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12/25

迫り来る人類滅亡計画 ~情報屋ガロが知っていたことは、俺たちの想像の遥か斜め上だった~


エルフの森を出た翌日、四人は南の街道を歩いていた。


旅は続いているが、空気が変わった気がした。


森の中で設計図を完成させ、テーン商会の鉱脈地図を入手したことで、四人の持っている情報量は一段階増えた。しかし情報が増えるというのは、必ずしも心が楽になることを意味しない。


むしろ逆だ。


知れば知るほど、敵の規模の大きさが見えてくる。


「リョウ」

カケルが歩きながら言った。


「鉱脈地図の分析、進んだか?」


「昨夜、もう一度精査した」

リョウは帳面を開いた。


「地図に記されている未開発の鉱脈は、大陸全土で三十七か所。そのうちテーン商会がすでに調査済みのマークがついているのが二十二か所だ」


「二十二か所。それ全部、今は?」


「封鎖か、占拠か、調査継続中のどれかだと思う。少なくとも十か所は、すでに実効支配されていると考えていい」


「大陸の鉱脈の半分以上がすでに向こうの手の中か……」

カケルは計算した。


「マナ石の流通量はどのくらい減ってる?」


「行商人の話を総合すると、今年に入ってから市場に出回るマナ石の量が三割から四割減っている。これが半年でそこまで進んだということは、テーン商会の動きは想像以上に速い」


「三割から四割の減少」

エレナが静かに言った


。「マナ石は医療魔法の触媒にも使われます。流通が止まれば、治療できない患者が増える。食料の保存にも使うケースがある地域も……」


「生活インフラに影響が出始めてる」

カケルが言った。


「単なる資源の囲い込みじゃなくて、ゆっくりと人の命に関わるところまで届いてる」


「それが狙いだ」

リョウが言った。


「一気に攻め込まず、じわじわと絞る。人々が生活苦で疲弊したとき、「テーン商会に従えばマナ石を融通する」という取引を持ちかける。飢えた人間は取引に応じる」


「転売屋の戦略だ」

カケルは低く言った。


「希少品を人工的に作り出して、価格を吊り上げる。抵抗する体力を奪った上で、依存させる」


「それを世界規模でやっている」


ミーナが耳を伏せながら言った。


「なんかすごく、怖い話してる」


「怖い話だよ」

カケルは正直に言った。


「でも、知らないと対処できない」


「……ミーナ、何かできる?」


「今できることと、後でできることがある。今できることは、情報を集め続けること。後でできることは……使えるものを作ること」


「巨大機械?」


「それも含めて」


ミーナは少しだけ表情を引き締めた。


「わかった。ミーナも頑張る」


「頼りにしてる」



その日の夕方、一行は「クロスロード」と呼ばれる街に辿り着いた。


名前の通り、東西南北の街道が交差する地点にある中規模の街だ。行商人が多く集まり、情報の集積地でもある。


リョウには、この街に一人の知り合いがいた。


「ギルドの情報屋だ」

リョウが説明した。


「祖父の代からの付き合いで、各地の経済情報を売っている。テーン商会の動きも、何か掴んでいるかもしれない」


「会えるのか?」


「この街に来れば必ずいる。宿の酒場で毎晩飲んでる」


「毎晩?」


「そういう人だ」


情報屋の名前はガロ。


リョウの説明通り、彼は酒場の一番奥のテーブルに、一人でエールを傾けていた。年齢は五十前後、がっしりとした体格に人好きのする顔。しかし目だけは鋭く、四人が近づいた時点ですでにこちらを観察していた。


ガロは元々、大陸全土を渡り歩く大商会の調査顧問だったとリョウから聞いていた。各地の経済状況・勢力図・物流の動向を調べ上げ、商会に報告するのが仕事だった。十年前に独立し、今は個人で情報を売っている。かつての伝手と、大陸全土に張り巡らせた独自のネットワークが武器だ。「知らないことより、知っていて黙っていることの方が多い男だ」とリョウは言っていた。


「リョウじゃないか」

ガロが言った。


「久しぶりだな。一年ぶりか?」


「一年半ほどです」


「旅をしてたのか。珍しい連れを持ってきたな。エルフ……に、猫族。それと転生者か」


「全員で一緒に商売をしています」


「商売ね」

ガロが目を細めた。


「そういう顔じゃないな、お前の連れは。特にそっちの黒髪のが」


カケルが正面を向いた。


「バレましたか」


「経験上、「情報を集めに来た顔」と「商売の顔」は違う。お前たちは前者だ」


「正直に言います」

カケルは言った。


「テーン商会について、知っていることを全部教えてほしい」


ガロがエールを一口飲んだ。


「直球だな」


「時間がないので」


「……いいだろう。その率直さは嫌いじゃない」

ガロはテーブルに腕を乗せた。


「ただし、こっちが知っていることを全部話す代わりに、お前たちが持っている情報も教えてもらう。情報の等価交換だ」


「わかりました」


「では話そう」


ガロが語り始めた内容は、カケルたちが持っている情報より数段、深かった。


「テーン商会の実態は、表向きの商業組織ではない。これはもうほぼ確実だ。私が過去一年で集めた情報を総合すると……商会の本部と、魔王城は同じ場所にある」


「それはどういうことですか」


カケルが聞いた。


「魔王軍とテーン商会は別々の組織に見せかけているが、トップは同一人物だ。テーン・バイ・ヤーという名の人物が、両方を統括している」


「知っています」

リョウが言った


。「魔王の名前だ」


「そこまで知っているのか」

ガロが少し驚いた顔をした。


「ならば次を聞け。テーン・バイ・ヤーの最終目標が何か、掴めたのは三週間前だ」


全員が沈黙した。


「最終目標?」

カケルが聞いた。


「資源の独占と流通の掌握は、あくまで手段だ。それによって達成しようとしている目標がある」


ガロは声を低くした。


「人口の削減だ」


沈黙が、重くなった。


「削減……?」

ミーナが小声で言った。


「マナ石の流通を絞り、生活インフラを崩壊させる。それによって弱者から順に生存が困難になる。魔王軍が直接手を下すのではなく、「物資がないから死ぬ」という状況を人工的に作り出す」


「間接的な虐殺だ」

カケルは静かに言った。


「その通り。戦争ではないから、国際的な介入も難しい。「商業上の問題だ」と言い訳できる。しかも魔王自身は手を汚さない。完璧な計画だ……と思っていたはずだが」


「思っていた、とは?」


「計画に想定外の問題が生じている、という情報を入手した」


カケルは前のめりになった。


「何が問題?」


「時間軸だ」

ガロは言った。


「計画では、今年の終わりまでに大陸の主要鉱脈の八割を押さえる予定だったらしい。しかし現状、達成できているのは六割程度だ。想定より遅れている」


「なぜ?」


「いくつかの鉱脈が、予想外の抵抗を見せたからだ。地域の住民が守っていたり、元々採掘が難しい地形だったり。そして……」

ガロは少し間を置いた。


「どこかの旅人が、すでに制圧した鉱脈の情報を外に漏らしているという報告が届いているらしい」


カケルはリョウと目を合わせた。


「俺たちのことが知られているかもしれない」リョウが小声で言った。


「可能性はある」

カケルも小声で返した。


「どうする?」


「今は動揺しない。続きを聞く」


カケルはガロに向き直った。


「計画の遅れが、向こうの行動にどう影響しますか」


「焦りが出る」

ガロは言った。


「計画通りに進まない場合、強引な手段に出る可能性がある。これまでは比較的静かな「経済的な囲い込み」だったが、これからは直接的な軍事行動が増えるかもしれない」


「時間との戦いになるわけか」

カケルは言った。


「向こうが計画を完成させる前に、こちらが対抗手段を整える」


「そういうことになる。一つだけ聞いていいか」

ガロはカケルを見た。


「お前たちは、何を作ろうとしている?」


カケルは少し考えた。


「まだ言えない段階です」


「それでいい」

ガロはにやりとした。


「言えない段階のものがある、ということは、答えを持っているということだ。私は十年この仕事をしてきたが、答えを持っている人間の顔は、問いを持っている人間の顔と違う。お前は前者だ」


「信じてもらえますか」


「信じるかどうかはわからないが」

ガロはテーブルに何かを置いた。


「これをやる。私が集めた情報のまとめだ。テーン商会の動き、鉱脈の状況、各地の抵抗勢力の情報。役に立つはずだ」


折り畳まれた羊皮紙だった。


「お礼は?」

カケルが聞いた。


「いらない。ただし、お前たちが何かを成し遂げたとき、最初に私に話してくれ。それが情報屋への一番のお礼だ」


「感謝します。そして約束します。必ず一番にお話します。」


ガロは残りのエールを飲み干した。


「いい返事だ。気分が良いからもう一つだけ」

ガロが言った。


「これはほとんど確認が取れていない情報だが……テーン・バイ・ヤーは今、ある「装置」の完成を急いでいるという。鉱山で採掘したマナ石を大量に使う、非常に大型の装置だ」


「装置?」

カケルが聞いた。


「詳細は不明だ。しかし規模が規模なだけに、それが完成したとき何が起きるかは……想像したくない」


四人は黙った。


「ドワーフ峠で感じた異常なマナ波」

エレナが静かに言った。


「あれがその装置と関係しているとすれば……」


「稼働テストをしていたということか」

カケルが続けた。


「可能性は高い」


「いつ完成する、という情報は?」

カケルがガロに聞いた。


「三ヶ月から四ヶ月以内という話だが、確証はない」


三ヶ月から四ヶ月。


カケルは頭の中で逆算した。


巨大人型機械の製作に必要な時間。パーツの調達。組み立て。調整。テスト。


全てが計画通りに進んでも、ギリギリだ。


「わかりました」

カケルは言った。


「情報に感謝します」


「十分すぎる報酬の約束も得た。もうういいから行け、若者たち」

ガロは手を振った。


「私はもう一杯飲む。」


四人は酒場を出た。


夜の街道に出ると、星が見えた。


しかし今夜の星は、いつもより心なしか遠く感じた。



宿の一室に四人が集まり、ガロからもらった羊皮紙を広げた。


ランタンの明かりの下、びっしりと書かれた情報をリョウが読み上げ、カケルがノートに整理していく。


「大陸各地の抵抗拠点の一覧だ」

リョウが言った。


「東の港町・ベルナに商人の組合が結成されていて、テーン商会に対抗する動きを見せている。南の農業地帯では、マナ石に頼らない在来農法の復活を試みているグループがある。北の山岳地帯では、ドワーフの職人たちが秘密裏に別の採掘拠点を作ろうとしている」


「各地でバラバラに動いているわけか」

カケルが言った。


「それらを繋げれば……」


「連携できる」

リョウが続けた。


「ただし、繋げる役を誰かがやらないといけない」


「それが俺たちの仕事になるな」


「俺の商人ネットワークで繋げていける。ただし時間がかかる」


「急ぐしかない」


エレナが地図を指さした。


「抵抗拠点で一番技術力が高そうなのはどこ?」


「北のドワーフの採掘拠点」

リョウが言った。


「ドワーフは金属加工と機械工作の腕が一級品だ。採掘拠点を作るとなれば、道具も材料も揃っている可能性がある」


「そこに行こう」

カケルが言った。


「ドワーフ峠の近くか?」


「地図上は違う場所だ。テーン商会に占拠された峠とは別の山系に作っているらしい」


「ドワーフが協力してくれれば」

カケルは言った。


「巨大機械の骨格部分の製作を頼める。金属加工はエルフの記録に設計はあっても、実際に作るのは別の話だ。俺一人では絶対無理だ」


「ドワーフへの交渉材料は?」


「テーン商会の鉱脈地図だ。彼らが知らない採掘可能な場所を教える代わりに、協力してもらう。それと……」

カケルは少し考えた。


「マナ石変換アダプターの改良版を渡す。ドワーフは機械好きだから、現代技術の応用に興味を持つはずだ」


「なるほど。等価交換か」


「ガロさんから学んだ」


リョウが薄く笑った。


「一時間前に会った情報屋からすでに学んでいる。適応が早いな」


「褒め言葉として受け取っておく」


ミーナが地図を覗き込みながら言った。


「ドワーフって、どんな人たち?」


「背が低くてがっしりしている種族だ」

エレナが答えた。


「職人気質で頑固だが、一度信頼を得れば非常に頼りになる。ただし初対面は慎重に。彼らは誠実さを何より重んじる。嘘をついたり、言葉を濁したりすると、一発でアウトだ」


「正直にすればいいんだね」


「ミーナは正直さに関して心配は要りません」

カケルが言った。


「問題は別の方向から来る可能性がある」


「別の方向?」


「物を壊さないこと」


「!! 気をつける!!」


エレナが「ドワーフの工房には精密な道具が多い」と補足した。


「絶対に触らない!!」ミーナが力強く宣言した。


「よし」


「でも見るのはいい?」


「見るのはいい」


「やった!!」


作戦会議はそこまでにして、全員が早めに休んだ。


カケルは布団に入りながら、今夜知った情報を頭の中で整理した。


人口の削減。装置の完成まで三ヶ月から四ヶ月。各地の抵抗拠点。ドワーフの協力。


一つ一つは繋がっているように見えないかもしれない。しかし全部繋げたとき、一つの流れになる。


テーン商会が計画を完成させる前に、こちらが対抗手段を完成させる。


そのためには、次の目的地は北のドワーフ採掘拠点だ。


カケルは目を閉じた。


眠りに落ちる前の数秒間、脳裏に設計図の最終形が浮かんだ。


巨大な人型の機械が、ゆっくりと動くイメージ。


まだ夢の段階だが、確実に形になりつつある。



翌朝、宿を出る前にカケルはもう一つ、やるべきことを思い出した。


広域通信機の起動テストだ。


里に残したセンサーとトランシーバーが、今でも機能しているかを確認したかった。そして可能であれば、ミーナの家族に声を届けたい。


「試していい?」

カケルがミーナに聞いた。


「試すって何を?」


「里のレンや、お父さんたちに声が届くか」


ミーナが目を丸くした。


「声が届く!? ここから!?」


「届くかどうかやってみないとわからないけど……マナ石の増幅で、理論上はここまで届く計算だ」


「やって!!」


カケルは改造した広域通信機を取り出し、電源を入れた。マナ石変換アダプターを繋いで、出力を最大に設定する。


周波数を里に設置したトランシーバーと合わせて、送信する。


「こちらカケル、聞こえますか」


ノイズ。


少し待った。


ノイズが続く。


届かないか、とカケルが思い始めたとき。


『……! 聞こえ、ます!』


細い、しかし確かな声が、スピーカーから流れた。


男の声だ。


「レン?!」

ミーナが叫んだ。


『ミーナ!? ミーナの声?!』


「レン!!聞こえてる!!」


『信じられない……どこにいるんだ!?』


「えっと……クロスロードって街!」


『クロスロードか……すごい距離だぞ、ここから!』


「カケルがすごい機械を作ったから!!」


『カケルさんか……本当にありがとうございます!』


カケルが「どうぞ」とミーナにトランシーバーを渡した。


ミーナは両手でトランシーバーを握りしめて、レンと話し始めた。


「元気だった?」「元気! ミーナは?」「元気!!旅が楽しすぎて大変!!」「楽しすぎて大変ってどういうことだよ!」「いろいろあって!!」という会話が弾んだ。


それをリョウが微笑ましそうに、エレナが静かに、カケルは嬉しそうに見ていた。


しばらくしてレンの声が少し真剣になった。


『ミーナ、一個だけ教えてくれ。里は安全か? センサーとやらが何度か鳴ったことがあって』


「センサー鳴った?!」

ミーナが声を上げた。


「どこで?!」


『北の斜面のやつ。三日前に一回と、昨日の夜に一回。でも誰も来なかった。カケルさんが言ってた通り、獣かもしれないけど』


カケルが聞き取っていて、口を出した。


「レン、俺です。センサーが鳴った時間を教えてもらえますか。昼間か夜か」


『夜です。二回とも』


「夜に繰り返し反応している場合は、獣より人間の可能性が高いです。一回なら獣ですが、二回目が来たということは、観察を続けている可能性がある」


ミーナの顔が引き締まった。


「里が狙われてる?」


「わからない。ただ」

カケルはレンに言った。


「センサーが鳴ったら、里長と父のタロンさんに即座に知らせてください。一人で確認に行かないこと。それだけ守れば、センサーが役に立ちます」


『わかりました。ありがとうございます』


「こちらこそ、情報を教えてくれてありがとう。また連絡します」


通信を終えた後、ミーナが少し不安そうな顔でカケルを見た。


「里、大丈夫?」


「今すぐどうこうということはないと思う。テーン商会は今、計画の遅れを取り戻すことで手一杯のはずだ。里を直接攻撃するより、まず鉱脈だけを狙うだろう」


「でも心配」


「わかる」

カケルはミーナの猫耳を軽く叩いた。


「だから早く動く。俺たちが早く動けば動くほど、里への脅威も早く取り除ける」


「うん」

ミーナは頷いた。


「じゃあ急ぐ!!」


「そうだ」


リョウが荷物を担いで立ち上がった。


「出発しよう。ドワーフ採掘拠点まで、三日の道のりだ」


「三日……」

ミーナが空を見た。


「ドワーフって、夜は何食べるのかな」


「なぜ最初に食事の心配をする」

カケルが言った。


「腹が減ったら戦えないでしょ!!」


「食料は十分に持ってるから安心しろ」


「やった!!」


エレナが静かに立ち上がりながら言った。


「食に対して正直なのも、ミーナの長所のひとつです」


「そうかな」


「一番の関心事が「仲間」で、次が「食べること」。動物として非常に健全な優先順位です」


「なんか動物扱いされてる気がする!!」


「猫族ですから」


「エルフのくせに!!」


「エルフですから」


言い合いながら宿を出た。


街の朝市が開いていて、食料品の露店が並んでいた。ミーナが目を輝かせて「ちょっとだけ!」と駆けていき、干し肉と焼いたパンを一人分ずつ買い込んで戻ってきた。


「出発前の朝ごはん!!」


「ありがとう、ミーナ」

リョウが受け取った。


「ありがとうございます

」エレナも受け取った。


「……ありがとう」

カケルも受け取った。


四人は並んで、パンを食べながら北の街道へと歩き出した。


ドワーフの採掘拠点まで三日。


その先に、何があるのか。


しかしこの朝の空気は清々しく、食べながら歩く四人の足取りは、不思議と軽かった。



二日目の夜営地。


カケルは焚き火の前で、ガロからもらった羊皮紙を再び広げた。


その中の一行に目が止まった。


「リョウ、これを見てくれ」カケルが羊皮紙を差し出した。


リョウが受け取り、指差された箇所を読んだ。


「「テーン商会が特に注目しているジャンク品の収集業者として、城下町ランデール近郊に存在する「アキハバラ最終処分場」の名が挙がっている」……俺たちの店だな」


「向こうに名前が知られている」


「それは覚悟していた」


「問題は次だ」

カケルが続けた。


「「収集業者の中に転生者が複数いる可能性があり、テーン商会は現代技術の流出を最重要警戒事項としてマーク済み」と書いてある」


沈黙。


「つまり」

エレナが静かに言った。「


あなたたちが作ろうとしているものの存在を、向こうは薄々感づいているかもしれない」


「可能性はある。転生者が現代技術を持っていることは、この世界で十分な脅威として認識できる。テーン・バイ・ヤーは転売屋の子孫だ。現代日本のことを、他の異世界人より理解している」


「お互いの手の内が、どこまで見えているかが鍵になるわけか」リョウが言った。


「そう」

カケルは静かに言った。


「だから急ぐことが大事だ。向こうがこちらの計画を正確に把握する前に、形にしてしまう」


ミーナが真剣な顔で「どうすれば向こうにわからないようにできる?」と聞いた。


「目立つ行動を避けることだ。これまでより少し慎重に動く。でも萎縮はしない。萎縮して動きが遅くなったら、それ自体が問題になる」


「……難しいね」


「難しい。でも今の俺たちにできることをやるしかない」


「うん」

ミーナは頷いた。


「やる」


「そうだ」


焚き火が揺れた。


夜の草原に風が吹き、遠くで虫が鳴いた。


「カケル」

エレナが言った。


「うん」


「一つだけ確認させてください」


「何?」


「装置が完成したとして……それを使うのは、最後の手段として取っておくつもりですか。それとも積極的に前に出ますか」


カケルは少し考えた。


「積極的に前に出る」

カケルははっきり言った。


「守りに使うだけじゃ、足りない。テーン商会の計画を止めるには、直接的に動きを封じる必要がある。守りと攻めを両立して使う」


「そうですか」

エレナは静かに頷いた。


「では私も、その両方に対応できる準備をします」


「頼りにしてる」


「任せてください」


そのやりとりを聞いて、リョウが言った。


「俺は指揮と情報を担当する。ミーナが前衛、エレナが魔法支援、カケルが技術と判断。この分担でいこう」


「異議なし」カケルが言った。


「異議なし!!」ミーナが言った。


「異議ありません」エレナが言った。


「決まりだ」


四人が静かに頷いた。


それは宣言でも儀式でもなかった。


ただの確認だった。


しかしその確認は、四人それぞれの胸の中で、何かをしっかりと結んだ。


明日は三日目。


ドワーフの採掘拠点に着く。


世界を救う、旅が始まる。


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