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少女は、生まれ故郷に咲き戻る~異世界転移!?と思ったら、郷里でした~  作者: 室伊みゆ


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第六話 少女と森の家

見知らぬ世界で、一人きりになった時。

人は、何を支えにして前を向くことができるのでしょう。

不安や寂しさを抱えながらも、少女は小さな一歩を踏み出します。


莉愛が新たな世界で初めて見つけた「居場所」のお話です。


背後で白い光が静かに消えていく。

莉愛は家の中へと声を掛けた。


「突然お邪魔してすみません!あの......どなたかいらっしゃいませんか!?」


静まりかえった家の中からは、物音一つ聞こえなかった。


勝手に開いてしまった玄関扉に困惑しつつも、それ以上部屋の中に入るわけにもいかず、莉愛は何度か声を掛けた。



玄関の外では、夕闇がゆっくりと降りてこようとしている。

先ほどまでとは似つかわしくない森の様子に、言いようのない感覚が形を取りはじめた。


......なんだか嫌な感じがする......さっきと同じ森とは思えない......。


ポツリ、ポツリ、と雨が降り出してきた。

空に稲光が走り、雷鳴がとどろき始める。


「山の天候は変わりやすいというけれど、いきなりこんなに変わるなんて......。」


胸に巣くいはじめた心細さを誤魔化すかのように、ネックレスを握りしめた。


......さすがに野宿するのは危険だわ......。


「すみません、失礼します......!」


主のいない家の中に断りを入れ、強くなる雨を遮るように玄関扉を閉じた。



慣れた習慣で靴を脱ごうとするも、ふと立ち止まってしまった。


「......靴、脱ぐのかな。」


しばし立ち止まって考えるも、家の中を汚す訳にはいかないという結論に至り、靴を脱いで玄関脇に揃えて置く。



ひっそりとした家の中は外から見るほど古びてはおらず、

すっきりと整頓され、清潔に保たれていた。


玄関の右手には暖炉のあるリビング。

左手にはダイニングとキッチンが続いていた。


リビングの大きな暖炉の近くには、二人ほど座れるソファが置かれている。

壁には、狼(・)をモチーフにした紋章入りのタペストリーが掛かっていた。


......このタペストリーの紋章、見覚えがあるような......。


......どこかで見たような気がする。



莉愛は家主の帰りを待ちながら、リビングのソファにしばらく座っていた。

彩る花のない花瓶が、窓に打ち付ける雨を集めているようであった。


「誰か帰ってこないかしら......。」


ふと家の中を見渡すと、ダイニングの奥には階段があり、

外からは分からなかったが、二階があることに気がついた。


......こんなに待ってても物音一つしないのだから二階にもいないよね。


雷の音が消え、静かな家の中には、微かな雨の音が聞こえてくる。

規則的な雨の音は、次第に莉愛を眠りに誘った。




花々が咲き誇る庭。


柔らかな陽射しの中で、白銀色の髪の少年が微笑んでいた。


「見てごらん。こうやって魔法を使うんだ。」


少年の掌から、小さな光の蝶がふわりと舞い上がる。


「見てごらん。これがーー」


ガラスが割れるように夢が砕けた。


「お兄さまーー!」


飛び起きると、激しく鳴る心臓の音が聞こえてくる。


「......今の夢。」


どこか懐かしくて、胸の奥が温かくなる香りが記憶に蘇る。


「ーーえ。私......今、お兄様って言った?」


......お兄様って誰......。


思い出そうとするも、霧がかかったように何も掴めなかった。



ふと見慣れぬ周りの光景に心臓が再び音を立てる。

家の主を待ちながら、莉愛はソファで寝てしまっていた。


「私、あのまま寝ちゃったのね......。」


窓の外では、雨上がりの雫が森の緑を煌めかせていた。

家の中は相変わらず静まりかえっている。


「......よし。家の中を見てみよう。」


莉愛は胸の鼓動を聞きながら、一歩を踏み出した。




キッチンにはシンクにコンロ、焼き窯らしきものがあり、奥にはパントリーがあった。


パントリーの扉を開け、中に入ると、壁一面に数段の棚があり、所狭しと籠が並んでいる。


棚に置かれた籠を覗くと、大量の干し肉。


「こっちは何かしら?」


隣の籠を覗いてみる。


「調味料まである......。」



「こんなに......。」

「この量......家族が住んでいるのかしら?」




リビングの奥には洋室


「ここは客間、かしら?しばらくここを借りられたらいいのだけれど......」


階段の隣にはトイレとお風呂。

家の中はどこか西洋風にもかかわらず、意外にもトイレとお風呂は使い慣れた雰囲気だった。



軋む階段を上がると二つの部屋。

片方は完全に物置場のような状態で、見たことがないような道具や書物の山で埋め尽くされている。


莉愛はもう一方の部屋の扉を開けた。

「わぁ!とても素敵なお部屋。」


薄桃色と白を基調とした女性らしい柔らかい雰囲気の部屋だった。

窓からは家の裏側が見渡せる。


壁には、白い花に抱かれた神々しい女性の絵が飾ってあった。



「……この女性」


髪と瞳の色が、私と同じ。



「家族が住んでいるのかと思ったけど、ここの家主は女性なのかしら?」

「でも......なんだろう。人が住んでいるように感じられないのよね......」


きちんと暮らしの用意が整えられた箱の中で、人の温度だけが感じられなかった。



朝日が差し込む机の横の窓を開けると、ふわりとカーテンが揺れる。

森の木々が優しく揺れていた。


窓から外を見渡すと、昨日の川が近くに見え、家の裏の畑には緑が青々と揺れている。

「畑がある!何か育てているのかしら!」


莉愛は軋む階段をテンポよく降りていった。



二階の部屋の開け放した窓から風が吹き抜け、白いカーテンが揺れ、


机の上に置いてあった一枚の便箋が風に乗って棚の下に入り込んだ。


莉愛は気づかずに階段を降りていく。



玄関を出て、裏手にいくと、小さな家庭菜園があった。

畑の半分ほどには、見たこともない野菜がいくつも植えられ、艶々と実っている。


風が吹き抜け、ふわりと雨上がりの土の匂いが莉愛の頬をくすぐった。


その懐かしい香りは、老人と過ごした日々を思い起こさせた。


......大丈夫。また絶対にお爺ちゃんに会える。


反射的にネックレスを握りしめると、

莉愛は顔を上げ、今日一日を乗り越えるべく、一歩を踏み出した。




キッチンに戻り、家主がいつ戻ってきてもいいように謝罪の言葉を考えながら、パントリーの棚を開けていく。


......ひとまず家のお手伝いをして、働かせてもらおう。代わりに寝泊まりさせてもらえないかお願いしてみよう。


びっしり詰まった戸棚には、干し肉や固いパン、見たこともない調味料など沢山の食材が詰まっていた。


「そういえば、畑にレタスみたいな葉っぱがあったような。」


まだ見ぬ家主の手前、干し肉を使うのも気が引けた莉愛は、パンと野菜を拝借し、サンドイッチにしてダイニングで一人朝食を食べる。



「ふぅ。よく考えたら、昨日森の果物食べてから何も食べてなかったっけ。」

「緊張してお腹空いてなかったのね......。」


満たされたお腹をさすりながら、莉愛は古い本を手に取った。


二階の洋室に入ったとき、たまたま目に入った一冊の本。


......お爺ちゃんの庭で起きたこと。この家の玄関。それにこの本。


「ここに答えがある気がする。」


表紙には、以前老人から借りた本と、全く同じ文字が使われていた。




『精霊魔法学術本 初級』


著:アルディア帝国魔法学術院 名誉学長 オーガスト・レオニス・アルディア




莉愛はネックレスを握り、呼吸を落ち着けると、本を開いた。



『精霊魔法とはその名の通り、精霊の力を借りる魔法である。

精霊は人に力を貸す存在であるが、すべての精霊が人に力を貸してくれるわけではない。

精霊自らが主を選ぶこともあれば、生涯誰とも契約しない者もいる。

私たちは目に見えぬ精霊達に祈りを捧げ、助力を願い魔法を行使するのである。』


「......精霊魔法」


......お爺ちゃんの庭で起きたことも、この精霊魔法なのかな?


本を捲っていくと、著者の後書きが目に留まった。


『本書は精霊魔法を学び始める者のために記した。精霊は恐れるものではない。また、力ずくで助力を得るものでもない。真っ当な心を通わせれば、必ず答えてくれる存在である。』


「......なんだか、この人の文章って優しい。」


「でも......日本でそんなこと起こりうるのかしら。魔法なんて物語の世界だけの話じゃないの......?」



莉愛はふと、二階の部屋の本棚に並べられた本を思い出した。


『精霊契約論 入門』

『精霊図鑑』

『花妃神話』

『アルディア帝国史』

『初等魔法理論』


......どれもこれも作り物でしか存在しないタイトルだった。



”異世界転移”



頭の片隅で、考えないようにしていたワードがふと浮かんだ。


......そうだとしたら、今いるここは日本ではない可能性が高いわよね。庭の野菜も、パントリーの食材も見たことないもの。



怖い。


......玄関の扉が急に開いたのも魔法だったら、どれもこれもしっくりくる。



はやる鼓動を抑え、息を整えた時、

ふと、幼い頃老人に言われた言葉が浮かんできた。


「大丈夫じゃよ莉愛。ゆっくりでいい。焦らんでもいつか分かる時がくる。」


ーーそうだったね、お爺ちゃん。


「ゆっくり考えるね。」


胸元に手をあて、老人と話すかのようにネックレスに語りかけた。



......そういえば、本棚にあった本全部、このオーガストさんの著書だったけど、この世界の有名な方なのかな。

......今いる場所がこのアルディア帝国なら、文字も読めるし助かるんだけどな......


「いつか会えるかな。」




ひとしきり本を読み、頭を整理したあと、莉愛は日数を忘れないために、書き付けるものを探しに二階の洋室へと上がった。


窓の隙間から入り込む爽やかな風がカーテンを揺らしている。


机の引き出しを開けると、一通の手紙に視線が奪われた。


何故か手紙に引き寄せられるものを感じたが、そのままそっとしまい、隣に置いてあった羽ペンと羊皮紙に正の字で今日と昨日の日数分を書き込み、それを常に持ち歩くことにした。




夜の帳が森の静けさを迎え入れる頃。


莉愛はお風呂を借りて、昨日に引き続きリビングのソファで横になっていた。


「明日はお家の周りを見てみよう。」




その日も、この家の持ち主が帰ってくることはなかった。




第六話を読んでいただき、ありがとうございました。

見知らぬ世界で不安を抱えながらも、莉愛は少しずつこの場所での暮らしを始めました。

まだ分からないことばかりの世界。

けれど、少しずつ見えてくる小さな手掛かりが、彼女を導いていきます。

また次のお話でもお会いできるのを楽しみにしております。

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