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ヨアケ、出撃 ~五分間で装置を止めろ。ミーナは補助席を守れ~


一週間後。


秘密通路が完成した。


ドワーフ峠の奥、テーン商会の管轄区域のさらに先まで続く、全長二キロ強の通路だ。人一人と、ヨアケが横向きになれば通れるギリギリの幅で、天井も低い。しかし確実に「向こう側」に繋がっていた。


「ここを通れば、装置の設置場所まで地上に出ることなく近づける」

ゴルダムが地図を示しながら言った。


「ただし最後の二百メートルは出口がないため、地表に出る必要がある。その時点で気づかれる可能性はある」


「二百メートルを全力で走る」

カケルが言った。


「ヨアケなら走れる。六秒もかからない」


「六秒でも攻撃が来る」


「エレナが対処してくれる」


「了解しています」エレナが静かに言った。


「では最終確認をしよう」

リョウが地図の前に立った。


「作戦の流れを全員で確認する」


五人が地図を囲んだ。


「第一段階」

リョウが指を動かした。


「秘密通路を通り、装置の設置場所から二百メートル手前の出口まで進む。ここまでは音を出さずに移動する。担当はゴルダムと職人チームが先行して通路の安全を確保、その後四人が続く」


「第二段階」

リョウが続けた。


「地表に出た瞬間から全速前進。ヨアケが先頭を走る。エレナが後方から魔力支援と攻撃魔法で守りを作る。ミーナがセンサーを見ながら障害物と敵の位置を報告。俺は全体を把握して指示を出す」


「第三段階」

リョウが最後に言った。


「装置に到達次第、カケルが制御システムに直接アクセスして停止させる。カケルが作業中の間、残りの全員が守りを固める。停止確認後、即座に撤退する」


「撤退経路は?」

カケルが確認した。


「通路の反対側に迂回ルートを作っておく。ドワーフが担当する」ゴルダムが言った。


「作戦に不明点は?」

リョウが全員を見た。


「一個だけ」

カケルが言った。


「装置が何をするものかまだわかっていない。停止の方法が、触れてみないとわからない部分がある」


「どのくらいの時間が必要になる?」


「最短で三分。最長で……十分か、それ以上かもしれない」


「十分、全員で守れるか」

リョウが全員に聞いた。


「できます」

エレナが静かに言った。


「やる!!」

ミーナもやる気だった。


「やってみる」

ゴルダムが静かにそして力強く答えた。


「わかった」

リョウが頷いた。


「では十分を目安に動く。カケル、それ以上かかりそうなら合図を出してくれ」


「了解」


「出発は明朝、夜明け前だ。今日は全員しっかり休め」


その夜、カケルは珍しくなかなか眠れなかった。


布団の上で天井を見ながら、頭の中で何度も手順を確認する。


装置に接続した後、何が出てくるかはわからない。制御システムの設計が電子的なものなら対処できる。しかし純粋に魔術的なものだったら、自分の知識では止められないかもしれない。


不安がないわけではなかった。


扉が、そっとノックされた。


「カケル」


エレナの声だった。


「起きてる」


扉が開いて、エレナが入ってきた。小さなランタンを持っていた。


「眠れませんか」


「考えすぎかもしれない」


「それは技術者の職業病です」

エレナは静かに言った。


「考える人は、考えが止まらなくて眠れなくなる。長く生きているとわかります」


「エレナも?」


「昔は。今は……ある程度で「考えても変わらないことはある」と割り切れるようになりました」


「俺もそうなれるといいんだけど」


「時間がかかります」

エレナはそう言ってから、「ただ」と続けた。


「一つだけ言ってもいいですか」


「どうぞ」


「明日、あなたが装置に近づくとき……」

エレナは少し間を置いた。


「私の魔力はずっとあなたに届いています。感じられるかどうかはわかりませんが。それだけ覚えていてください」


カケルはその言葉の意味を受け取った。


「……わかった」


「不安があるなら持っていていい」

エレナは続けた。


「不安を消そうとしなくていい。ただ、不安の隣に「大丈夫だ」という感覚も置いておくといい。二つを同時に持てるようになると、少し楽になります」


「それも長命の知恵か」


「経験です」


「ありがとう、エレナ」


「どういたしまして」

エレナが立ち上がった。


「休んでください。明日は全力で動けるよう、体を整えておくことが最優先です」


「そうします」


エレナが出ていった。


不思議と、体が少し楽になった気がした。


不安はあった。でも不安の隣に、確かなものがあった。


カケルは目を閉じた。


今度は、すぐに眠れた。



夜明け前。


全員が集まった。


格納庫の前で、ゴルダムが職人チーム五人を紹介した。全員が採掘道具を改造した武器を持っており、無言で頷いた。


「ヨアケの準備は?」リョウが確認した。


「完璧だよ」カケルが答えた。


「マナ石を満充填。制御システムは昨夜最終確認した。問題なし」


「エレナの魔力は?」


「最大です」

エレナが静かに言った。


「ミーナ、補助席の確認は?」


「全部チェックした!! 色々大丈夫っぽいよ!!!」


「よし」

リョウが全員を見た。


「出発する。通路に入る前に一つだけ言う」


全員が黙った。


「誰も死ぬな」

リョウははっきり言った。


「これは終わりではなく、始まりだ。この先にもやることがある。今日を生きてここに帰ってくることを最優先にしてくれ」


「了解」

カケルが言った。


「もちろん!!」

ミーナが言った。


「はい」

エレナが言った。


「あたりまえだ」

ゴルダムが言った。


通路に入った。


暗い岩の隙間を、ゴルダムの職人が先導する。ヨアケは横向きになって、壁を擦りながら進んだ。カケルは操縦席の中で、機体の傾きを感じながら慎重に動かした。


二キロの通路を、四十分かけて進んだ。


誰も声を出さなかった。


足音も、最小限に。


ドワーフの「静かに進む」技術が、全員を守った。


出口手前で、ゴルダムが手を上げた。全員が止まった。


ゴルダムが出口の岩に耳を当てて、向こうの気配を確認した。


三十秒。


ゴルダムが手で「異常なし」の合図を送った。


「行きます」

カケルが操縦席から小さく言った。


「行こう」リョウが答えた。


出口が開いた。


朝の冷たい空気が流れ込んできた。


空はまだ暗かったが、東の稜線がわずかに白んでいた。


夜明けが、近い。


ヨアケが通路の外に出た。


前方、二百メートルの先に、巨大な構造物が見えた。


テーン商会の装置だ。


石造りの建物を大幅に超える規模の施設で、上部からは薄い光が漏れていた。


「見えた」

カケルがミーナに言った。


「ミーナも見える!!」


「走る。エレナ、頼む」


「準備できています」


「ゴルダム、後ろを」


「任せろ」


「リョウ」


「見えてる。全速で行け」


カケルはレバーを限界まで引いた。


ヨアケが走り出した。


金属の脚が大地を踏みしめ、速度を上げていく。一歩ごとに地面が揺れ、朝の空気を切り裂くような音がした。


施設の入り口から、人影が現れた。警備兵だ。


「侵入者!!」


叫び声とともに、魔法攻撃が飛んできた。


炎の塊が二発、ヨアケに向かって迫った。


「エレナ!」


「捌きます」


後方からエレナの魔法が展開され、二発の炎が軌道を変えて地面に落ちた。


ヨアケは止まらなかった。


百メートル。五十メートル。二十メートル。


施設の扉の前に立ちはだかる三人の兵士に向かって、ヨアケが腕を振った。吹き飛んだ。


「扉!」


ヨアケの手が扉を掴み、引き剥がした。


内部に入ると、薄い青い光が満ちていた。


中心に、巨大な装置があった。


高さは五メートル以上。マナ石が大量に組み込まれた台座の上に、複雑な回路のような刻み文字が刻まれた球体が浮かんでいた。それが静かに回転しながら、大量のマナ波を放射していた。


「これが……」

カケルは操縦席から降りた。


直接歩いて近づかなければいけない。ヨアケの中からでは装置に触れられない。


「カケル、降りるんですか」

エレナが入口から言った。


「降りないと触れない。俺を守ってくれ」


「わかりました」


カケルは操縦席から降りた。


床を走った。


装置に向かって、全力で駆けた。


右から兵士が飛びかかってきた。ヨアケの腕が動いて、吹き飛ばした。ミーナが操縦を代わりにやっていた。


「ミーナ!?」


「ミーナが動かす!!カケルは走って!!」


「任せた!!」


カケルは装置の台座に飛びついた。


手を当てた。


マナ波の放射が、てのひらに伝わってくる。


カケルは目を閉じた。


設計図の記憶を引き出す。エルフの記録から得たゴーレムの魂核の理論。マナ波の干渉パターン。共鳴の制御。


全部が、今この瞬間のためにあった。


カケルはリュックから最後のパーツを取り出した。


改造したマナ石変換アダプターだ。


これを装置の制御回路に割り込ませることで、信号を上書きできる。現代の電子機器で言えば、ウイルスではなく「制御の乗っ取り」だ。装置を壊すのではなく、命令を変える。


アダプターを装置の接合部に差し込んだ。


数秒間、装置の光が乱れた。


カケルは全神経を集中させた。


干渉してくるマナ波を読む。パターンを理解する。上書きコードを流し込む。


一分。


二分。


三分。


「カケル!!早く!!」

ミーナの声が聞こえた。


「もう少し!」


四分。


装置の回転が遅くなった。


五分。


回転が、止まった。


光が、消えた。


沈黙。


「……止まった?」

カケルは静かに言った。


「…やったか?」

リョウが入口から言った。


「止まった。確認してくれ」


エレナが魔力を飛ばして確認した。


「マナ波の放射が止まっています。装置の稼働を確認できません」

エレナが言った。


「停止しました」


沈黙が広がった。


そして、ミーナが叫んだ。


「やったーーーーーーーー!!!!!!」


叫び声が施設の天井を揺らした。


その声が、誰の心にも届いた。


カケルはアダプターを回収して、立ち上がった。


膝が少し震えていた。


「撤退します」


「全員、動けるか」

リョウが確認した。


「動ける!!」

ミーナ。


「問題ありません

」エレナ。


「全員負傷なし」

ゴルダム。


「行くぞ」

リョウ。


四人とゴルダムのチームが、来た通路へと向かった。


東の空が、白くなっていた。


夜明けが来た。


本物の夜明けが。


◇◇


撤退は、想定より速く完了した。


秘密通路を逆に辿り、拠点まで戻ったのは夜明けから一時間後だった。


誰も重傷を負っていなかった。ドワーフの職人の一人が腕を切ったが、浅い傷だ。


拠点の広場に出た瞬間、ゴルダムが残っていた職人全員に向かって短く何かを言った。ドワーフ語だったのでカケルには聞き取れなかったが、全員が拳を胸に当てて応えた。


「何と言ったんですか」

カケルがゴルダムに聞いた。


「「やってのけた」と言った」

ゴルダムは短く答えた。


「ありがとうございます。ゴルダムさんのチームがいなければ無理だった」


「礼は言うな」


「言わせてください」


ゴルダムが少し黙って、それから小さく頷いた。


珍しい反応だった。


ミーナが疲れた顔をしながらも全力でカケルに抱きついてきた。


「やったーーー!!カケル!!やったよ!!」


「お前が最後ヨアケを動かしてくれなかったら詰んでた」


「ミーナ、うまく動かせた!!練習の成果!!」


「本当に助かった」


「えへへ!!」


エレナが静かに近づいてきた。


「おかえりなさい、カケル」


「ただいま」

カケルは言った。


「エレナの魔力、ちゃんと感じてた。あの場で支えてもらった」


エレナが少し目を細めた。


「届いていましたか」


「届いてた」


「……それは良かった」


リョウが全員を見た。


「一度休め。三時間後に報告会をする。今日起きたことを全部整理して、次に何をするかを決める」


「了解」


「はーい!!」


「わかりました」


「老骨には答えたわい」


四人はそれぞれの宿舎に向かった。


カケルは部屋に入り、ヨアケのそばに腰を下ろした。


格納庫の中で、ヨアケはまだ立っていた。


「おつかれさま」

カケルは機体に声をかけた。


返事はなかった。


でもカケルには、聞こえたような気がした。


三時間後、報告会が始まった。


「装置は停止した」

カケルが報告した。


「ただし破壊したわけではない。テーン商会が設計図を持っていれば、再建は可能だ。おそらく一ヶ月から二ヶ月で再稼働を試みてくる」


「ということは、この勝利は時間を稼いだということになる」

リョウが言った。


「そうだ。ただ、その間に各地の状況を変えておく必要がある。ベルナの迂回流通ルート、農業地帯のマナ石不依存化、ドワーフの採掘拠点の整備……それが進めば、再稼働されても以前ほどのダメージにはならない」


「テーン商会の経済的な力を、根本から削ぐ必要があるということか」

エレナが言った。


「そう。装置を止めたことは第一歩だ。でも本当の決着は、まだ先だ」


「テーン商会の本拠地、魔王城に向かうということか」

リョウが確認した。


「最終的にはそうなる」


「わかった」

リョウが頷いた。


「今日の情報を各地の協力者に送る。同時に、次の作戦の準備を始める」


「ゴルダムさん、引き続き協力をお願いできますか」


「言わなくてもする」

ゴルダムが言った。


「もう引き返せないところまで来た。最後まで付き合う」


「ありがとうございます」


「礼は最後に一回だけ言え」


「最後に言います」


「よし」


報告会が終わった。


カケルはもう一度格納庫に行き、ヨアケを確認した。


戦闘での損傷を確認していくと、いくつかの部分に擦り傷と小さな凹みがあった。大きな問題ではないが、修理が必要な箇所がある。


「直さないといけないな」

カケルはつぶやいた。


「手伝います」

ゴルダムの弟子の若い職人が来ていた。


「お願いできますか」


「もちろん。これは私たちも作ったものですから」


カケルは少し驚いた。


「ヨアケを自分のものとして思ってくれてるのか」


「一緒に作ったものは、自分のものでもあります。そうドワーフは考えます」若い職人は言った。「あなたが設計して、私たちが作った。どちらが欠けてもなかった。だから半分ずつ俺たちのものです」


カケルはその言葉を受け取った。


「……ありがとう。修理、よろしくお願いします」


「任せてください」


夕方、ミーナが夕食のパンを持ってきた。


「疲れてる?」


「疲れた。でも……すっきりしてる」


「ミーナも!!疲れたけど、やったって感じがする!!」


「そうだな」


「カケル」


「うん」


「次も、一緒に行くよ」


「わかってる」


「絶対に、一緒に行く」


ミーナの目が、真剣だった。


「わかってる」

カケルは繰り返した。


「一緒に行く」


「うん!!」


夕暮れが格納庫の窓から差し込んで、ヨアケをオレンジ色に染めた。


次の戦いはまだ先だ。


でも今日、確かに一歩が踏み出された。


夜明け、という名の機械が、今日初めて戦った。


その名前通りの役割を、果たした。


◇◇


鉱山の入り口に近づくにつれ、番兵の存在が明確になってきた。


魔視鏡には七人の反応。うち二人は強い魔力波動を発しており、魔法使いだとわかった。


「正面は通れない」

カケルが言った。


「わかってる」

リョウが返した。


「南の坑道から入る。昨夜の観察で、南の番兵は少ない。二人だ」


「二人か。エレナが相手できる?」


「できます。ただし静かに」

エレナが言った。


「昨日と同じ光の結界術を使えば、二人なら無力化できます。大きな音は出ません」


「じゃあそれで行く。ヨアケを止めて俺が出る。中の偵察は俺と、エレナと、ミーナの三人で。リョウはヨアケの中で待機してくれ」


「ヨアケを守る役か」

リョウは少し考えてから頷いた。


「わかった。通信は繋いでおく。何かあればすぐ動く」


「頼む」


南の坑道への接近は静かに行った。


ヨアケを岩陰に残し、三人で徒歩で進む。


エレナが先に二人の番兵を光の結界で無力化した。音もなく、二人は立ったまま静止した。


「行きましょう」


坑道の中は暗く、湿っていた。松明が等間隔に灯っているが、奥へ行くほど光が弱くなる。


カケルは魔視鏡を持ちながら進んだ。


奥に進むほど、マナ反応が強くなっていく。


五分ほど進んだところで、坑道が広い空間に繋がった。


カケルは息をのんだ。


空間の中央に、巨大な構造物が立っていた。


高さは十メートルを超えるだろう。球形の中心部を、螺旋状の管が取り巻き、その管の中に大量のマナ石が埋め込まれていた。全体が青白く発光しており、一定のリズムで光が脈打っている。


「これが……装置か」

カケルはつぶやいた。


「すごく大きい」

ミーナが小声で言った。


「エレナ、これは何をする装置だとわかる?」


エレナはしばらく黙って観察した。


「……マナ波の放射装置です」

エレナは静かに言った。


「ただし、通常の魔術装置とは比較にならない規模です。これが稼働したとき、放射されるマナ波は大陸全体に届く可能性があります」


「大陸全体に届くマナ波……それは何のために?」


「マナの攪乱です」

エレナの声が硬くなった。


「大量のマナ波を一気に放射することで、大陸全体のマナの流れを乱す。そうなると……魔法が使えなくなります」


「魔法が使えなくなる?」


「大陸中の、全ての魔法使いが。一時的ではなく、マナの流れが正常に戻るまでの間、ずっと」


その言葉の意味が、カケルに届いた。


「……それはつまり、医療魔法も、防衛魔法も、全部使えなくなる」


「その通りです。そしてテーン商会は、この装置を稼働させた後に動く予定のはずです。魔法が使えない世界では、魔王軍の物理的な軍事力だけが残る。抵抗する手段を持たない人々に、マナ石の供給と引き換えに服従を迫る」


「完璧な計画だ」

カケルは静かに言った。


「止めなければなりません」


「止められるか?」


エレナは装置を観察し続けた。


「接合部……ここに、制御核があります」

エレナが装置の下部を指した。


「この核を破壊または無効化すれば、装置は動かなくなる。ただし」


「ただし?」


「非常に高い魔力で守られています。私一人の力では、破壊は難しい。ただし……」

エレナはカケルを見た。


「スタンガンを使えますか。あの制御核は電磁的な干渉に対する防御がない可能性があります。理論上は、強力な電撃を与えれば制御核が機能停止するかもしれません」


「スタンガンの改良版は持ってきている」


「でも出力が足りないかもしれない」


「里長からもらった古型マナ石が残っている。それを使えば……」


「出力を十分に増幅できます」

エレナが続けた。


「古型マナ石で増幅したスタンガンの電撃なら、制御核に届く可能性がある」


「やってみる価値がある」


「危険です。制御核への干渉は、装置が誤作動を起こす可能性もある」


「でも今しかない。完成してから来ても遅い」


エレナは少し黙った。


「わかりました。私が制御核の魔力守護を一瞬だけ薄くします。その瞬間に電撃を当ててください。タイミングは私が合図します」


「よし、やろう」


カケルはポーチから改造スタンガンを取り出した。里長から預かった古型マナ石をアダプターに装填する。


エレナが制御核に向かって手を伸ばした。


集中する。


周囲のマナが、エレナに向かって集まり始めた。


「準備はいいですか」

エレナが静かに言った。


「いつでも」


「ミーナ」

エレナが言った。


「うん」


「あなたは後ろに下がってください」


「わかった」


ミーナが数歩後退した。


「行きます」


エレナの魔力が一点に凝縮した。


制御核を守る魔力の膜が、一瞬だけ薄くなった。


「今!」


カケルが電撃を放った。


青白い電撃が、制御核に直撃した。


制御核が激しく光り、一瞬、全体が白くなった。


そして——


装置から、音が消えた。


脈打っていた光が、止まった。


静寂。


「……止まった?」

カケルが息をのんで言った。


「制御核が機能停止しています」

エレナが確認した。


「装置は現時点では動きません」


「成功か?」


「完全な破壊ではありません。修理すれば動かせる可能性がある。ただし、今日明日では動かせない状態にした、ということです」


「時間を稼げた」


「そうです。これで、次の手を打つ時間ができました」


ミーナが「やったーーーーーー!!!」と叫んだ。


「ミーナ、静かに!!!」


「ごめん!!でもやった!!!」


「わかった、でも静かに」


しかし遅かった。


坑道の奥から、複数の足音が聞こえてきた。


「見つかった」

カケルが言った。


「走るぞ!」


「はーい!!」


三人は坑道を逆方向に走り始めた。


トランシーバーをポーチから取り出しながら、カケルが叫んだ。


「リョウ! 迎えに来てくれ!!」


『了解! 今動く!!』


坑道の出口が見えた。


出口の先に、ヨアケが動いてきているのが見えた。


リョウが操縦席に入って動かしていた。


「乗れ!!」

リョウの声がした。


三人がヨアケの両肩と頭に飛び乗った


カケルが操縦席を引き継ぎ、即座に走行モードに入れた。


ヨアケが走った。


四つ足ではなく二足で走る金属の巨人が、山道を疾走した。


背後から追ってくる声が聞こえたが、ヨアケの速度には追いつけなかった。


山道を駆け降り、森の中に入り、追跡の声が聞こえなくなったところで、カケルはヨアケを止めた。


「……離れた?」


「マナ反応が遠ざかっています」

ミーナが言った。


「追ってきてない」


「よし」


四人とも、しばらく荒い息をついていた。


「……成功しましたね」

エレナが静かに言った。


「完全勝利じゃないけど」

カケルが言った。


「時間を稼げた。それで十分だ。次の手を打つ」


「次は?」


「本番だ」

カケルはリョウを見た。


「テーン・バイ・ヤーに、直接話をしに行く」


「魔王のところに乗り込むのか」


「向こうは装置を止められたことを知ってる。すぐに修理しようとする。その前に、こちらが動く必要がある」


「わかった」

リョウは地図を開いた。


「魔王城は、ここから……東北に五日」


「ヨアケで三日だ」


「急ごう」


ヨアケが再び動き始めた。


装置を止めた事実は、間違いなくテーン・バイ・ヤーの耳に届く。


動けるうちに、動く。


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