壱百話 葬送
「全く、相変わらずあの方は人使いが荒いですね……」
「仕方がないさ。第一席に呼び出されれば断れない」
俺はリヴァイアザートンが第一席に座る”翆玲三大神将”の第二席を預かる男。
”無垢金の刺剣”とは俺のこと。シュテッヒェン・サラマンドラ。
リヴァイアザートンが本流とするならば俺は分家の子供で従兄の存在となる。
ドカラ、と馬脚が進み、一人の人間が追い付いてきた。
「やあ、君も呼び出されていたとはね。第三席君?」
「失礼ですね。私も既にシュテッヒェン様と並ぶ程の力は持っていると思いますが?」
「なら、この俺を引きずり降ろしてくれ。地獄みたいな第二席の座からさ」
俺に話しかけたこの女は”翆玲三大神将”が末席。
”猩々緋の剣姫”オキデレーラ・マギシェ。
朱の鎧と絶対無敗と噂される剣技。”翆玲三大神将”第三席に座す皇帝の義理の娘。
「リヴァイアザードン様から檄文が! 敵軍右翼より迫り、殲滅せよと!」
「だ、そうだ。無駄話はここまでだ。君は奴の退路を断ってくれ」
「了解」
兜のバイザーを下ろし、彼女の騎士団が分離していく。
フーランのガキが死んで、その騎士団を引き継いだ彼女の直下兵団は翆玲や光龍を含めても大陸全土で上位三本指に入るほどの強さを誇る。
血刃騎士団か……。大騎士家であるフーラン家が先の”翠獄戦役”で没落して以降、一時的に王家の騎士団となっていたが、彼女がこんな所に連れてくるとは、意外だ。
「俺らを阻む双子の子供は死んでいるのか?」
「はい。リヴァイアザードン様が首を切り落としたと申されておりました」
本当に、死んだのか?
あの長い間南部に駐屯して、我々から恐れられたあの双子が。
天賦の子供と恐れられたあの子供が、本当に?
それほどの男というのか?
”黒禽の勇者”リヴァイアザードン・サラマンドラという男は……。
「クッ、ククククク……。そのような男に狙われて、生きて帰れると思うなよ? リシュアン……」
♦♦♦
「本当に、死んだのか? あのスルールとリヴァイルが……」
「ああ、そのようだ……。まさか、あの子供らが死ぬとは想定していなかった……」
「……分かった。今は、二人の敵を討つことに集中するしかない……。崩れた防陣を敷き直せ!」
「やめておけ、総司令。今、ここに迫っているのは、かの双子を殺した敵将だ。総司令も生きて帰れる保証はない……」
何を馬鹿なことを……。
クフは俺を心配しすぎだ。
戦場に初めて出た時から、そのような覚悟は出来ている。
如何に、スルールとリヴァイルがその敵将に殺されたとはいえ、これまででかなり疲弊している筈だ。そこを上手く突ければ勝機は十分にある。
「やめてお――――!」
クフの言葉は殆ど絶叫に近かった。
無視する。
俺は、俺は……。
「”翆玲三大神将”が第一席。”黒禽の勇者”は俺のこと。リヴァイアザードン・サラマンドラ。神の名の下に、貴殿を――――葬送する」
「光龍国軍総司令、リシュアン・レオンハルト。いざ、尋常に――――」
「「――――参る」」
走り出した。
見た所、敵の武装は黒いツインブレードと烏の羽を繋ぎ合わせたかのようなマントをつけた皮鎧。
俺の武装はいつも通りのハルバードの構成。
「遅い!」
敵の咆哮が俺を刺したとき、ツインブレードの下の刃が俺のハルバードの下を潜り抜けていた。
咄嗟に防御の構えを構え直すが、時既に遅し。
俺の臍上からアバラのあたりを撫でた。
鎧と刃が擦り合わされ、俺の鎧が甲高い悲鳴を上げ、火花を撒き散らした。
「……知ってるか? ツインブレードの弱点を」
鍔迫り合いに持ち込み、俺は語りだした。
皮鎧の正面に蹴りを入れて鍔迫り合いを解除して、攻勢へ向かう。
倒れた敵の顔に向けて、遠心力を生かし、ハルバードを振るう。
当然、防御のために武器を構えるが意味はない。
「防御不可な場所が多く、攻めでは手数の多さから無類の強さを誇るが、防御面を見ると弱いこの上ない事だ」
ツインブレードの片方の刃が欠けた。
敵将の配下が声を上げた。
♦♦♦
「アレン様……」
「……藤花か……。どうした? 屋敷に籠って居てくれと言った筈だが……」
「そ、それが、姉上から密書が……」
暗部である忍びが伝えた、と補足を加え、藤花は俺に一つの紙を渡してきた。
「『光龍敵対派を抑え込むことは、病体の自分には難しく、四十万の葉桜軍を光龍へ向かわせてしまったことを詫びる』……。『追記。将の名は朱恩・真白。国内屈指の名称故、注意されたし』。直筆か……。無理をさせるな……。すまない」
「姉上は、自らの命を危険に晒してまで筆を取り、これを書かれたのです。どうか、その意図をお汲み取り下さい……」
「その通りだ。……ガゼフに早馬を飛ばせ!」
これは、光龍存続の危機と言っても過言ではない、異常事態だ……。
頼むぞ……。リシュアン……。




