16話
「──疚しい事があるのだろうな。人間は疚しい事を隠す時、視線を逸らす事が多い」
フォスターの態度を見たヒュフーストが淡々とした口調で告げる。
フォスターはムッとしてヒュフーストに言い返そうとしたが、話した本人ヒュフーストを見て気圧されたようにたじろいだ。
「ちが……。俺は、別に……」
「なに。何を考えていたのか、俺が見てやろうか」
愉しげに笑ったヒュフーストが、腕を前方に突き出した。
ヒュフーストの手のひらの先に魔法の光が収束し、瞬きの刹那、光は真っ直ぐフォスターに向かって進み、彼の体自身を覆いつくした。
「──なっ、なんだ、これは……っ!?」
慌てふためくフォスターと違い、ヒュフーストは自分の顎に手を当て二度三度と頷く。
「……なるほど。この男は……」
呟いたヒュフーストは、そこで言葉を切るとウェンディに顔を向けた。
「ウェンディ、お前の両親と結束し、今の侯爵家当主を排除しようと考えていたようだ。……ウェンディの両親に手紙も送っているようだな」
「何ですって……!? それは本当ですか、ヒュフースト様!」
ヒュフーストから告げられた言葉に、ウェンディは声を荒らげる。
まさかフォスターがそんな大それた事を考えていたなんて。
そして、そんな企てを実行しようと動いていたなんてウェンディは全く気が付かなかった。
ヒュフーストは尚もフォスターから得た情報を淡々と話して行く。
「……なるほど、ウェンディの両親を再び侯爵家の当主に、と約束をして……自分の身を匿ってもらう事を約束させようとしていた……そして……」
ヒュフーストはちらり、とウェンディに視線を向けた後、ひょいと肩を竦める。
「ヒュフースト、様? フォスターは最後、何をしようとしているのですか?」
「──いや、何でもない。とりあえず、フォスターと言う男はウェンディ、お前の両親と再び悪巧みをしようとしていた。このままにしておく訳にはいくまい?」
ヒュフーストが濁した件は気になるが、ウェンディはそれ以上追求するのはやめた。
今は、それを追求するよりも大事な事がある。
ウェンディは改めてフォスターとエルローディアに体を向け直し、自分の両手を前方に翳した。
「現侯爵、レックス・ホプリエルに仇なすつもりなのですね。ならば、彼の妹として私は兄に仇なす人間を捕まえる必要があります」
「そうだな。レックス卿の身に危険のあるものは排除しないと」
ウェンディの隣にヴァンが並び立ち、自身の腰に下げた長剣の柄に手を添える。
「それに、前回の罪状じゃあ生温かったみたいだな。今回は前回の罪とは比較出来ないくらい重罪だ。彼らにはその罪をしっかり償ってもらおう」
「ええ、そうねヴァン。お兄様に手を出そうとするのは、絶対に許せないわ……!」
ウェンディとヴァン。
二人が一歩足を前に踏み出すと、エルローディアとフォスターの顔色が見る見るうちに悪くなっていく。
フォスターは慌てて両手を突き出し、言い訳を口にした。
「──おっ、憶測だ……! 何の証拠もなしに、私を捕まえるつもりかヴァン・ラインハルツ! 職権乱用だぞ! ウェンディ様! 騙されないでください、私はそんな事を考えておりません、私はただ、あなたの唯一の護衛騎士になりたいだけで──」
顔色を悪くし、必死に言い訳を口にするフォスター。
そんな彼を見て、ヒュフーストは鼻で笑うとぱちん、と指を鳴らした。
「──証拠ならここにある。これは、お前がウェンディの両親に出した手紙だろう?」
「──ひっ」
ヒュフーストの手に、突然手紙が出現する。
その手紙の筆跡は、確かにフォスターのもの。
ウェンディの父、前侯爵宛に書かれた内容である。
侯爵家当主の座に返り咲く手助けをするから、自分の身に関して便宜を図って欲しいと言う内容がフォスターの筆跡でしっかりと書かれていた。
「人間達にとっては、これが確かな証拠になるのだろう?」
手紙を指で挟んだヒュフーストが、ヒラヒラとそれを揺らす様を、フォスターはただただ言葉を失い、唖然と見ていた。
どうして。
何故侯爵宛の手紙がここに。
フォスターの頭の中には、それしか浮かんでいないだろう。
ウェンディはヒュフーストから渡されたそれの中身に目を通し、唇を引き結んだ。
かつては、自分の専属護衛騎士だったのだ。
そんな人間の──フォスターの筆跡を、忘れてはいない。
「フォスター・シュバルハーツ……。あなたは一生塀の中にいた方が良いわね……」
普段のウェンディからは思いもよらないほどに低い声。
そして、怒りの籠った声に、フォスターは本能的に危険を察知した。
このままでは、本当に一生を塀の中で終わらせる事になる──。
「どっ、どけっ!」
「──きゃあっ!?」
フォスターは隣にいたエルローディアをウェンディ達の方へ突き飛ばし、自分は背を見せて逃げ出す。
自分だけが助かれば良い。
そんな醜い感情が透けて見えて、ウェンディは不快感を顕にした。
「ウェンディ、俺が抑える」
「──お願い、ヴァン」
ウェンディの隣にいたヴァンがそう言いなり、目にも止まらぬ速さでフォスターを追いかける。
ヴァンが長剣を抜き、逃げるフォスターの足元に向かって魔法を発動した。
「──氷よ!」
「ぎゃあっ」
ヴァンの氷魔法によって足を凍らされたフォスターは、その場に足止めを食らう。
足を止めたフォスターに、そのまますぐ背後に迫っていたヴァンが剣の柄を後頭部に叩き込んだ。




