、一行は野営地に炎を囲んで座った。


明日、魔王城に着く。


その前夜の静けさは、不思議と穏やかだった。


「緊張してる?」

ミーナがカケルに聞いた。


「している」


「ミーナも!!でも……なんか楽しい気もする」


「楽しい?」


「大事なことをやってるって感じがするから」

ミーナは真剣な顔で言った。


「怖いけど、やりがいがある。そういう感覚」


「それはわかる」


「カケルもそう感じてる?」


「感じてる」

カケルは正直に答えた。


「怖い。でも、ここにいることが正しいとも思ってる」


「うん!!じゃあ大丈夫!!」


「そのシンプルさが羨ましい」


「シンプルがいいんだよ!!むずかしく考えても損なだけ!!」


エレナが静かに言った。


「ミーナはいつも、正しいことを簡単に言いますね」


「そうかな?」


「そうです。長く生きた私でも、「怖いけど、やりがいがある」というのは非常に的確な言葉だと思います」


「えへへ!!ミーナ、褒められた!!」


リョウが遠くを見ながら言った。


「俺は祖父のことを考えていた」


「霧島武さんのこと?」

カケルが聞いた。


「ああ。祖父がこの世界に来て、ジャンクショップを開いて、タロンさんたちと友達になって。そして設計図を残した。あの人がいなければ、今俺たちはここにいない」


「そうだな」


「だから……明日、うまくいったら、霧島武に報告したいと思っている」


「どうやって?」


「方法はないけど……言葉にしたかっただけだ」

リョウは少し笑った。


「馬鹿みたいだろ」


「馬鹿じゃない」

カケルははっきり言った。


「俺もそう思ってるから」


「そうか」


「あの人の設計図の続きを完成させたのは、俺たちだ。だからこの結果は、あの人の結果でもある」


リョウが静かに頷いた。


「ありがとう、カケル」


焚き火が揺れた。


「寝ましょう」

エレナが言った。


「明日の朝には城が見えます。体を整えておくことが最優先です」


「そうだな」


「うん!!」


「了解だ」


全員が横になった。


カケルは目を閉じる前に、空を見た。


星が多い夜だった。


秋葉原の路上で刺されて死んだ夜から、ずいぶんと遠くまで来た、とカケルは思った。


目を閉じた。


夜明けが、来る。



三日目の朝。


魔王城が、地平線の向こうに現れた。


空は晴れていた。しかし城の上空だけ、黒雲が集まっていた。自然現象ではない。城から放出されるマナが、大気に干渉しているのだ。


「見えた!!」

ミーナが操縦席から声を上げた。


「ミーナが先に見た!!」


「見えてる」

カケルが言った。



「でかい!!」ミーナがしばらく見た後に言った。


「でかいな」

カケルも認めた。


「テーン・バイ・ヤーって……あの城の一番上にいるの?」


「たぶん玉座の間は上の方だろうな」


「すごい遠そう」


「城に入れば距離は縮まる」


「そっか!!じゃあ入れれば大丈夫!!」


「入るのが難しいんだけどな……」


「ミーナがなんとかする!!」


「頼りにしてる」


リョウが通信装置を取り出して、囮部隊の状況を確認した。


「囮部隊が動き始めた」

リョウが言った。


「西の城門から三キロの地点で陽動を開始した。魔王軍の斥候が反応している」


「城の守りが薄くなり始める」

エレナが言った。


「今が動くタイミングだな」

ゴルダムが言った。


「動くか」リョウが言った。

「行きましょう」カケルが反応する。


「行く!!」「参ります」「行くぞ」

みんなの意思が一つになる。


一行は魔王城へと向かって進み始めた。



城の外壁まで近づくと、予想通り守りは手薄になっていた。


囮部隊が西側で大きな動きを見せているため、城の防衛兵力の多くがそちらに向かっていた。


しかし東側の城門には、まだ二十人以上の兵士が残っていた。


「正面突破は難しい」

カケルが魔視鏡で確認しながら言った。


「南の城壁に、崩れかけた部分があります」

エレナが言った。


「マナ波の長期的な影響で、石が劣化しています。そこなら力を加えれば突破できる」


「エレナはいつ気づいた?」


「遠目に城が見えた段階で確認しました」


「さすがだ」


「数百年分の観察眼です」


「そこを使う。ゴルダム、突破の準備は?」


「任せろ」

ゴルダムが採掘道具を改造した武器を構えた。


「岩を崩すのはドワーフの専売特許だ」


「では南の壁まで移動する。エレナが道を確保して、ゴルダムが壁を崩す。俺たちが入ったら、ドワーフ隊は後方を守ってくれ」


「了解だ」


南の城壁まで回り込む間に、一度だけ巡回の兵士と出会った。四人組だったが、ヨアケを見た瞬間に全員が固まった。


「それっ!!」

ミーナが言って、ヨアケの腕が動いた。四人を一掃した。


「ミーナの操縦、本当に上手くなったな」


「練習の成果!!!」


南の城壁に到着した。


確かに、一か所、石の色が他と違う部分があった。劣化して白っぽくなっている。


ゴルダムが工具を当てて、少し確認した。


「三分で開ける」


「頼む」


ドワーフの採掘技術が炸裂した。


音を最小限に、しかし確実に石を砕いていく。二分半で、人が通れる穴が開いた。


「転生者、入れ」

ゴルダムが言った。


「ありがとうございます」


「礼は後でいい。行け」


カケルとミーナがヨアケで城内に入った。エレナとリョウが続いた。


城の中は、薄暗かった。


廊下が続いており、遠くから怒鳴り声や足音が聞こえた。陽動の影響で内部でも混乱が起きているらしい。


「玉座の間はどこだ」

カケルが小声で言った。


「上層部のはずです」

エレナが答えた。


「城の構造から考えると、中央の塔の最上階が最も可能性が高い」


「行こう。急ぎで、でも静かに」


「行く!!」ミーナが小さな声で言った。


城内を進んだ。


廊下の兵士と三度遭遇したが、全員が西側の陽動に対処するため走って行ってしまい、こちらには気づかなかった。


「陽動が機能してる」

リョウが言った。


「囮部隊の人たちのおかげだ」

カケルが言った。


中央の塔の入り口に辿り着いた。


螺旋階段が上に続いている。しかし狭い。ヨアケのサイズでは通れない。


「カケル、ここでヨアケから降りる必要があります」エレナが言った。


「わかってた」

カケルは操縦席から降りた。


「ミーナ、ヨアケを塔の外で待機させておいてくれ。万が一俺たちが逃げるとき必要になるから」


「わかった!!でもミーナも一緒に行く!!」


「来てくれ。ヨアケは外の待機で」


「ゴルダムに頼む」


「了解だ」

ゴルダムが言った。


「ヨアケは俺たちが見ていてやる。転生者、上で何かあれば合図を出せ」


「ありがとうございます」


「礼を……まあいい。行け」


四人が塔の階段を上り始めた。


足音を殺して、一段ずつ。


上に行くほど、空気が重くなった。マナの密度が高い。


「近い」

エレナが小声で言った。


「感じる?」


「強いマナの集積があります。玉座の間で、大量の魔力が溜まっている」


「何のために?」


「わかりません。ただ……テーン・バイ・ヤーが何かを準備している可能性があります」


「急ごう」


最上階の扉が見えた。


重厚な木製の扉で、金属の補強が施されている。鍵がかかっているように見えた。


「開けられるか?」

リョウが確認した。


「やってみます」

エレナが扉に手を当てた。


「魔術的な封印があります。解除できますが……少し時間が」


「どのくらい?」


「三十秒」


「やってくれ」


エレナが封印を解除し始めた。


その間、四人は息を殺して待った。


三十秒が、永遠のように感じられた。


階段の下から足音が聞こえた。巡回の兵士だろう。


「誰か来る!!」

ミーナが耳をそばだてて言った。耳がぴんと立っていた。


「ミーナ、迎え撃つ準備を」

リョウが小声で言った。


「わかった!!」

ミーナが低い姿勢になった。


足音が近づく。カケルは息を止めた。


静寂。


足音が遠ざかった。


「開きました」


エレナの声が、静かに落ちた。


扉が、重い音を立てて開き始めた。


カケルは動けなかった。


扉の向こうに、世界の命運がある。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ