15話
「──よしっ! 無事に開いたわね!」
「開いたって言うか……無理矢理開けたんだけどな……」
ウェンディの言葉に、ヴァンが苦笑い混じりに答える。
開けばいいのよ、開けば! と快活に笑うウェンディは、そのままドアノブに手をかけ、静かに扉を開けた。
ぎいい、と軋んだ不快音を立てて扉が開く。
ひょこり、と扉から顔を覗かせたウェンディに倣い、ヴァンやヒュフーストも覗き込んだ。
そして、ヒュフーストはぼそりと呟く。
「真っ暗、だな……。侯爵家は普段からこんな雰囲気なのか?」
屋内の暗さに、ヒュフーストは眉間に皺を寄せ、目を細めている。
ウェンディは慌てて小声で「光よ」と呟くと、手のひらに光の玉を生み出した。
「いえ、普段はもっと火を灯しているのですが……。どうしてかしら……。今日がパーティーだから、参加者が来ないような場所はお兄様が灯りを消している、とか……?」
ウェンディに話しかけられたヴァンは、自分の顎に手をやり暫し考え込んだ。
だが、考えても答えが出てくる訳ではない。
ヴァンは「分からないな」と呟くと、誰よりも先に邸に一歩足を踏み入れた。
「ここで考えていても埒が明かない。……中に入ろうか」
ヴァンが先行して邸に入り、周囲を確認する。
すぐ近くに人の気配はなく、安全を確認したヴァンは外で待っているウェンディとヒュフーストに声をかけた。
「近くには誰もいなさそうだ。ウェンディ、おいで。俺のすぐ後ろにいて」
「分かったわ」
こくり、と頷いた後、ウェンディは後ろにいるヒュフーストに振り向いた。
「ヒュフースト様、どうぞお入りください」
ウェンディに言われたヒュフーストは「ああ」と頷き、二人に続いて邸内に足を踏み入れた。
邸に入った三人は、ヴァンを先頭に廊下を進んで行く。
イブリーン・リンドットが話していた場所に向かって歩いて行くが、やはり邸内に使用人の姿はほとんど無い。
パーティー会場の方に今日は多くが出払っているのだろう。
「……微かに人の気配がする」
「──本当、ヴァン?」
「ああ」
「この先に人間が居るのは間違いなさそうだな。……私の探索魔法でも、人間の魔力が引っかかっている」
ヴァンに続き、ヒュフーストも同意する。
騎士として、人の気配を感じ取る事が得意なヴァンと、魔法に精通しているヒュフースト。
二人がそう言うのであれば、この先に人がいるのは間違いないだろう。
「──気をつけて進みましょう」
ウェンディは気合いを入れて、足を踏み出した。
◇◆◇
「──とりあえず金、金ですよエルローディア様。そして、潜伏先を用意してください……! せっかく出てこれたとは言え、働き口もないし、前科がついた俺は、家を借りれない……!」
「そうは言っても……私もお義兄様に色々と制限されているのよ……! 自由に出来るお金は少ないわ……!」
「だけど、無一文の俺に比べればあるでしょう!? 前侯爵と、侯爵夫人に接触して、彼らを助ける……! その報酬に、彼らから金をもらうつもりです。彼らから金を貰ったら、エルローディア様に返します、だから……!」
「ちょ、ちょっと待って……っ、用意するから──」
エルローディアとフォスターは、自分たちの会話に集中している。
そのため、二人の死角からやって来ている三人には全く気がついていなかった。
「フォスター。それに、エルローディア。今の話、どう言う事? 何を企んでいるの」
エルローディアとフォスターだけの声が響いていた廊下に、突如として第三者の声が響く。
その声の主──ウェンディは、強い光を瞳に宿し、廊下の隅でこそこそと話していた二人に声をかけた。
「──ウェンディ様っ!?」
「お義姉様!?」
フォスターは、どこか嬉しそうに。
エルローディアは顔色を悪くして。
二人が同じタイミングで振り返った。
廊下の先──。
エルローディアとフォスターが振り返ったその先に、鋭い視線で二人を射抜くウェンディとヴァン、そしてヒュフーストが居た。
◇
「な、何の事、ですか? それより、ウェンディ様……っ、お会いしたかった……!」
フォスターはへらり、と笑みを浮かべてウェンディに近付こうと足を踏み出す。
だがすぐさまヴァンがウェンディを庇うように前に進み出た。
まるでこれ以上近づくな、とでも言うようなヴァンの態度に、フォスターはむっと顔を顰めた。
「ヴァン・ラインハルツ……! お前さえいなければ……っ、再び私がウェンディ様の専属護衛騎士に戻れたと言うのに……っ」
「何を自分勝手な事を……。例え俺がいなかったとしても、ウェンディはフォスター卿は絶対に選ばない。それより……フォスター卿。あなたは前侯爵と侯爵夫人に接触して、何をするつもりですか」
ヴァンの言葉に、フォスターはぐっと言葉を飲み込み、そっと視線を逸らした──。




