八拾伍話 珍妙
「リュミナ・ガル=フレイア、迫っています!」
「第七重装歩兵大隊を充て、横から第一長槍歩兵中隊をぶつけ、止めを刺させろ」
相対す敵は十万。
それを率いるのは炎獄五将の生き残りリュミナ・ガル=フレイア。
狂気の突撃者という二つ名を冠する女傑であり、知略にも長けた化物と言ったところだ。
万能のセレスティア・ノール=ヴァリアの守備と攻撃の比率を五と五と例えると、リュミナの守備攻撃比率は十と零に等しい程だ。
それ程までに規格外な攻撃力。
俺は少々それを舐めていたかもしれない。
炎獄方面戦線第二防衛ラインの南部方面を預かる俺、アーフガード・ロディアの軍は凡そ八万。
その数で三十万を超えるリュミナ軍を止めろとはまぁ、よくも、こんな無茶を行ってくれたな。
ザイフェ!
お前の相手はいいよな。
守備系のゴルドン・フェル=グラナートで。俺の相手は攻撃型だぞ。
「リュミナ軍、やはり勢い止まらず、重装歩兵大隊を突破! 第三防陣に接近します!」
「本陣を一列下げ、最終防陣へ移動。第一防陣を折り畳み、陣に蓋をしろ」
鶴翼の様に切り裂かれた防陣を畳み、内部へ折り曲げ、外側への出口を消滅させる。
多少後退しようと、国を守る者が居なければ国を守ることは出来ない。
リシュアン総司令の教えを復唱し、強く鐙に力をかけた。
♦♦♦
「マルム南部方面軍担当官が北に引き抜かれた!?」
「北の国門が押されている事も分かりますが、南の要でもあるマルム担当官が抜かれるとなると……」
南部。
南部の大都市・暗屯。
マルム・レオンハルトに与えられた城であり、今は南から迫る大敵・翆玲軍に対する南部軍の拠点となっている。
「しかし、『五年間消息不明となっていた、かの男をそちらに送り出した故、案ずるな』とリシュアン総司令が……」
「かの男?」
「それが……大暦砂原のラメセス・クフという男と……。加えて、王都に五年間眠っていたその者の軍も同行していると……」
「奴か……。決めた。戦場を変えることにする。少し南に湖畔砂丘がある筈。ラメセスが来るなら、その地に戦場を変更した方が都合がいい」
「確かに。妙案だな。スルール。軍が同伴するならば砂丘や砂原での戦いに強い筈だ。ラクダと言われる珍獣の部隊と、砂上行軍に優れた軽装チャリオット。珍妙な軍だな」
「それ故に、他の人には指揮できなくて、リシュアン総司令が練兵の命令だけ出した軍。それが動くとなれば、初見の翆玲軍は対処の仕様がないだろうね。決めた。俺が砂丘を戦場にするように誘導してくる」
「だが、それでは……」
「東の緑葉山地を絶対防衛線にすればいい。それよりも南の地は失地してもいい」
「意外だな。お前がそんな命令を出すとは」
「双子でも見切れないのが奇想天外で良いんじゃないの?」
「いい事を言う」
♦♦♦
「遠投投石機が見えるが、大丈夫か? ポルタ」
「てやんでい。この分厚ぃ壁を壊そうなんざ、べらぼうのすることでぇ」
「分かった。壁上での戦いでは俺が各地を回り、鼓舞して回る。全体指揮はお前に任すぞ」
俺はそう言い残して望楼を降り、マルムと合流した。
「マルム。久々の共闘だな。心の準備は?」
「当然、出来てない」
「相変わらず、将としての威厳が足りてないな」
軽口を叩きあい、俺は壁上に立った。
場所は北面。
「見ろ! 敵はこの巨大な鎧門を前に、一歩も動けず、竦んでいるぞ!」
下の兵が少し前に出た。
「包囲をするだけして、挑むことが出来ない、臆病者共が!」
誰かが叫んだ。
計画通りだ。
俺の言葉だけでは皆に火が付かない。
やはり、一兵卒の言葉が重要だ。
「奴らには百万の兵居れど、男は一兵も居ないようだな!」
俺は胸壁から飛び降り、手近な弓兵隊長に告げた。
「敵に当たらない程度に一波分、射撃を開始。それで十分だ」
少し動揺したようにも見えたが、直ぐに遠射が始まった。
下の敵兵が挑発に掛かり、走り出したようだ。
それを見た俺は後ろに下がり、ポルタに合図を出した。
「構え! 放て!」
ポルタの号令で、弩兵や弓兵、バリスタも関係なく、一斉射撃が始まった。
バリスタの先には火玉を転用した爆発玉を付けているため、攻撃力や破壊力が底上げされている。
バリスタが大量に配備されているこの鎧門ならではの戦い方だ。
普段なら轟音に聞こえる弓の射出音も、バリスタの爆音に比べれば蚊の鳴く声と等しい。
これ、近くで聞いたら鼓膜諸共弾け飛ぶんじゃないかな?
風向きは南から北。
つまり、葉桜軍側からの矢が良く飛び、氷晶軍側からの矢が少ない。
下の弓兵大隊はほぼ全軍。
両面の兵数は同じだが、攻城兵器を持つ氷晶側に矢が飛ぶのはありがたい。
「葉桜軍の長梯子隊、出現! 軽装侍と思われます!」
「盾兵を集め、圧し潰せ!」
「氷晶軍側カタパルト射出開始! 風向きの関係上、届く球少ない!」
各所でおっぱじまったようだな。
「俺も出るとするか。ファナスに伝令だ」




