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九拾壱話 轟く不死鳥

「ザイフェ! 無事か!?」

「総司令……! ご無事でしたか!」

「問題ない。戦況は?」

 どうやら、北東部のエドガーとの連絡が取れていないそうだ。

 俺も王都経由でこの地まで来たゆえに、エドガー軍やエドガーの姿を見ていない。心配だな。

 正面はリュミナ・ガル=フレイアの十万。

 最盛期は四十万近くの軍が集っていたそうだが、俺が鎧門での戦いを始めるとその攻め手を弱めたそうだ。

 理由は凡そ、想像がつく。

 どこの国も人的被害は最低限に留めたい。だから、氷晶が鎧門やセリウスを突破し、光龍国王都圏に雪崩れ込むのを待っていたんだ。王都圏に氷晶軍が突っ込むとなると、光龍は嫌が応にもそちらに大軍を充てざるを得ない。

 そうすれば各地の兵数少なくなり、軍は薄く、細長くなる。それ程に突破が易い陣形はないだろう。

 つまり、氷晶に大兵力を動員させ、事実上の潰れ役とすることで自らが利を得る形とした。

 協力する上では悪くない策といえるだろう。

 しかしそれは、ともに大きな弱点を二つも孕むという危険性をも兼ね備えている。

 一つ、氷晶から恨まれる。自ら望んで仕官したのなら話は別だが、押し付けたような形であれば氷晶の軍部、王族、兵卒、民草問わず全てから恨まれ、憎悪の対象となる。

 二つ、失敗したときのデメリットがメリットと割に合わない。成功した場合、その国は各国からの賞賛と感謝に溢れ返る。しかしその反面、失敗した場合は天下に赤っ恥を晒す以上の醜態を晒す事となる。

 それはこの戦国の世においての死活問題であり、国の威厳が失われれば外交などで足元を見られ、不利にな条約を半強制的に結ばされる可能性もあるというリスクがある。

 また、失敗した場合、他国からの信用を失い、抗うにも抗えない状況が構築される。

「……。分かった。ここに俺の旗を置いていく。リュミナにこの旗を見せつけ、奴をここに釘付けにしろ。俺の連れてきた北部兵三万もここに置いていく。自由に扱ってくれ。バルバトス軍五万のうち三万を率い北上する。二万はここに待機させておく」

 東部中央でザイフェと言葉を交わしたのを数分に、俺はバルバトス軍三万を率いその場を足早に去っていった。

 エドガーとの連絡が取れていないということは、エドガーとこの軍の間に伝令狩りの為の兵が少なからずいるということだ。

 伝令狩りがいるならば、斥候を出しても狩られるだけだろう。

 つまり、敵前上陸に等しい困難を極める戦いへと発展するだろう。

 敵兵数がわからない現状、この三万で対処するには限界がある。

 「一で十を凌駕する」とも謳われたバルバトス軍でさえ、荷が重い。

「総司令、そう心配されますな。エドガー将軍と大殿は旧知の仲。犬猿とまで言われたクロイザン様とは一段落ちますが、それでも大殿と仲の良かった将の一人です。そして、大殿はこう申された」

 ヴィッツが話だし、雲がかった天気に日が差した。

「『もし、自分が死するような戦場で生き残る力を有すものは光龍内には片手で数えられるほどの人数しかいないだろう』と」


・五龍第三席『知勇の賢鳥』グラウス・グルドマン

・五龍第四席『無敗の戦鷹』バルド・レオンハルト

・光龍国王都守備軍、長官『王都の八咫烏』クロイザン・カタルバス

・光龍国東部軍、当時の副指令『轟く不死鳥』のエドガー・ヴァルクレン


「『この四人は誰よりも高く翔ぶ。それこそ、イオやシグルド、ガゼフなど目でもない。必ず光龍国を牽引し、次代へ引き継ぐ鍵となる』」

 二つ名のネーミングセンスはさて置き、今の光龍軍の中核を担う優秀な将が集っている。

 軍政や大本を担う右宰相と叔父上、前線に出るクロイザンとエドガー。

 だが、バルバトスに認められなかったことが、今の会話の引っかかった部分か。

 所詮は子供……いや、父の反乱の折、彼も出陣したことがあると聞く。

 ここでも、俺の出自や血統が関連してくるのか……。

「……そうか。奴はそんな言葉を残していたのか……」

 レオンハルトの血統が認められず、そのラインナップに入れてもらえないのであれば、嫌でも認めざるを得ない功績を残すほかに手はあるまいて。

 レオンハルト家がどうこうじゃない。俺の父が起こした咎が、じゃない。

 そんな理由で、俺を断ずるな。

 俺を評価するなら、俺だけを見ろ!

「正面敵影! 数は二万前後と見受けられます! あれが、伝令狩りの軍かと!」

「力で捻じ伏せる! 前衛、上がれ!」

 バルバトスよ、ご照覧あれ。

 これが、俺と、お前の遺産の共演だ!

 お前が残した、バルバトス兵は本当によく働く。

 全て、お前の徴兵と努力の賜物だ。有難く引き継がせてもらう。

 燻ぶる才能の灯を消すのは、愚物のすることだ。

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