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壱百壱話 滑る

「……カハッ……」

 俺は確実にリヴァイアザードンを殺したと確信した。

 だが、その刃は見事にリヴァイアザードンに避けられ、横から刃が突き立てられている。

 痛さを感じない。

 ……いや、痛すぎて感じない。

 多分、アドレナリンが回っているんだろうな。

 つまり、それだけの大きな負傷……。


 恐る恐る俺の脇に刺さった(つるぎ)を覗くと、それは血の滴るレイピア。

 細身の刃が残酷に俺の脇を穿っている。


「幕だ。戦士よ」


 ふいにした声。

 その声と共に空を裂き現れたのは、一振りの直剣。

 確実に、俺の顔を狙っている……。殺意が高い。

 仰け反り、渾身の回避を披露するが、髪の数本が飛んだ。

「……全く……三対一とは品が無いな……」

「仕方がない。貴様を殺せという命令だ。何としてでも殺してやる」

「こんな……武将として、恥ずべき行為だと、しても?」

 昨今、一騎討ちを邪魔する者は邪険に扱われ、主君の武名に泥を塗ると蔑まされてきた。

 実際、一騎討ちで配下に助けられ、「部下が居なければ死んでいた」とされ、「実力無し・無謀」の烙印を押されて失脚した将軍を何人も知っている。

「それでも、だ。この合従軍の勝利条件は貴様を殺すこと。貴様を殺せば光龍の滅亡も近い」

「ククッ、俺はもう、国にとってそんな大きな存在になっていたとはな……」

「今更、か。今更そんなことを思っているのか?」

 レイピアが引き抜かれ、赤血が噴き出した。

 リヴァイアザードンはその隙に離脱。戦線から離脱した。


 次の瞬間、双剣が俺の目の前を通過した。

 奇跡的に回避したが、当たっていたならば即死は免れなかっただろう。

 これが、彼女の刃か……。

「名乗り遅れた。我が名は”猩々緋の剣姫”の名を冠するは翆玲三大神将が、末席。オキデレーラ・マギシェ」

 刃を振りぬいた女がこちらを見て名乗った。

「俺は翆玲三大神将第二席。”無垢金の刺剣”で名が知れ渡っているだろう? シュテッヒェン・ッサラマンドラ」

 ……。翆玲の第二将と第三将か……。

 相手にとって不足はないが、武人としての誉とか誇りとかそういう部分が著しく欠如している。普通の敵将と戦うのと同じ感じで戦うと予期せぬ反撃を喰らう可能性もあるか……。

「光龍国軍総司令リシュアン・レオンハルト」

 だが、名乗りするのは南西部特有の行為だ。

 無論、名乗りを受ければ答えるのが筋……だが、武人として誇りを重んじていないのに、何故名乗る必要がある?


 駄目だ。下手な事を考えて集中が切れると、まず間違いなく死ぬ。

「どうした? この程度か?」

「五月蝿いぞ……。オキデレーラ」

 オキデレーラの刃は読みづらい。

 不規則なリズムと異常なまでの素早さ。回転の勢いに乗せた攻撃が二刀。

 その部分だけとれば、シュテッヒェンの一枚上を行く。

 素早さで優るとも考えられるレイピアでさえ、素直な素早い突きで終わる。

 なら、こっちが狙い目だ。


 レイピアの閃光が(くう)を切り裂いた。

 レイピアか……。なら……!

 俺は咄嗟にダガーを抜いた。

 このダガーはただのダガーじゃない。裏刃は櫛状になっていて刃を挟んで圧し折る形状になっている。この武器は名前をソードブレイカーと言って、まだ発明されてから二年と経っていない代物だ。

 全力の突きを、絡めとる!

 挟まった細身のレイピア。それに合わせてソードブレイカーを捻る。


 その瞬間、レイピアの刃が割れた。

 見事に両断された欠片は勢いよく跳ね上がり、近くにいたオキデレーラの肩当に突き刺さった。

 今の勢いなら肩にまで貫通していてもおかしくはない。

「なッ……!」

 シュテッヒェンが絶句した。

 メインウェポンを失ったシュテッヒェンは戦線離脱を余儀なくされ、俺とオキデレーラの一対一の攻防に持ち込まれた。

「これで、土俵は整った。決着は付けさせて貰う」

「受けて立つ。オキデレーラ・マギシェの名の下に、貴殿を土塊に還す」

 ハルバードを他に託し、俺は腰から二振りの剣を引き抜いた。

 普通は白光りする刃は斜陽を反射し、その刀身を朱に染めた。

 互いに、ほとんど同時のタイミングで地を蹴った。

 近づく。

 勢いに任せた突きが火花を散らす。

 受け流された。

 右の腕をすれ違いざまに裂かれた。

 袖が重いと感じたのはその所為か……。


 オキデレーラの刃が迫らせる。追撃を狙っているのか。

 防御のために剣を構えなお――――手が滑った。

 滴った地が剣の柄を滑らせた。

 その一瞬の隙が、致命的な瞬間だった。

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