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九拾九話 黒禽の勇者

「北部からの報告はまだか!?」

「申し訳ございません……」

 灯篭高原決戦から二日。

 俺は北部からの報告を待っていた。

 北部にアルトゥスが布陣しており、情報封鎖が行われている事は明白だが、国内での情報のやり取りまでもを遮断されるとは……。

 しかし、ここで何日も待たされるとなると火急を要する南部への救援が間に合わなくなる可能性もある。

 ラメセスを出陣させ時間を稼がせて入るが、横に長い領土からは続々と兵が呼び出されている。時間をかければかけるだけ敵の戦力は増大していく。

 ここで待てるのもあと一日……。

 しかし北部にもアルトゥスが出ている。一刻も早く救援に向かいたいのだが……。

「北部より伝令兵が……! 伝文を託し、その場で息絶え……」

「分かった。その伝文を見せろ」

 本陣兵から渡された血色の羊皮紙には俺が予想だにもしていなかった内容が書かれていた。



『アルトゥス、未出陣。待機中』



 あのアルトゥスが軍を動かす行動を一切取っていない……。

 情報封鎖だけを行い、北部を孤立させるだけさせて動かないだと……?

 何が狙いだ……。

 一体、何が……?

「ヴィクトル、北部で丸無の補佐をしろ。アルトゥスの動向を探れ。その際にここから無傷の五万を連れていけ」

 今俺が出来るのはこれくらいだ。

 不可解な行動を続ける彼をどう攻略するかの糸口を見つけてもらう。

「エランは引き続きここで炎獄への警戒。リンドールは俺と共に南下。南部への救援に向かう」

 とにかく、ここで待機するのは愚策中の愚策。

 素早く行動を開始することに越したことはない。



 ♦♦♦



 燃ゆる南海。

 実に我らの刃は光龍湖の最南端・雷嵐にまで届いていた。

 将も我らに歯向かった双子の兄弟はもうこの世にはない。

 二人とも、俺が殺した。

 あの残された方の顔ときたら、今思い出しても笑えてくる。

 兄の……スルール、だったか? が先に死んで、その後に激高したリヴァイルとかいう男の首を刎ねた。

 あの戦いは至福と狂乱の二言に尽きた。

 残る敵将、ラメセス・クフとかいう男の首も直々に俺が刎ねてやろう。

「出る準備をしろ。狩りの時間だ」

 黒光る重厚な鎧を鳴らし、俺は椅子から飛び降りた。

 重い音がして、地面が爆ぜる。

 ”狩り”とは、久々だ。

 いつもは王都にて力を蓄えている我々も真価を発揮するのだ。

 ああ、今からでも見えてくる。

 忌まわしい敵将の首を刎ね、絶叫する兵の顔が。

 美しい……。

 転がる生首を蹴り、敵兵に渡してやった後の感覚が。歓喜が!

 嗚呼、なんと美しんだろうか。

 マントを止めるための肩パッドには人の頭蓋骨を使い、脛当てには実際に人の脛の骨を用いるこの鎧の美しさ……。

 敵が見て畏怖する理由が俺には分からない。

 死臭がすると言われても感じない。

 そもそも死臭とはなんだ? 死体から香るのは美しく、とても良い香りじゃないか。


 バイザーを下ろして、敵の波に突入するショーテルや盾を持った兵が見上げてくるが戸惑いもなく、殺す。

 このような弱兵に手を掛けている場合ではない。

 他が奴を殺す前に俺直々に葬送してやらねばならない。

 それこそが運命の死であり、最も幸運で名誉ある死だ。

 私に殺され、土塊に返されるのが。

 俺に殺されるのは俺が認めた敵だけであり、神の名の下に認められた勇者だけだ。

 神は”勇”を示し、武威を天下に示すものだけに俺に葬られる権利を与えるという。

 神は俺に告げている。殺せと。

 かの男を。


 何? 俺の狙う首級はラメセスとかいう男のものではない。

 無論、この戦いでの討つべき最大の敵、リシュアン・レオンハルトのものだ。

 三日前にこの地に着陣し、俺と今相対している敵。



 弱小国家の総司令である分際で、超大国どもを敵にしている。



 そんな傑物だ。

 それを喰らってこその真の漢。

 俺は奴の頸を刎ね、この武威を天下に轟かす!

 今、この大陸で最も名の知れた凶将、リシュアン・レオンハルト討った人物ということで後世まで名の知れ渡る存在となるだろう。

 神にもこの名をしっかりと、刻み込む!



 翆玲三大神将が第一席、黒禽の勇者と呼ばれし男の名を!

 知れ渡れ!

 我が名はリヴァイアザートン・サラマンドラ!

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