18話
◇◆◇
レックスの侯爵就任の記念パーティーは、予定していた終了時間を前倒しにして終わった。
フォスターとエルローディアの姿は、招待した人達には殆ど知られてはいない。
エルローディアがフォスターと一緒にいた姿を見たのは、リンドット侯爵家のイブリーンのみだ。
罪を犯し、貴族牢に収容されていたとは言え、エルローディアはまだホプリエル侯爵家の娘として籍が残っている。
ホプリエル侯爵家の人間が、犯罪者であり騎士隊を除隊させられたフォスターと繋がり、現侯爵を陥れようとした人間と繋がっていたのだ。
これほどの醜聞はない。
「──〜っ、早くエルローディアを他家に嫁がせてしまえば良かった……」
レックスは悔しげに唇を噛み、額に手を当てて嘆く。
そんなレックスに、ウェンディは側に寄り、声をかけた。
「お兄様は戻って来たばかりで、現状の把握に侯爵としてのお仕事、それに今回のパーティーの準備でとても忙しくしていたのですから、エルローディアの事を後回しにしていても仕方ないです……!」
「だが、私の仕事の遅さが原因だ。後手に回ってしまった自分の愚鈍さが不甲斐ないよ……」
レックスは悔しさに拳を握り締めると、ある方向にちらり、と視線を向けた。
視線の先には、居心地悪そうにぽつんと立ち竦むリンドット侯爵家の娘、イブリーンの姿がある。
エルローディアが、フォスターと繋がっていた事。
フォスターを侯爵邸に招き入れた事を、一先ず口止めしなければならない。
王家への報告前に、イブリーンにリンドット侯爵や、他の人間に話されてしまってはたまらない。
ホプリエル侯爵家は、あれだけの事をして前侯爵夫妻が責任を問われたのだ。
これ以上、領地を没収されたら。
それとも、別の罰を与えられたら。
ホプリエル侯爵家の名誉が傷付く。
(それだけは、避けなければ……! ウェンディに侯爵家に戻ってきてもらうためにも、これ以上の醜聞は避けるんだ)
レックスは溜息を吐き出しつつ前髪をぐしゃり、と握り潰すとイブリーンに顔を向け、話しかけた。
「──リンドット嬢。少し話を。……あなたにお願いしたい事がある」
「え……っ」
真剣な表情で自分に向かって歩いてくるレックス。
イブリーンは怯むようにびくり、と肩を震わせたが、レックスが話す内容に次第に目を開き、輝きを見せた。
◇◆◇
「父上と母上──いや、前侯爵夫妻の罪を王家に報告しよう。そして、彼らを捕縛してもらう」
侯爵の書斎。
レックスとウェンディ。そして、ヴァンの三人は部屋に集まり、それぞれソファに座って今後の事を話し合っていた。
ヒュフーストは興味を削がれたようで、アヌジュの森にある自宅に既に帰ってしまっている。
ヒュフーストが手に入れてくれた、フォスターと前侯爵の手紙。
これは、確かな証拠になるだろう。これだけでも重罪になる。
「ええ、そうですねお兄様。王家に証拠を提出して……その後であれば、リンドット嬢にエルローディアとフォスターが会っていた事を証言してもらっても問題はないでしょう」
イブリーンの名前を口にしたウェンディ。
レックスは、些か気まずそうにウェンディから目を逸らし「そうだな」と答える。
そして迷ったように視線を左右に向けてから、ウェンディとヴァン、順に視線を向け口を開いた。
「……二人とも、申し訳ない」
謝罪と共に頭を下げたレックスに、ウェンディもヴァンも慌てて答えた。
「お、お兄様! 顔を上げてください! お兄様が謝罪する必要などないのですから!」
「そ、そうですレックス卿! あなたが頭を下げる必要はありません!」
「──だが、今回リンドット嬢に承諾してもらうため……」
レックスは、申し訳なさそうに俯く。
「……ヴァンがリンドット嬢とデートしなくてはならないだろう?」
レックスが口にした「デート」と言う言葉に、ウェンディは言葉に詰まる。
もやもやとした例えようのない感情が胸に込み上げ、ウェンディは自分の両手をぎゅっと握った。
──先ほど、イブリーンにレックスがエルローディアとフォスターの事を黙っているように頼んだ時。
イブリーンは、目を輝かせ、そして頬を赤く染めて期待の満ちた表情で「ヴァンとデートをさせてもらえたら黙っていても構わない」と告げたのだ。
まさかそんな事を言われるとは思わなかったため、返事に窮しているとイブリーンは自分の父親に話してしまうかも、と零したのだ。
それに焦ったレックスだったが、自分が許可を出すようなものでもない。
困り果てたレックスがウェンディとヴァンに顔を向けると、ヴァンも困ったようにウェンディを見ていた。
三者三様の視線を受けたウェンディは、ヴァンを苦しげに見つめたがここで断る訳にもいかない。
レックスが侯爵になって、まだ日が浅い。
それなのに、レックスの顔に泥を塗る訳にはいかないのだ。
幸い、ヴァンも事の重大性を認識してくれている。
困った様子のウェンディに近付いたヴァンは、自ら「リンドット嬢と出かけるだけで黙ってもらえるなら、そうしようか?」と聞いてくれたのだ。
ウェンディはその提案に、もやもやとした自分の感情に蓋をして「お願いしてもいい?」とヴァンに答えたのだった。




